軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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背後が山になっており、小高い丘から見下ろすような白亜の校舎は、さながら街を支配する城館のようだった。

つい背筋を正して、唾を呑む。そして背中の鞄に入ったままのローに語りかけた。

「ロー、お前は蜥蜴の魔獣だ。わかってるな?」

「うっきゅう!」

蜥蜴ってうきゅうきゅ鳴くのだろうか。不安に思いつつ、ローとは逆方向から顔を出したソテーにも声をかける。

「お前は鶏の魔獣だ。くま陛下とローを頼んだぞ」

「コケ」

「じゃあ、いくぞ」

わからないことを考えるのはあとだ。ここで生活すれば、現状も見えてくる。

地図をしまい、パンフレットを片手にジルは教員室の場所を調べる。挟んであったメモで、日時も確認した。校舎に入る前に見た時刻の時計は、待ち合わせの十分前だ。教員室に到着する頃にはちょうどいい時間になっているだろう。

「えっと……ロジャー・ブルーダー先生に挨拶すればいいんだな」

紹介状の宛先と同じ名前だ。ヴィッセルの紹介だと思うと少々警戒したくなるが、疑心暗鬼ばかりもよくない。そもそもジル自身、少々立場をごまかしているのだ。同じように、相手もヴィッセルにだまされている可能性がある。

(そう、わたしはラーヴェ帝国では学べない魔術を学びにきた。育ちはラーデア、クレイトス出身の母親譲りの魔力を持っているけど、父親はわからなくて、もう家族はいない設定)

今の自分の設定を胸の中で確認する。周囲は学生服を着た学生たちがジルを見て意外そうな顔をしていたが、最近大人たちに囲まれてばかりだったジルは同年代と呼べる少年少女たちの姿に少し嬉しくなった。

友達ができたらいい。

かつての副官だったロレンスみたいな腹黒はさけたいが――さあいざと教員室の扉に手をかけたところで、声をかけられた。

「お嬢ちゃん、迷子か?」

背の高い男性だった。学生服に似た制服を、涼しげに着崩している。動きやすさを重視しているのだろう。焦げ茶色の髪はばさばさだし飄々としているが、彫りの深い顔立ちはよく見ると端整だ。

だがジルがそれ以上に感じ取ったのは、洗練された魔力だった。

(……このひと、強い。エリンツィア殿下にもひけをとらないんじゃないか)

ラーヴェ帝国では魔力の持ち主は珍しい。さすが由緒正しきラ=バイア士官学校だ。

「ご両親は? お兄ちゃんお姉ちゃんが学校にいるのか?」

「あ、いえ! 迷子じゃありません。ロジャー先生をさがしていて……」

「ん? そいつぁ俺だな」

まさかの尋ね人だ。よくできた偶然もあるものだと、ジルはロジャーの前まで進み出た。

「そうとも知らず、失礼しました。わたしはジルと申します」

「えっ? お嬢ちゃんが?」

「はい、お世話になります!」

ぺこりと頭をさげたところで、ローとソテーも鞄から出てきて、一緒に頭をさげた。行儀のいい一頭と一羽を、ジルは紹介する。

「これがわたしの魔獣の、ローと、ソテーです。で、鞄の中に魔具のくまのぬいぐるみもあります、あとこれ紹介状です!」

ヴィッセルが用意してくれた紹介状を出す。だがロジャーは受け取らず、呆然としていた。

「……あの?」

「いや……確かに蜥蜴と鶏の魔獣だな。えー、ご家族……保護者は一緒じゃない……?」

あからさまに困惑しているロジャーに、保護者が必要なのかとジルは慌てる。

「いえ、家族は……ええっと、そう、兄がひとりきてますけど、仕事で忙しくて!」

そういうことにしておこう。さいわい、金の指輪も見えない。

ラーヴェ帝国から兄は仕事で、妹は留学でやってきた。咄嗟のでっち上げにしてはいい設定な気がする。

だがますますロジャーは顔をしかめた。

「そ……そう、か……じゃあ、本当にお嬢ちゃんが……?」

「はい。よろしくお願いします」

第一印象は大事だ。はきはき答えたジルに、ロジャーが突然、笑い出した。

「な、なるほど。ついに本格的に匙を投げたわけか、上は。……あーなんてこった」

「は、はい?」

「いや、悪い。お嬢ちゃんの立場でどうこう言えることじゃないよな。困らせるつもりはなかったんだ、さすがにこのやりように驚いただけで――こんな子どもになぁ」

「……そんなに子どもではないですよ。あ、ちょっと成長期が遅くて小さめなのは認めますが、そんじょそこらの学生に負けません」

少しおどけて言うと、ロジャーも口元をゆるめた。

「優秀な魔力の使い手なのはわかる。魔獣の様子からしてもな。今までの先生とは、確かに違う。……こうなったら、その見た目とのギャップに生徒達が一目置くことを期待するか」

違和感を覚えた。何か大事なところが食い違っていないか。嫌な予感がする。

愛想笑いのまま首をかしげたジルの前で、ロジャーが憐れみをまぜた微苦笑を返す。

「俺は歓迎するよ、ジル先生。よろしくな」

――せんせい。

握手の手を差し出されて、ジルの笑顔がそのまま固まる。

反射神経よろしくどういうことだと叫び返さなかった自分に、成長を実感した。