軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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よくもまあ、持ちこたえている。高台の茂みに身を潜めたカミラは、苦笑いした。背後で同じく気配を殺しているジークが小さく尋ねる。

「どうだ、敵の動きは」

「動きなし。こっちをあぶり出そうとしてるのかもね。リステアード殿下は? そもそも攻めたがる頃じゃないの」

「いいや、迎撃のみだそうだ。意外だな」

「そうねえ、この我慢強さ。ちょっと驚きよ」

実戦経験が浅く皇子様らしい言動が目立つ彼を所詮お坊ちゃまと内心では見くびっていたのだが、なかなかどうしていい指揮官だ。

そもそも数も補給も地の理も向こうが有利だ。竜帝がサーヴェル家の私兵を削いでいるが、圧倒的な数の差がひっくり返るわけではない。だが、きちんとリステアードはこれがナターリエが無事逃げるまでの時間稼ぎの撤退戦だと理解していた。だから相手を撃破することにまったくこだわらず、犠牲を最小限にひたすら逃げの一手である。特に、サーヴェル家の長男クリス・サーヴェルの動きを常に把握し、あちらに捕捉される前に逃げ出す徹底っぷりだ。しかもきちっとこのあたりの地形を偵察済みという有能さである。

相手との相性もよかった。ここまで攻めてこない相手と戦ったことがないのか、クリスのほうの指示が雑で、サーヴェル家の連携があまり見られない。

「竜が使えれば勝てたかもな、この戦」

「時間をかければいずれ負けるわよ、早く帰りた――」

望遠鏡で周囲を見ていたカミラは、敵の本営で見えた姿に息を呑む。急いで望遠鏡をしまい、移動を始めた。きちんとついてきながらジークが尋ねる。

「どうした、見つかったか」

「違うわ、あの狸坊やがいた。きっと何かしかけてくるわよ」

「マジ、か――」

ジークの声は途中で途切れた。空に現れた魔法陣のせいだ。クレイトスのあちこちにあるという、空を守るための対空魔術。

それらが、一斉に地面に向かって魔力を吐き出した。

「なっなんだこれ! いきなり一斉攻撃すぎるだろ!」

「アタシたちをあぶり出すつもりなのよ! リステアード殿下と合流するわよ!」

走り出したカミラに、ジークも舌打ちして続く。

上から少し離れた場所を撃たれているだけで、ゆれは響くが攻撃は当たらない。それはそうだろう、狙いなどさだめていないのだ。

ただ、どこにいるかわからないから、片っ端から面で攻撃していって移動させる。費用対効果など無視、あちらに物量があるが故の質より量な作戦だ。誰がそんな作戦を始めたのかは明白である。

「やっぱ殺しときゃよかったな、あの坊主!」

「ほんとにね! リステアード殿下!」

厳しい顔をしたリステアードが振り向いた。

「あぶり出すつもりだな、僕らを」

「どうする、もっとさがるか」

「ああ。だが限界がある。ハディスとこれ以上離れるわけには――」

「見つけた」

周囲を囲む木の上から声が響いた。リステアードが顔をあげ、槍を構える。

「全員、先ほど撃たれた場所へ行け! 対空魔術は時間をあけなければ連続で撃てない!」

「ああ、やっぱアタマいい奴だったんだ」

上から魔力と一緒に降ってきた剣戟を、リステアードの一撃がさばいた。その姿をとらえたカミラも弓を引く。だが当たらない。

「クリス・サーヴェルか!?」

「キライなんだよ、アタマいいやつってさ……まぁいいや、もう見つけたし」

ぼそぼそと声が聞こえるがどこからかわからない。リステアードとジーク、カミラと三人で背中を合わせて構える。だがいきなり足元に黒い塊のような人影が出てきた。

「ジーク!」

振り回された武器は、速すぎて見えなかった。だが大剣で受け止めたジークごと、容赦なく吹き飛ばす。そして弓を構える前にカミラの腕を切り裂いた。その横からリステアードが槍先を繰り出すも、まるで手品のようにその場から消えて、次には上空に浮いている。

振り下ろされる武器は短剣。狙いはリステアードだ。

「お前みたいなのを殺せば、だいたい後は烏合の衆――」

だめだ、間に合わない。だがカミラが想像した未来を、炎が焼いた。

「生きてるか、リステアード!」

頭上から聞こえた声に、リステアードが呆然としたあと叫ぶ。

「あ、姉上! どうしてここにっ……今、僕ごと焼こうとしませんでした!?」

「ローザはそんな失敗はしない!」

「前髪ちょこっと焦げましたが!? ……姉上、上です!」

がきんと甲高い音を立てて、エリンツィアの槍がクリスの短剣を受け止めた。それでやっとクリスの顔が見える。全身黒い衣装をまとった黒い塊のような男が、ぐしゃぐしゃに伸びた黒い前髪の隙間から、紫色の目を持ち上げた。驚いているようだ。

「素早さはあるが、攻撃が軽いな」

エリンツィアの槍が半円を描き、クリスを弾き飛ばした。だがクリスはくるりと回って、木の枝の上に立つ。

エリンツィアもローザから飛び降りた。

「リステアード、ここはわたしが引き受ける。お前は部隊の立て直しと、ナターリエを頼む」

「ナタっ……なんでつれてきてるんですか姉上!」

「色々あったんだ。ジルもいるぞ。ハディスと結婚するそうだ」

そのひとことに、ふっとカミラの体からこわばりがほどけた。とけて、気づく――ずっと緊張していたのだ、自分たちは。命のやり取りよりも、小さな主君が何を選ぶかを。ジークもはあっと大きく息を吐き出して、立ちあがる。

「と、いうことで私は、君の妹の夫の姉――どう呼ぶんだ、こういう関係は?」

「は? アンタ、女じゃないだろ」

リステアードが凍り付く、という非常に珍しい光景をカミラは目撃した。

木の上からぼそぼそと、それにしてはよく通る声で、クリスがつぶやく。

「信じられない。本気じゃなかったとはいえ、俺の攻撃を片手で受け流すなんて。絶対女じゃない……」

「……ほう」

ばきりとエリンツィアが拳を鳴らした。さすがに状況を把握したカミラも、頬を引きつらせる。

「大変参考になる意見だ。皇女らしくない、女らしくない、腕力馬鹿だとかは言われ慣れているが……まさか、正面から言ってくる命知らずがいるとは」

エリンツィア皇女は優柔不断と言われるほど優しく、大らかであまり怒ったりもしない。

だが、逆鱗はあるらしい。

「いい度胸だ。お前が軟弱すぎるだけだと教えてやる」

「あ、わかった。お前、実はゴリラだろ」

「ぜ、全員ここから引き上げるぞ! 逃げろ!」

リステアードに命令されるまでもない。噴き上がるエリンツィアの魔力を背に、一目散にカミラたちは逃げ出した。その間にも、空からカミラたちをあぶり出すための攻撃がくる。

「もうっ毎回なんでこうなるわけアタシたち!? 完全にぐちゃぐちゃじゃないの!」

「――おい、どうせだ。元凶狙うぞ」

「はァ? リステアード殿下の命令、聞いてなかったの。アタシたちは」

「竜妃の騎士だろ」

端的な答えに、カミラは目を丸くしたあと笑う。確かにそうだ。

ずいぶんおとなしいと思っていたが、ジークもやはり気落ちしていたのだろう。

「そぉね。まずはあの狸坊や? ジルちゃんをたぶらかしてくれちゃって」

「撤退理由が必要だろう、あちらさんにも。ここで死ぬならそれまでだ」

示し合わせて、方向転換する。遠くでものすごい爆音が響いたが、かまわない。きっと主君が戦っているだけだ。