軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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魔術障壁の攻撃は激しかった。外からの助けがきたら終わることをよくわかっているのだろう。あるいは街の住民を逃がしてはいけないことを、だ。

元々リステアードは調査の名目で出たので、竜騎士の人数は小隊分もない。それで縦横無尽に空を奔る魔力の攻撃をかわし続けるのだ。竜騎士の腕はもちろん、竜が持つ体力や能力が、時間の経過とともに如実に表れ始めていた。

遠くで竜の悲鳴が響く。あれは緑竜だ。既に茶竜や斑竜も墜ちている。

「三番、墜ちました! 援護に向かいます!」

「墜とされるなよ!」

残っているのは緑竜ばかりだ。いつまでもつか。かく言うリステアードの手綱も、汗ですべりそうになっている。乗っている愛竜が気遣うように鳴いた。

「大丈夫だ、ブリュンヒルデ。僕とお前さえ残っていれば負けではない!」

今度は近くで悲鳴が響いた。衝撃で緑竜の上から竜騎士が落ちていく。間の悪いことに、墜ちたその先に攻撃が飛んできている。リステアードのわずかな動きを読んだブリュンヒルデが一直線に飛び、落ちた竜騎士をリステアードの腕が抱き留めた。

だが、その無防備な横を狙って、魔力の光線が一直線に飛んできた。よけられない。

(ブリュンヒルデなら耐えられる!)

金目の赤竜だ、あとはリステアードが耐えるだけ。手綱を握りしめ、衝撃に耐えようとしたとき、その攻撃を焼き払う炎が飛んできた。

隊列を組んで並んで放たれた竜の炎だ。綺麗に面を作ったまま、魔力の攻撃を一掃する。

(援軍か!? どこから……)

一瞬だけ攻撃のやんだ空を、見事な隊列を組んだ竜騎士団が飛ぶ。その先頭にいる姿に、リステアードは驚いた。

「あ、姉上!? なぜ」

「まだまだだな、リステアード。あんな程度の魔術障壁に手こずるとは」

不敵に笑うエリンツィアに、リステアードはつい反論する。

「簡単におっしゃるが、あれはクレイトス本場の対空魔術ですよ」

「だからどうした」

普段は優柔不断なところもある姉は、戦場でだけは迷わない。

「お前たちは街の救出へ向かえ。あと少しでヴィッセルの軍が追いついてくる、急げ! ひよっこ竜騎士団にお手本を見せてやる」

ひよっこ。言い返したいが、また魔術障壁が光り始めた。

だがひるむ様子など見せず、むしろ楽しそうにエリンツィアが剣を引き抜く。

「ノイトラール竜騎士団、いくぞ! 散開、高度をあげろ!」

三日月型に展開した竜が、螺旋を描いて上空へ昇っていく。雲を突き破るそれを追って障壁の攻撃が上空へあがっていった。そうすると攻撃が自然と太く一本にまとまっていく。

頂点でエリンツィアの赤竜が――ローザがくるりと宙返りをした。と思ったら、直行下を始める。

魔法障壁ぎりぎり、一点集中で魔力を焼く竜の炎が放たれ、半分が吹き飛んだ。

数分にもみたない出来事だ。息を呑んでそれを見ていたリステアードは、我に返る。

「――っ行くぞ、あとはあちらにまかせろ! 負傷者の援護と、街の住民避難だ!」

「い、いいのですか! まだ魔術障壁は残って――」

「撃ち落とされれば気分がいいくらいだ!」

リステアードの負け惜しみに、部下たちが苦笑いを浮かべる。知らず唇を噛みしめていたリステアードは、ふっと途中でほどく。

これからだ。これから、自分たちは、この国は、きっと強くなる――それを約束するように、頭上から美しい魔力の矢が降った。

少女が泣いている。

花冠をかぶった少女が、泣いている。砕け散った恋を前に泣いている。

妃の冠を戴いた少女が、泣いている。貫かれた愛の痛みに泣いている。

あなたはだあれ? またあの男に恋をしたの。凝りもせず、愛を解さないあの男を。

(そんなことない。陛下は、わたしを好きだって言ってくれた。変わってくれた)

金の指輪は? あれがなければ、戦えないでしょう。

(大事なのは指輪じゃない。助けなきゃ、陛下を。約束した。ひとりぼっちにしない)

そう。そうね、愛はそういうものだわ。諦めてはいけない。

頑張って、新しいわたくし。可哀想な、捨てきれない恋のかけら。そしてどうか、あの男を――決シテ、

はっと目がさめた。

「……なんだ、今の……」

ジルはこめかみのあたりを押さえながら起き上がる。地響きと爆音が響いて、我に返った。

「どこだ!? 竜妃の神、器……」

見あげた場所にもう像はなかった。最初から何もなかったように綺麗に消え失せている。

そのかわり、手のひらに何かの感触がある。知らず握りしめた手のひらを、ジルはおそるおそる開いた。

赤と青の、宝玉があった。

「……」

綺麗な宝玉だ。それはわかる。ただの綺麗な宝石ではないこともわかる。

だがしかし。

「……ど、どうすればいいんだこれ……剣でも槍でもないなんて、わ、わ、うわっ!?」

突然、宝玉が光った。ぐにゃりととけるようにして広がり、形を変えていく。剣に、あるいは槍に――ジルが思い浮かべた形のままに。

「す、すごいなこれ!? ひょっとしてなんにでもなるのか……さすが竜妃の神器!」

感動したジルは立ちあがり、崩壊しかかった神殿の屋根の上に飛び乗った。

何かの攻撃に成功したのか、街を覆っていた薄い魔術障壁が半分消し飛んでいる。

「ジルちゃん!」

「カミラ、ジーク!?」

「つかまれ!」

斑竜に危なっかしく乗った部下の手を取ると、宙に浮いた。

「お前たち、どうしてここに。竜に乗れたのか!?」

「エリンツィア皇女に引きずってこられたあげく、突っこめって命令されたのよ!」

「浮く、落ちる、前に進む、それ以上できないからな!」

「足場になれるんだな、十分だ!」

「そういう発想!?」

まだ竜が飛びかって攻撃を引きつけているが、障壁がなくなったところから避難が始まり、救出のための竜がやってきている。そちらに飛んだ攻撃を叩き落としたハディスが、背後を取られて地面に激突するのが見えた。それを追う横顔に、ジルは目を細める。

見覚えがあった。書状や魔力の気配から、ただ者ではないと思っていたが。

「クレイトスの南国王……!」

「おい、それってクレイトスの国王だろ!? なんでこんなとこに」

「お前たちは神殿の連中を助けてやれ、ローも残ってる」

ジルの手の中で宝玉が弓に形を変える。金に輝く、黄金の弓。

「させるか!」

ハディスにとどめを刺そうとする不届きな敵に目がけて射る。

無数の魔力の矢が、夜明け前の空に降り注いだ。