軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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サウスはお愛想ではなく本気で言っていたらしく、その翌日もハディスは呼ばれて神殿にパンを運んだ。発言内容はともかく将軍をかばったことが兵たちからの好感度をあげたらしい。

パン屋と呼ばれながら、ハディスは兵たちと顔見知りになっていった。

「なんかおかしな関係になってないか。っていうか皇帝ってばれてないのどうなんだ……」

「皇帝のときはほとんど無視されてたしねー」

「笑顔で言うな俺のほうがつらい。……で、お前どうするのこの状況?」

どうしようか。ラーヴェの質問に、ハディスは考えこんでしまう。

今日明日にもジルが追いついておかしくない頃合いだ。サウス将軍たちが神器の引き渡しを拒んで小競り合いは起こるかもしれないが、ジルなら問題なく勝つだろう。ジルがラーデアの反乱を止め、竜妃の神器を手に入れれば、ハディスの目標は達成される。そのあと叔父に忠誠を誓うサウス将軍たちがどうなろうが正直、知ったことではない。

そう思っていたのだが。

「……皇帝陛下に忠誠を誓えば、助かるかもしれないのに」

「なんだ、またその話か」

ぼそりとつぶやいたハディスに、顔なじみになってきた兵のひとりが笑う。最初は場を凍り付かせたハディスの発言だが、慣れてきたのか笑い流されるようになっていた。

「いいんだよ、新しい帝国軍はできたんだろ?」

「俺たちはゲオルグ様の命令しかきかないって決めたんだ」

その返事を聞くたびにハディスは顔をしかめてしまう。なのに兵たちは笑うのだ。

「それより今日もうまいぞ、このパン」

「サウス将軍の分も取っておいてやれ。補佐官殿とクレイトスの客人の接待が終わったら絶対言い出すぞ、今日のパンはどうしたって」

「今日は神殿にクレイトスからのお客さんがきてるの?」

城から神殿へ向かう荷台に乗るのを止められ、城のほうにパンを運んでくれと言われたのはそのせいか。ハディスの確認に苦い顔で兵がうなずく。

「ああ。補佐官殿に押し切られてな、昨日ご到着なさったよ。だが、護衛と客人を含めてきたのは二十四人。対してここには三千の帝国兵がいる。警戒するほどじゃないさ」

「クレイトスからのお客さんってどんなひと?」

「さぁな。でもありゃ貴族だ、いいもん着てたし。それについてきた護衛が全員魔術士――」

爆音が会話を遮り、城をゆらした。びりっと全身で感じた魔力に、顔をあげる。

(おい、ハディス。今の魔力、まさか――)

ラーヴェに答えるより先に、周囲が騒がしくなった。

「なんだ、事故か!?」

「おい床が、光って」

脅えた声に、ハディスも目をおろす。床に魔力が奔り、幾重にも魔法陣を描き出した。

(捕縛の魔術か)

瞬間、全員が稲妻に打たれたような悲鳴をあげた。一瞬で気絶した者もいる。

城全体を覆う、かなり高度な魔術だ。魔力に耐性のある者だけがなんとか意識を保っているが、足元から体の中に走る魔力の攻撃に全身をしびれさせ動けないでいる。

目を細めたハディスは一歩踏み出して、魔法陣を描く光の線を踏んだ。

ばちっと音がして魔法陣がほどけた。同時に悲鳴をあげた人物がいる。この術をかけた魔術士だ。術を弾き返された衝撃だろう。

すぐさまハディスはそばの兵の剣を勝手に拝借して床を蹴り、魔術士の胸を刺し抜いた。同時に逃げ出した別の魔術士の頭に、剣を投擲して絶命させる。

「パ……パン屋、お前……」

「クレイトスからの襲撃だ」

皆が息を呑む気配がした。刺し殺した魔術士の血を踏み、ハディスは近くの兵に尋ねる。

「神殿に向かわず城に残ったクレイトスの魔術士はどれくらいいる?」

「こ、こいつと、さっきの奴くらいで……ほ、ほとんどは神殿に」

「サウス将軍も神殿だったな。ついてこられる者はついてこい。何人かは救護に残れ。まずは現状を把握する」

命令して歩き出したハディスに、顔を見合わせながらも、わらわらと数名がついてくる。

「あ、あの客人が攻撃してきたのか? たった二十人程度で!?」

「サウス将軍も言っていただろう。クレイトスの高位魔道士なら大隊をつぶす奴もいる」

「おい、あれ!」

外に出ると神殿の方角から煙があがっているのが見えた。それだけではない。

軍旗だ。サウス将軍が持ちこんだのか、そもそもあったものか――ラーヴェ帝国軍を示す黒地に竜の意匠がほどこされたもの。

それを否定するように大きくバツ印をつけた軍旗が、神殿のほうに掲げられている。

「なんであんなものが!? 攻めてきてるのはクレイトスだ、おかしいだろう!」

「クレイトスからきているのは客人だ。軍じゃない」

ハディスの答えに、泣き出しそうな顔をした兵が唸る。

「お、俺たちがラーデアで蜂起したように、見せかけるためか……!」

「どうするんだ、このままだと帝都から帝国軍が反乱を鎮圧しにくるぞ! 実際はクレイトスに攻められているのに!」

上空に浮かび上がった魔法陣が、兵の混乱も騒ぎも無慈悲に遮った。先ほどの魔術を思い出したのか、全員の動きが止まる。

「な、なんだあれ」

「ま、また魔術か。まさか、街を――」

「ラーヴェ、くるぞ!」

答えより先にハディスの手に天剣が現れた。

ハディスは地面を蹴って空に飛び、天剣を横にして突き出す。

ものすごい勢いで魔力の矢が振ってきた。一撃一撃は大したものではないが、範囲が広い。

すり抜けた矢が街のどこかに落ちた。舌打ちしたハディスは結界の範囲を広げる。

『ハディス、こりゃただの脅しだ、魔力を使いすぎるな!』

わかっている。だがこの一手を押さえられるかどうかは今後の士気にかかわる。

多少魔力を食うが、魔法陣を壊したほうが早いかもしれない。そう思った瞬間、矢が止まった。魔法陣が標的を見つけたように模様を変える。

(対空魔術に切り替わった?)

眉をひそめたハディスの眼前で、魔法陣が街の外ヘ向けて攻撃を始めた。そのまま何かを追うようにして攻撃が外ヘ向けられる。

『ローの気配がする』

ハディスの手の中で天剣の形を保ったままラーヴェが教えた。ハディスは口元だけで笑う。

「ってことは僕の可愛いお嫁さんがきてくれた?」

『さあな。今、他竜への指示でパニック起こしてるぞあいつ。話しかけるなって』

「他の竜も連れてきてるのか。さすが僕のお嫁さん」

だが簡単に感動の再会とはいかないようだ。動揺と恐怖と不安の入り交じった街に、ハディスはゆっくりと足をおろした。