軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24

フリーダにふかふかのハディスぐまはとてもよく似合う。

安心して、ジルはここへきた内容を切り出すことにした。

「もしよかったら、リステアード殿下が帰ってくるまで、フリーダ殿下が持っててくれませんか? くま陛下」

「え……でも……竜妃殿下の、大切な……」

「わたしのことはジルとお呼びください。きっと、くま陛下はフリーダ殿下を守ってくれます。わたしも今、身動きがとれないので……フリーダ殿下を守るこれ以上の手段がなくて」

真正面からヴィッセルに刃向かったのだ。何かあれば、リステアードの人質としてフリーダは容赦のない仕打ちを受けるだろう。

これから何が起こるか正直わからない。だからこそ、お守りを渡しておきたいと思って、ジルはここにきた。

「よかったらソテーと一緒に。くま陛下とソテーはいつも一緒なので」

黙って少し考えこんだあと、フリーダが顔をあげて出入り口の兵士を見た。

「さがりなさい。皇女命令です」

「そういうわけには」

「……あなた、お名前は? どこの方? 教えてください」

皇女の質問に見張りの兵がひるむ。そこで勝負はついたも同然だった。

見張っているという形は取りたいのか、扉を少しあけたまま廊下に兵が出て行く。あくまでジルたちがどう行動するか見張れというのがヴィッセルの命令なので、そんなに厳しい監視は求められていないのだろう。

だがそれにしても、拳すら使わず兵を退散させた皇女の手腕は鮮やかだ。

「フリーダ殿下、すごいですね……!」

「わたしは、ぜんぜん……ナターリエおねえさまとか、エリンツィアおねえさまはもっとすごい、から……リステアードおにいさまも……あの……あのね、ジルおねえさま」

ジルおねえさま。

なかなか破壊力のある呼称に、ジルは一瞬固まったがすぐに気を取り戻した。

「な、なんでしょう」

「謝らなきゃ、いけないの……ローの、こと」

その名前には、さすがのジルも動揺を隠せなかった。

フリーダがうつむき、小さな声で続ける。

「ナターリエおねえさまは、わたしにローを、ちゃんと預けようとしたの……『この子は王様だから、安全なところに』って……」

息を呑んだ。ナターリエはローが金目の黒竜、竜の王だと気づいていたのか。ジルの疑問を肯定するように、フリーダはこくりと頷く。

「わたしは、ぜんぜん、気づいてなくて……びっくりして……咄嗟に言っちゃったの……ナターリエおねえさまが、つれていってって……りゅ、竜神ラーヴェさまの、ご加護があるようにって……だ、だって……心配で……」

震えだした声と小さな背中にジルは慌てて寄り添う。

「フリーダ皇女殿下」

「お、おにいさまに、怒られるかもしれないって、思ったけど……でも、でも……お、おねえさまひとりきりなんて……置いていくなら、わたしは知らないって、物置に、隠れて……ナターリエおねえさまは悪くないの……悪いのは、わたしなの……! ごめんなさい……!」

ぎゅっと目をつぶったのは、きっと涙がこぼれないようにするためだろう。震えて糾弾を待っている小さな皇女に、ジルは静かに尋ねる。

「ローは、ナターリエ皇女につれていかれるの、嫌がってましたか?」

目をあけたフリーダは、ふるふると首を横に振る。

「じっと……してた……」

「じゃあ、あの子は自分で行くと決めたんだと思うんです」

逃げ足の速い子だ。たとえ飛べなくても、本当に嫌なら何がなんでも逃げてくるだろう。何せ、ハディスの心だ。

「だから、大丈夫ですよ。あの子がナターリエ皇女を守ってくれます。王様ですから」

不安と期待をまぜたフリーダの目に、ジルは力強く頷き返してみせる。フリーダは少し鼻をすすったあとで、つぶやいた。

「……その……えっと……おにいさま……も、そう、思ってる……?」

「リステアード殿下ですか? それはもちろん」

ぷるぷるっとフリーダが首を横に振って、上目遣いでおずおず質問し直した。

「……ハディス、おにいさま……お、おこって、ないかなって……」

ハディスおにいさま。

ジルおねえさまよりも胸を射貫く呼称だ。

「怒ってるわけがないですよ!」

ジルはがしっとフリーダの両肩をつかむ。

「今度! ぜひ! 本人の前でそう呼んであげてください! クッキー食べ放題です!」

「ク、クッキー……?」

「面会時間は終わりですよ、フリーダ様」

戸口からの穏やかな声にフリーダが身をこわばらせる。振り向いたジルに、ヴィッセルがふわりと笑った。

「ジル・サーヴェル嬢。部屋にお戻りを」

ぎゅっとフリーダがジルの袖をにぎったが、ジルは微笑み返してその手をほどいた。

「大丈夫ですよ。フリーダ殿下。ソテーとくま陛下をお願いしますね」

目を合わせたフリーダは、不安げだったが、ハディスぐまを抱いたまましっかりと頷き返してくれた。ちらりとテーブルの上を見ると、まかせろと言わんばかりにソテーもきらりと目を光らせている。

それを戸口で見ていたヴィッセルが、肩をすくめた。

「ぬいぐるみはともかく、鶏をプレゼント? クレイトスの戦闘民族はよくわからないことをする」

「面会前にお願いはしておきました。何か問題が?」

「貴女がおとなしく部屋に戻ってくれさえすれば、何も」

そう言って何を考えているかわからない笑みを返したヴィッセルは、フリーダの部屋の扉を閉じた。