軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12

「もう終わったことだ。君が気にすることじゃない」

「で、ですが……陛下は、何もしてないんですよね? 何も悪くないのに、そんな」

「大丈夫だ。兄上がだいぶ周囲を説得してくれて、今は一応でも、平穏にすごせている」

「そうなん……ですか?」

「ああ。兄上はラーヴェのことも見えないけれど、信じてくれているし」

嬉しそうに言うハディスに、ジルは冷や汗をかきたくなった。

(わたしの記憶が確かなら、お前はこれからその兄上や異母兄弟を反逆やら内乱やらで処刑して回って、ひとりも残らないんだが……!?)

しかも、クレイトス側にこれから情報を流すのはヴィッセル皇子だ。

「もちろん全部がうまくいってるとは言わない。兄上だって本音のところではわからない。他の兄弟にもさけられっぱなしだ。だがいつか落ち着いて話せる日がくると、僕は信じたい」

まさか、そうやって信じよう信じようとして、この皇帝は裏切られ続けるのか。

そして最後に絶望するのか。

(それ、は……)

まだ何も、確定ではない。だから壁を殴りつけたくなるような怒りだとかやるせなさをこらえて拳を握り、話を変える。

「……クレイトス王国では、ここ数年、ラーヴェ帝国に目立った動きがなく、不思議がっていました。その原因は、陛下の呪いにあったということなんですね」

「そうだな。毎年皇太子が死ぬせいで、優秀な人間もだいぶ逃げてしまった。皇帝になってからはとにかく政情の安定につとめた。だが何せ、呪われた皇帝扱いだ。兄上がおさえてくれてはいるが、誰かが少し怪我をしただけでも僕の呪いだと騒がれるし、一方で皇太子の連続死は最初から僕の仕組んだことじゃないかと疑われている」

辺境に追いやられ忘れ去られた皇子に、そんなことは無理だ。

だが、恐怖は理屈など簡単に押しのける。

「しかも、兄上がまた出来のいい御方で人望もあるから、そちらを皇帝に据えようとする動きがここ最近強くなっている。兄上の意思に関係なくね。喉元過ぎれば熱さ忘れる、というやつだ」

「……では先の船の襲撃も、ヴィッセル皇太子というよりその周囲が主犯でしょうか? もしくは他のご兄弟……」

「皇族なら次々に死んでいく身内の姿を目の当たりにしている。そう簡単に忘れられる恐怖ではないと思うんだが」

「ならまずはベイル侯爵のみを疑うべきですね……」

確かにそんな状況で皇族がハディスを積極的に廃しようとするかと言われたら、考えにくい。

「すまない」

考えこんだジルに、ふいに陰のある顔でハディスが言った。

「僕が呪われているというのはこちらでは有名なんだが、クレイトス王国出身の君が詳細を知っているとは限らなかったな。結婚前に説明すべきだった……とにかく浮かれていて」

「どこまで浮かれてらっしゃったんですか……」

「だが……もし結婚前に説明していたら承諾してもらえなかった可能性が高い。つまり言わなくて正解だったのでは……?」

真剣につぶやいたハディスに、ラーヴェがしかめ面になる。

「お前そういうこと思ってても、馬鹿正直に言うなっつってるだろ」

「そうなのか?」

「陛下は黙っていたほうがかっこいいと思います」

失礼な本音なのだが、ハディスは嬉しそうな顔をした。

「なら気をつける。――とはいえ、呪いに関してはもう心配しなくていい。もう君がいるのだから起こらない」

「……どうしてその話に、わたしが?」

「詳細ははぶくが、要は竜帝に妻がいないと起こる呪いだ、と考えてくれればいい。ラーヴェの祝福を受けた花嫁がいれば、おさまることなんだ」

「だったらさっさとご結婚なさったらよかったのでは……」

ハディスは十九歳、しかも皇帝だ。花嫁候補など引く手あまただっただろう。素朴な疑問だったのだが、ハディスは苦笑いを浮かべた。

「言っただろう。僕は辺境の皇子だった。食べ物を与えず閉じこめても飢え死にもしない、化け物だぞ? 接触したがる人間などいない」

しまった、と思った。だがもう口から出た言葉は戻らない。できるのは謝罪だけだ。

「……申し訳ありません、考えもなく……」

「気にしなくていい。そもそも、ラーヴェが見えなければ祝福も受けられない。たとえ最初から皇太子として遇されていたとしても、ラーヴェが見える魔力の高い女の子なんてそうそう見つからなかっただろう」

どうしてジルが歓迎されたかわかってきた。ハディスの浮かれ具合も、やたらとジルに好かれようとする理由も。

(つまり、そばにいたのはラーヴェ様だけで、ずっとひとりぼっちだったのか)

幸せ家族計画、なんて馬鹿馬鹿しい単語が今になってずっしり重みを増す。

「……陛下は理不尽だとは思われないのですか。その……ご家族や国や、周囲に」

「なぜ? 僕は竜神ラーヴェの生まれ変わり。皇帝になるべくして生まれ、そうなった。彼らは守るべき僕の民であり、家族だ。それを否定することは、運命に敗北するということだ」

ゆっくりと浮かぶ皇帝の微笑は美しく、誇りに満ちていた。

「ラーヴェがいる。今は君もいる。負けるつもりはないよ」

未来に挑む瞳に、突然、まだふさがっていない傷をひっかかれた気がした。驚いてまばたきを繰り返す。

(いや、いくらなんでもそれは違うだろう。落ち着け。この話をまとめると、陛下がわたしと結婚したがった理由は、呪いをおさめたかったからだ)

そう考えると合点がいった。ついでに希望が見える。

「では、ひょっとして結婚相手は十四歳未満という条件もその呪いの関係でしょうか!?」

「いや、絶対条件はラーヴェが見えることで、年齢は安全策というか、ただの理想かな」

聞くんじゃなかった。