軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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自分の知らないところで、知らない人間が様々な思惑を巡らせる。それが世間であり政治でもあるだろうが、いささか自覚が足りなかったと、ジルはひそかに反省した。

(絶対、わたしが苦手なやつだ)

できるだけ外に出るな、目立つな。そういった周囲の忠告が有り難い助言だったとわかる。

「今は竜妃も奥に引きこもってて表立ってないから静かだけどね。それでも情報収集は怠ってないはずよ」

しかし、ここまでくると後宮が諜報部隊のように思えてきた。黙っているジルを和ませようとしたのか、ナターリエが笑う。

「そんなときに私たちまで竜妃の味方をしようものなら暴れ出して死人が出るわ」

「えっ後宮のお妃さまって意外と腕っ節が強いんですね」

びっくりしたジルに、ナターリエが呆れた顔をする。

「なんで腕っ節なのよ。毒殺で足の引っ張り合い、事故死で暗殺、濡れ衣で処刑でしょ。後宮のお家芸じゃない」

「……。腕っ節を競うわけじゃなくて?」

「競うのは皇帝の寵愛でしょ。笑顔で相手を蹴落とすのが後宮の醍醐味よ」

「醍醐味なんですか……怖いところなんですね、後宮って……」

人間不信になりそうだ。ある意味、戦場よりも過酷ではないだろうか。

(はーそういうのもあるのか……大丈夫かな、わたし)

まあ、最終的には殴れば解決するかもしれない。深く考えるのはやめることにした。きちんと竜妃になるほうが先だ。

「逃げた帝国兵も不穏な動きをしてるんでしょ。今は幼女趣味皇帝の地盤強化が最優先よ。竜妃を立てるための根回しなんて後宮を刺激するような真似は絶対やめるべき。幼女の侍女を用意してるってことは、まだ竜妃をまっとうなやり方で排除しようとしてるんだから」

「ええと、それは、陛下に十四歳未満の女の子をあてがう作戦で……?」

「そう。なのにもし私たちまで竜妃と仲良くしてみなさいよ、焦った馬鹿がどう動き出すかわかったもんじゃない。非公式のお茶会でもなぜかすぐ知れ渡るんだから、後宮では」

「でも……竜妃様が、ひとりぼっちで、さみしい、かも……」

ぎゅっとぬいぐるみを抱いて、フリーダがか細く反論する。それ以上にきっぱりとナターリエは言った。

「竜妃のためにもよ。十一歳なんでしょう、まだ。……暗殺されるには、早すぎるわ」

しんみりした空気につられそうになって、ジルは我に返った。

(いや、暗殺されそうになってるのはわたしか! ……なるほど、心配されてるのか)

仲良くしたら、十一歳の竜妃が権力を持つ前に葬られてしまうのではないかと、心配してくれているのだ。だから関わらずにすませようとしている。

(うーん、これは……竜妃だって今は名乗らないほうがいいかも……?)

今の状況で後宮まで敵に回すのは確かにまずい。正直、ジルは暗殺されない自信があるが、このふたりが狙われる展開もあり得るだろう。そうなったら厄介だ。

そう――それこそかつての未来で、ふたりとも暗殺されたとジルは思っている。

第二皇女ナターリエは、クレイトス国内で。

第三皇女フリーダは、ラーヴェ帝国内で。

(フリーダ殿下は偽帝騒乱のあと行方不明になったって話だから、おそらくリステアード殿下の蜂起と関わってる。ありえるのはリステアードへの脅しか)

和解する前からリステアードはハディスを竜帝と認めていた。そんな彼が安易に蜂起などするはずがない。きっと妹に何かあったからだ。それが後宮だったとしてもおかしくない。

(ナターリエ殿下を狙ったのはラーヴェ帝国と開戦したがった南国王じゃないか、とは言われてたけど……)

南国王――政務を王太子に放り投げて南の後宮で遊び耽っている現クレイトス国王陛下の蔑称だ。結局、ナターリエ皇女の死は解明できず終わった。ジェラルドでもつかめなかった相手となると、南国王しかないという消極的な結論だ。

そして南国王の思惑通りなのか、ナターリエ皇女の死を契機にクレイトス王国とラーヴェ帝国は対立を深め、開戦へと突き進んでいった。

ふたりとも、直接に争いを引き起こしたわけではない。だが、争いの引き金になっている。

(状況は変わってきてるが、今回だって何かの引き金になる可能性は十分ある)

今も、逃げている帝国軍という火種を抱えてる。これは未来が変わったからこその火種なので、ジルも先が読めないのだ――かつての偽帝騒乱ではハディスが帝国軍をすべて処刑し再編成したため、抱えずに済んでいた火種。

考えこんでいる間に、クッキーを食べ終えたナターリエが明るく笑った。

「ま、今のところは平和だから、安心して働いて」

「……は……えっ」

ナターリエ付きの使用人にならないかと勧誘されていることを思い出した。

「あ、あの、実はわたしですね、仔竜を育てるっていう仕事があるんです」

「仔竜? 皇帝への献上品かしら。でも竜の子どもなんてよく見つけてきたわね。親が死んだとかはぐれたとか?」

「そう、そんな感じです! その仕事を放り出すわけにはいかないので……」

ナターリエとフリーダの身辺が気にならないわけではないが、ローのことを放り投げるわけにはいかない。

「なら、ますますちょうどいいじゃない。私、竜には乗れないけど詳しいつもりよ」

ぽかんとしたジルに、フリーダがそっと教えてくれる。

「ナターリエおねえさまは……竜の、お勉強してるの……」

「役立たずの皇女だからこそ、専門知識を持っておかないといけないってだけよ」

「ほっほんとですか。じゃあひょっとして飛べない竜の飛行訓練とか、お詳しい……?」

「飛べない? 珍しいけど、今までにだって症例はあったわ。心配ならつれてきなさいよ。看てあげるから。感謝なさい?」

ナターリエの背後に後光が差して見えた。

「お、お願いします! ちょうど、アドバイスがほしかったところで……!」

「あなた、竜が好きなのね」

「はい!」

「私もよ」

いいひとだ。そして絶対に、いい皇女だ。

感激したジルは、勢いよく「宜しくお願いします」と頭をさげた。