軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

94 追跡

「こ、この……。

やるぞ! 殺さないよう、気を付けろ!」

どうやら、本当に危害を加える気はなかったようである。

少なくとも、この場では。

しかし、戦いとなると、そうもいかない。

殺す気はないらしいものの、互いに武器を振るっての戦いでは、何が起こるか分からない。急所を外したつもりが、敵が避けようとしたため致命的な部分に直撃、とか、よくあることである。

そして4人の敵が襲い掛かった直後に、反対側から、潜んでいた2人が躍り出た。

同時に出るより、4人を迎え撃つための動作にはいった直後に姿を現した方が、より混乱を誘える。近接戦闘に長けた者のやり方であった。

そのような手練手管を使われては、経験の浅い者はひとたまりもない。『赤き誓い』の4人は、動揺し、簡単に混乱……、しなかった。

前方からの4人の敵に対し、マイルとメーヴィスがひとりずつを受け持ち、前衛のふたりを無視して後衛の魔術師、レーナとポーリンを狙った残りのふたりに対して、レーナが火魔法、ポーリンが氷魔法をそれぞれ叩き込んだ。

レーナとポーリンに全く詠唱する素振りがないため、動転して何もできないのであろうと思っていた敵は、至近距離のため絶対に外さないという自信があったレーナが無詠唱で保留していた火魔法により炎の塊をまともに腹に受け、もうひとりは、同じく腹にポーリンから氷柱を叩き込まれ、共に後方へと吹き飛んだ。

幸い、ポーリンは氷柱の先端を丸くしてくれていたため、喰らった敵は大怪我をするようなことはなかった。まだ、腹部にかなりの火傷を負った、レーナによる被害者の方が怪我が酷かった。どうやらその獣人は金属製の防具も革の装備も着けていなかったようだ。

……どうやら、獣人だけに、自前の皮に頼りすぎたようである。

その頃には、鉈のようなものによる敵の斬撃を剣で受け止めたマイルが、そのまま剣を振り切って相手の武器を弾き飛ばし、メーヴィスもまた、瞬間的な高速かつ強力な斬撃で相手の武器を撥ね飛ばしていた。

敵の武器は、その形状から片手で扱うものであり、マイルとメーヴィスが両手で振るう剣の威力には対抗できなかったようである。

しかし、獣人にとっては、人間に力負けすることなど考えられなかった。それも、年若く、ひ弱に見える少女が相手となると、尚更である。

それが、完全なる力負け。

さすがに、いくら何でも、素手で剣を持った相手に立ち向かうつもりはないのか、それともあまりのショックで呆けたのか、武器を弾かれたふたりは呆然と立ち尽くし、そのままマイルとメーヴィスに剣の腹で叩き伏せられた。

そしてワンテンポ遅れて後方から襲い掛かったふたりの敵は、レーナとポーリンに襲い掛かろうとしたが、レーナとポーリンは駆けだしてマイルとメーヴィスの後ろへと走り抜け、そこで急停止すると呪文の詠唱を開始した。

敵の前には、剣を構えたマイルとメーヴィス。その後ろで呪文を詠唱するレーナとポーリン。

8人いた味方は、今や自分達ふたりだけ。

残った敵のふたりは、動揺し焦っていたが、倒れている仲間を見捨てて逃げ出すことはできない。必死の表情で『赤き誓い』の4人に立ち向かおうとした、その時……。

「逃げるわよ!」

「「「おぉ!」」」

『赤き誓い』の4人は、逃げ出した。

そして、特に敵に回り込まれるようなことはなかった。

残された敵は、しばらくの間、ぽかんとしてその場に突っ立っていたが、はっとした顔をすると、慌てて倒れている仲間達を助け起こした。自分達の幸運を神に感謝しながら……。

そして、怪我の酷い者に手を貸しながら、何とか仲間達と共に撤退して行ったのである。

「……計画通りね。行くわよ」

「「「了解!」」」

小声でそう囁いた『赤き誓い』の4人は、静かに移動を開始した。

勿論、獣人達の追跡である。

捕らえて尋問しても、彼らが素直に答えるとは思えないし、大勢の捕虜を連れていてはまともに行動できなくなる。かと言って、森の中に放置するわけにも行かず、殺すわけにも行かない。

こういう場合に取る行動は、パーティの基本行動方針としていくつか決められており、これはその中のひとつ、「泳がせて追跡パターン」である。……何の捻りもない、そのままの名称であった。

通常であれば、嗅覚や聴覚が人間より優れている獣人を密かに追跡することは難しい。

森の中で見失わない距離で追跡すると、どうしても彼らの鋭い知覚能力により気付かれてしまうからである。

しかし今は、彼らは傷付き焦り、そして血や焼け焦げた匂い、痛みやふらつき、そして普段と違い様々な雑音を立てながらの雑な移動に、周囲に気を配るだけの余裕も能力も失っていた。

マイルの探知魔法を使えば、充分離れた距離で追跡することもできた。しかしそれはパーティのためにはならない。そう思ってマイルはみんなが普通に追跡する道を選んだのであるが、それらの状況のおかげで、何とか気付かれることなく追跡を行うことができたのであった。

「……何、あれ……」

レーナが呆然として呟いた。

それも無理はない。木陰から覗く彼女達の眼に映っているのは、怪我人達を庇いながら、5棟並んで建てられた粗末な小屋のひとつへとはいっていく、『赤き誓い』を襲った獣人達の姿であった。

それは良い。それは良いのであるが。

問題は、その向こうに広がる光景であった。

半ば崩れかけた、切り出した石で作られたと覚しき遺跡のようなもの。

そして、 鋤(すき) や 鍬(くわ) のような農機具を使い作業をしている、多数の獣人達。

マイルがそれを見て連想したのは、『遺跡の発掘現場』であり、恐らく、本当にそれそのものであろうと思われた。

「……どうする?」

「どう、と言われても……」

メーヴィスの問いに、困ったように答えるポーリン。

レーナも、あまりにも予想外の光景に、言葉を詰まらせていた。

「ここは、偵察です!」

そこに放たれる、マイルの言葉。

「この情報を急いで持ち帰る、ということも大事ですけど、もし行方不明の調査隊やハンター達についての手がかりがあったり、彼らがそれに直接関わっていたりした場合、今ならまだ間に合う可能性が……。

それに、もし行方不明の人達が捕らえられていた場合、大規模な兵力を率いて来たりすれば、逃げられたり、人質に取られたり、見せしめに殺されたりする可能性も……」

「今夜、偵察しましょう!」

マイルの言葉の、人質、のあたりから、レーナの目付きが変わっていた。

そしてしばらく観察していると、先程獣人達がはいっていった小屋から誰かが走り出て、その後しばらく人の出入りが続き少し騒ぎらしきものが起こったが、その後、動きは収まった。

どうやら、『赤き誓い』を捕らえに行くつもりはないようであった。多分、ここのことを知られたわけでもないので、少し調子に乗って森の奥まで入り込み過ぎただけの、ただの小娘達の新米パーティとして、無害と判断されたのであろう。

まさか彼女達が調査依頼を受けた中堅ハンターだとも、ましてや仲間達の後をつけてきたとは思いもせず、獣人に遭遇して慌てて逃げ帰った新米パーティとでも考えたのであろう。

「……で、作戦だけど」

獣人達に発見されるのを防ぐため、いったん発掘現場らしきところから離れた『赤き誓い』は、食事を摂りながら今夜の計画を練っていた。

時間は充分あるのだが、少しでも発見される確率を下げるため、火を使う調理はできない。食事は堅パンと干し肉、そして水だけである。

夕食の時間としては早過ぎるが、これも、食後すぐに行動に移るのは良くないため、早めに、少し食べるだけにしている。

「小屋は全部で5つ。もし捕まっている人がいるとしたら、どこにいるか、よね。

しばらく観察していれば、人の出入りの状態から怪しいところが分かるかも知れないけど、こっちが見つかる危険性と、時間の無さと、多少怪しいところがあっても確実じゃないこと、元々捕まっている人がいなければいくら観察しても分からないこと等から、それは却下」

皆、レーナの言葉に頷いた。通常状態の獣人が大勢いる所では、発見される確率があまりにも高すぎる。

「かと言って、全ての小屋に忍び込む、というのは、あまりにも危険が大き過ぎるわ。まず、間違いなく発見されるわね」

「「「……」」」

「で、マイル、あんたの出番よ」

「え……」

突然振られて、狼狽するマイル。

「分かってるわよ。あんたが、私達のことを考えてくれてるってことくらい……。

でも、人の命がかかってるのよ。本気を出して頂戴。

使って貰うわよ、あんたの『探知魔法』、全力で!」

「…………、はい」

やはり、レーナ達にはバレバレであったらしい。

マイルが、あまりにも便利過ぎる能力を常用するのは『赤き誓い』のみんなのためにならないと考え、『マイルがいなくなっても困らない程度の、ちょっとした便利魔法』以外は使用を控えているということが。

そして、それを知っていても、何も言わずにいてくれたみんな……。

マイルは決心した。

今回は、少し自重を取り下げる。

但し、今回だけである。次の仕事からは、また、ちゃんと自重して、いつ自分が突然いなくなっても3人が支障なく仕事を続けられる程度の便利さしか供与しない。マイル抜きでも、立派なハンターとして活躍できるように……。

……但し、 収納魔法(アイテムボックス) は除く。