軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

93 遭遇

更に数時間、森を進み続けた『赤き誓い』の4人。

ルートは、ハンターギルドで貰った調査隊の予定ルートをそのままなぞったものである。

今回の依頼の第一目的が調査隊の捜索なのであるから、他の選択肢はない。

いや、別にどの項目を優先しようが依頼の受注者としては自由なのであるが、『赤き誓い』は約束したのであるから。

『その願い……、しかと聞き届けた!』と……。

強制された誓いや約束など、守る必要はない。

そんなもの、無視してせせら笑ってやれば良い。

しかし、信義に基づいた約束は、守らねばならない。どんなことがあろうとも。

たとえ生存の確率が限りなく低くとも、たとえ遺体の一部、遺品ひとつであろうとも、発見し、持ち帰る。そういう固い信念があればこその、あの返事であったのだ。

「……減ってきましたね」

「ああ……」

マイルとメーヴィスの言う通り、間引きの対象となる魔物の数が減ってきた。

それが意味するものは……。

「来ました! 前方300メートル、8人!」

そう、魔物達が移動した原因が存在する場所が近い、ということであった。

「ゴブリンやオークとかの魔物じゃありません。人間、みたいなんですけど……」

少し歯切れの悪いマイルの報告であったが、魔族なのでマイルの魔法での反応が人間とは少し違うのであろう。そう思ったレーナは、気にも留めなかった。

「迎撃するわよ! 相手は私達より格上だと思って。

奇襲するつもりの相手に、逆にこっちがカウンターで迎撃する。勝機はそれだけだと思って頂戴」

いささか悲観的な言葉であるが、レーナが小さい頃に父親から夜話で聞かされていた、童話というか昔話というか、それらの物語に出てきた魔族の話のうち半分くらいが真実だとすれば、勝ち目は薄い。

しかし、森の中で、恐らく自分達より遥かに優れた身体能力を持ち、地形に慣れた相手を振り切れるはずがない。逃げ惑い疲れ果てたところを奇襲されるか、じわじわとひとりずつ削られて終わるだけであろう。

森の奥にはいると魔族に襲われる、これまでの被害の原因は魔族の仕業、ということが判っただけでも、調査任務としてはかなりの成果である。次は、それに対応した戦力で臨めば良いのだから。

あとは、生きて帰れれば上出来である。

ザアッ!

突然、樹上から降ってきた2つの影。

「……土柱!」

「水槍!」

がん!

どしゅ!

どさり

後衛の魔術師ふたりを一瞬のうちに無力化しようとしたらしい敵は、レーナとポーリンに飛び掛かるべく樹上から勢いよく降下し、ひとりはレーナが魔法で作った土柱に思い切り激突して地面に落ちた。そしてもうひとりは、ポーリンが放った水の槍が命中し、同じく地面に落下した。

氷ではなく水なので刺さったわけではないが、水の勢いに降下の速度が加味されて、威力が増したようであった。

「「「「え……」」」」

マイルの詳細な探知報告により、敵の襲撃のタイミングを正確に把握していた4人ではあるが、あまりにも簡単に敵が倒れたこと、そして得意なはずの魔法を使わず肉弾戦に出たことに、思わず驚きの声をあげた。

そして地面に倒れたままの敵の様子を確認しようとした時。

「動くな!」

後方から掛けられた声に振り向くと、そこには4人の敵の姿があった。恐らく、あとの2人は隠れているのであろう。

そして、その、姿を現した敵の4人は。

ぴょこんと立った、猫耳。

折れて垂れた、犬耳。

狐耳に、ウサギ耳。

……そしてもふもふの尻尾。

「「「「じゅ、獣人?」」」」

そう、それは、どう見ても、魔族ではなかった。

「抵抗しなければ、危害を加える気はない。武器を捨てて、おとなしくしろ」

確かに、最初から殺す気であれば、初撃は樹上からの降下とかではなく投擲槍か弓矢を使えば良かったはずである。今も、有無を言わせず襲い掛かる、という方法もあったはずである。

ということは、本当に、捕らえるだけのつもりであったのかも知れない。

しかし、かと言って、はいそうですかと捕らえられるわけには行かない。

捕らえることが第一目的ではあっても、それは情報を吐かせるためであったり、生け贄として生きたまま邪神に捧げるためであったりと、以後の安全を保証するものではない。

それに、そもそも、捕まってあげる理由がなかった。

相手が魔族ではないと判った今、『赤き誓い』には余裕が生まれていた。

身体能力は人間より優れているものの、魔力ではかなり劣る獣人。なので、最初に魔術師ふたりを無力化しようとしたのであろうが、その目論見は潰えた。

恐らく、それでも相手は『赤き誓い』を見くびり、ただでさえ身体能力が劣る人間の、しかも小娘の前衛ふたりと、駆け出しの魔術師ふたり、と侮っているはずである。目の前で仲間ふたりが倒されたのを見ていても、あれは仲間の自爆に過ぎない、と考えて……。

「抵抗しなければ、殺さないであげる。地面に寝転がって、お腹を上に向けなさい」

「「「「な……」」」」

レーナの言葉に、愕然とする獣人の男達。

無理もない。何しろそれは、獣人にとっては最も屈辱的な、「完全服従のポーズ」なのである。とても、人間の小娘如きに対してできるようなことではなかった。

勿論、物知りなレーナがそれを知らないはずがない。それは、明らかに挑発であった。

こんなところで捕虜を取っても扱いに困るし、素直に従うとも思えない。なので、手っ取り早い方法、つまり戦いに持ち込もうとしたのである。『相手が襲い掛かってきたので、仕方なく正当防衛で』という形で……。

しかしこれは、別にレーナの独断というわけではない。

様々な場合についてみんなで色々と事前検討したうちの、こういう場合の対処法のひとつとして考えたパターンである。

勿論、殺すつもりはない。色々と考えた上での作戦である。

相手が魔族ではないと判った瞬間、急に強気になったレーナであった。

「こ、この……。小娘が、調子に乗りやがって……」

レーナ達が今までに何度も聞いたことのある科白を吐いて、敵の4人が接近してきた。

武器は、剣ではなく、 鉈(なた) のようなものを手にしている。恐らく、本来は戦闘用ではなく、森の中で行動するための道具に過ぎないのであろう。

マイルは、まず間違いなく敵より強い。

メーヴィスも、気を練って、あの『真・神速剣』モードになれば問題ないだろう。

そしてポーリンと自分も、スタッフで身を守りつつ、威力は大幅に落ちるが素早く撃てる短詠唱の魔法を多用することにより有利に戦いを進められる。余裕があれば、もう少し威力のある魔法を使うこともできるかも知れない。そして初撃は、既に無詠唱で声に出さずに頭の中で唱え終わり、発動を保留状態にしてある。

隠れているらしい敵のふたりも、マイルが把握しているはず。問題はない。

そう考えたレーナは、左腕を突き出し、掌を上に向けて、中指をチョイ、チョイと動かした。

そう、その仕草は、かかって来なさい、の挑発のサインであった。