軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

78 閑話

ある町で、お金を騙し取られた男が友人に慰められていた。

「……で、お前、このまま泣き寝入りするつもりじゃあるまいな?」

友人の言葉に、男は力強く答えた。

「勿論だ! 今はまだポーリングの日々だが、俺にも赤キチになってくれる友人はいる。そのうち必ず、ポーリンぐるぐるしてやるさ!」

その町では、ある日を境に特殊な言い回しが慣用句として使われるようになっていた。

ポーリング: 雌伏して悪巧みをする、または反撃の準備をすること。

赤キチ : 情け容赦のない、非道なまでに強大な支援戦力のこと。

ポーリンぐるぐる: 理不尽なまでの報復のこと。

ある少女にとっては、かなり住みにくい町であった。

「では、この井戸から、さっきの浴槽と給湯台の上のタンクに給水して下さい」

レニーちゃんの指示に、こくりと頷く6人の孤児達。

レニーちゃんの萎れ具合とカウンターが無人の時間が長いのを、特に後者をマズいと思い始めていた両親を説得し、『赤き誓い』不在時の孤児の起用を了承させることに遂に成功したのであった。

報酬は格安であるが、ギルド準会員の子供達、特に日々の食費にも事欠く孤児達にとってはありがたい仕事である。なにせ、生命の危険がなく、身体が鍛えられ、数日分の食材を買うお金が貰えて、数日間続き、しかも今回の分が終わってもまた次の機会に受注できるかも知れない、将来に渡り孤児達のお得意様になってくれる可能性がある依頼なのである。自分達とあまり年齢が違わないレニーちゃんにも、依頼主として精一杯の敬意を払っていた。

報酬は、時間制ではなく、成果制である。つまり、全作業量に対して支払われる。1時間で終えようが10時間かけようが報酬額は変わらない、ということである。なので、孤児達は人数を出して手早く終わらせようとしていた。その方が依頼主も喜ぶと思ったし、ひとりで延々と続けるのはキツ過ぎると孤児達のリーダーが判断したのであった。

そして、彼らの目的は、それだけではなかった。

「いいか、分かっているな?」

レニーちゃんが指示を終えて立ち去ると、孤児達のうちの年長者らしき8~9歳くらいの男の子が皆に念押しをした。

「ベイル兄ちゃんの、ひいては俺達の恩人が、ここに宿泊している。そして、ベイル兄ちゃんがその人にメロメロなのは今更言うまでもないな?」

こくり、と頷く5人。

どうやらこの孤児達は、マイルが卒業検定で身代わり地蔵にした、あのベイルが面倒を見ている子供達のようである。

ベイルは、孤児達に、自分達に未来が拓けたのはマイルという少女のお陰であること、そしてもし自分の身に何か起こったら、自分の代わりにいつかマイルに恩返しをして欲しいということを何度も繰り返し言って聞かせていた。そして自分の想いは決して口には出さなかったが、それは4~5歳の幼児にすらバレバレであった。

「恩人様に出会ったら、仕事は休憩にして話しかける。そして、趣味や好み、その他色々を、それとなく聞き出す。そしてその後、俺達の纏め役がいかに素晴らしい人かを話し、最後にベイル兄ちゃんの名前を出す。そして『ええっ、ベイル兄ちゃんを御存知なんですか!』というところから、ふたりの再会に持ち込む。失敗は許されない。分かったな!」

「「「「うん!」」」」

そして3日後。

「おかしいなぁ……。色々と仕事の時間を変えてみたのに、全然出会わない……」

休憩時、リーダー役の少年が考え込んでいると、レニーちゃんがやって来た。

「あれ、どうかしたの?」

レニーちゃんにそう聞かれた少年は、少し躊躇った後、思い切って聞いてみることにした。

「あの、ここに女性だけのハンターのパーティが長期宿泊してるって聞いたんだけど、全然出会わないなぁ、って思って……」

「ああ、マイルお姉さん達のことね……」

それを聞いたレニーちゃんは、笑いながら少年達に教えてあげた。

「お姉さん達が滞在している時は、お姉さん達が魔法で給湯してくれるの。だから、みんなにこの仕事をお願いするのは、お姉さん達が仕事で王都を離れている時だけなの。つまり、この仕事中にみんながお姉さん達に会うことは、絶対にないよ」

自分と同年代や年下の子と話す機会が滅多にないレニーちゃんは、いつもの大人相手の口調ではなく、普通の子供らしい口調で喋っていた。どうやら、お話がしたくて、休憩中らしい孤児達のところにわざわざやって来たらしかった。しかし……。

「「「「えええええええ~~っっ!」」」」

絶望の表情を浮かべてがっくりと地面に膝をついた孤児達は、とてもお話を楽しむような状態ではなかった。

「そ、そんな……。俺達の野望が。遠大な計画が……」

「ベイル兄ちゃんと恩人様の許で孤児達を一流のハンターに養成する『グリフォンの穴』を創設するという、我らの夢が……」

どうやら、養成学校時代にマイルの話を聞いたことがあるベイルが、そのいくつかを孤児達にも話して聞かせたようであった。

「え? え? え?」

そして、わけが分からず、ぽかんとするレニーちゃんであった……。

「あ、レーナちゃんだ!」

『赤き誓い』のみんながギルドで依頼ボードを見ていると、突然後ろから声を掛けられた。

振り向いてみると、養成学校同期のフランと、以前商隊の護衛任務を一緒に受けた『炎狼』の3人の姿があった。

「あら、フランと、炎狼の皆さんじゃないの。お久し振りね」

「え、フランさん、炎狼のみなさんと組んだのですか?」

軽く挨拶をするレーナと、興味津々で聞くマイル。

「えへへ~、そうなんですよ~。知っての通り、最初は同期生同士で組んでいたんだけどね~、やっぱ、みんな頼りなくって。ひよっこは、やっぱり経験豊富な先輩と組んでリードして貰った方が安心だし、早く成長できるよね!」

栗色の髪をショートボブにした、くりくりっとした大きな茶色の眼をしたフランは見た目も可愛いし、小柄だけど元気で明るく、養成学校でも人気者であった。職種は、『炎狼』が欲しがっていた魔術師である。割と器用で、遠隔攻撃から治癒まで幅広くこなせた。

「ボクね、新米なのにとっても大事にして貰えて、今、とっても幸せなんだよ!」

「そう、良かったわね!」

フランに抜けられたパーティは大変だろうが、仕方ない。ボランティアではないのだから、皆、自分の都合が最優先である。

しばらく立ち話をした後、既に受注の手続きを終えていたらしい『炎狼』は去って行った。

立ち去る間際、リーダーのブレットが少し残り、『赤き誓い』のみんなに頭を下げた。

「いや、本当に、君たちには感謝しているよ。あの一件のお陰で名前が売れて、信用も出来た。フランちゃんがはいってくれて、なんとかバランスも取れたし……。

これであとひとり魔術師が来てくれれば万全なんだけど、この調子ならそれもすぐだろう。

今のところ、問題と言えば、俺とチャック、ダリルのうち、誰がフランちゃんと付き合うかで火花を散らしている、ってことぐらいかな? ははは!」

そう言って立ち去ったブレットを、微妙な眼で見送るマイル達4人。

「「「「…………」」」」

「あ~……、ブレットさん達、知っているのかなぁ……」

「知らないんじゃないの、あの様子じゃあ……」

「知らないだろうね。金貨1枚賭けてもいいよ」

「私も、知らない方に金貨10枚」

「それじゃ、賭けになりませんよ!」

万能型魔術師、フラン。ハンター養成学校第12期卒業生。

さらさらとした栗色の髪に、くりくりっとした大きな眼。

小柄で華奢な、しかし元気で明るくとても可愛い子。

とある貧しい農家の三男坊だったと聞いている。

……うん、『三男坊』なんだ、これが。

ブレット、チャック、そしてダリルの3人の冥福を祈る、『赤き誓い』の4人であった。