軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

740 遠 征 5

休養だとかのんびりするだとか言っていながら、翌日もギルドに顔を出した、マイル達。

つくづく、『休む』だとか『 怠(なま) ける』だとかいう言葉と縁がない連中であった。

いや、ひと仕事した後にゆっくり休むのは、ハンターとしての仕事のうちである。それは『怠ける』とは言わない。

きちんと休養を取らない者は、早死にする。

体調管理も大事な仕事なのである。

治癒魔法や回復魔法があるが、筋肉痛だとか疲れているだとかで毎回魔法で治癒・回復していると、本当の筋力や持久力が向上しないし、精神的にも鍛えられない。

そう、魔法で治癒・回復を行うと、元の状態に戻ってしまい、超回復が行われないのである。

なので、ポーリンも自分に治癒魔法や回復魔法を掛けまくって、ということはやらない。ちゃんと、痛みや疲れに耐えて自力での回復を待つのである。

まあ、オーガ数頭を狩るくらいのことでそんなに疲れることはない。

……ポーリン以外は……。

そのポーリンも、戦いで疲れたわけではなく、獲物を求めて歩き廻るのに疲れただけである。

しかしそれも、街道を一日中歩き続けるのに較べれば、ずっとマシであった。

そもそも、6日間も歩き続けて疲れ果てたポーリンに配慮してこの町での滞在を決めたのである。

休養のために滞在しているというのに、毎日疲れるまで仕事をしていては意味がない。

「さて、今日はどんな依頼を受けましょうか……」

そんなことを言いながら依頼ボードに向かうマイル達に、ハンター達は黙って視線を逸らせている。

そして難度が高そうな依頼を物色するマイル達に声を掛ける者はひとりもいなかった。

昨日の彼女達の納入物のことを知っていて、口出しできる者はいないようであった。

* *

「よし、やったあァ!」

「「「お〜〜っ!!」」」

歓声を上げて喜ぶ、4人の子供達。

Fランク、もしくは見習いを対象とした雑用依頼のボードで見つけた、ごく普通の依頼票。

『長期間留守にするので、週に1回、掃除と部屋の空気の入れ換えをしてほしい』

そして併記されていた、住所と建物や庭の広さ。

家というものは、無人で閉め切ったままだと傷みが早い。

カビが生えたり、虫が 湧(わ) いたり、害獣が住み着いたり……。

ホームレスが入り込むこともあるし、子供やチンピラ達の溜まり場にされることもある。

なので、こういう依頼があってもおかしくはない。

ここでは、旅行というものは日帰りや数日で済むものではなく、数カ月掛かることも珍しくないのだから……。

なので、依頼そのものは別に珍しくはないし、依頼料も相場通りか、少し色を付けてある程度である。

危険がなく、大金ではないがそこそこのお金は稼げる。

ずっと専従で続ける仕事ではないから、他の仕事と併行してできる、安全確実な収入源。

他にも、そういう仕事がないわけではない。

しかし……。

「だけど、よく気付いたよなぁ、お前……」

「へへ、あのふたつのパーティがただの仲良しパーティじゃなくて、クランとして一緒に住んでいることを知ってたからな。そしてそのクランハウスの場所も知ってた。

この俺様の情報収集能力を、甘く見るなよ!」

「「「おおおおお!!」」」

自慢する少年の肩や背中を叩き称讃する、仲間達。

……なぜ、この依頼を取れたことがそんなに嬉しいのか。

それは……。

「これで、堂々とあの2パーティの拠点を調べられる。

何の引け目もなく、受けた依頼を遂行するために、隅々まで掃除するためにな。

そして……」

「「「あの2パーティの、強さの秘密が分かるかもしれない!!」」」

「前衛職ふたりだけで5人の魔術師を護れる、強さの秘密……」

「毛皮や外皮を傷めることなく一撃で獲物を倒せるようになる、特訓のための道具とか……」

「収納魔法を会得するための訓練法が分かる道具とか……」

「「「「何か、ヒントとなるものがあるかも……」」」」

勿論、何かを盗むとか、金庫の中の秘伝書を、とか考えているわけではない。

そんなことをすれば、ハンターギルド除名だけでなく、普通に犯罪者として捕らえられる。

あくまでも、受けた依頼である清掃作業の一環で、 自然に目に入っただけ(・・・・・・・・・・) 、という範囲内での話である。

「それに、クランハウスの清掃を受けていたということで、話し掛けて知り合いになれるチャンスがある。

あの人達は、良からぬ目当て、企みで近付く者には厳しいけれど、ごく普通にハンター仲間として話し掛けた者にはちゃんとした対応をしてくれる。……特に、子供とか年寄りとかには……。

つまり……」

「「「「これを切っ掛けに、弟分パーティとして仲良くしてもらえる可能性がある!!」」」」

それは、駆け出しや見習いの者達にとっては、かなり大きなアドバンテージになる。

なので、この依頼を取れたことに大喜びするのも無理はない。

そして数日後、ギルドで受け取ったカギを持って、意気揚々とクランハウスの掃除へと向かった4人が、そこで見たものは……。

「……ない! 家具も道具も何もかも、全く、何にも残ってない!!」

「夜逃げしたのか?」

「いや、夜逃げする理由がないよ! 掃除の依頼料は事前にギルドに預託されてるし……」

「じゃあ、どういうことだよ!!」

「「「「…………」」」」

「……まあ、 仕事(そうじ) をするしかないよなぁ……」

「ああ。それに、『依頼を受けて、ずっとクランハウスの維持管理をしていました』と言って話し掛けられるというカードはなくなったわけじゃない。

ま、引き受けた依頼を真面目にこなすしかないだろ」

「「「……」」」

そして、のろのろと仕事を始める、4人組であった……。

その後、クランハウスが無人であることを知った底辺ハンターや町のチンピラ達が金目のもの目当てに侵入したが、金目のものどころか、動かせるもの、持ち出せるものが全くないことに愕然とし、皆、捨て台詞を吐いて引き揚げるのであった。

掃除を引き受けた者達が来るため、マイル達が対侵入者用の仕掛けをしていなかったという幸運に気付くことなく……。

もし、掃除の依頼を出していなければ。

もし、全てのものをアイテムボックスに入れて持って行くという選択肢を選んでいなければ。

……そして、もしそのため防犯装置の設置を取りやめていなければ……。

悪党にも、たまには女神の御慈悲がもたらされることがある。

そういうことなのであろう……。