軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

739 遠 征 4

「……おい!」

納入窓口のオヤジが若手の職員に合図し、職員は軽く頷くと、すぐにどこかへ立ち去った。

そして……。

「新人が数時間で狩ってくるにゃあ、ちぃとばかり大金過ぎる。

悪(わり) ぃが、ちょっと待ってもらうぞ」

別に、おかしなことではない。

おそらく先程の若手職員は、裏手の解体場へと確認に走ったのであろう。

解体場で現金を支払うのではなく 代用貨幣(トークン) を渡すのと同じく、犯罪や不正行為を防ぐための方法のひとつとして……。

別に、気を悪くするようなことではない。

それはここの防犯体制がしっかりしているということであり、安心材料のひとつである。

……そしてすぐに、若手職員が戻ってきた。両手で小さなマルのサインを作って……。

それを見て、片眉を上げるオヤジ。

無表情で硬貨を数え、スッと差し出し……。

「悪かったな。見誤っていた」

堅物で融通が利かないのが相場である、納入窓口のオヤジにそんな言葉を口にさせたということは、新米ハンターとしてはかなり自慢できることである。

……普通の新米ハンターならば、であるが……。

「いえ、ちょっと常識を超えているかな、という自覚はありますので、別に気にしてはおりません」

「もう、慣れてるわよ……」

「初めて訪れた町では、よくあることですからね」

「あはは……」

今更、驚くことも怒ることもない。

……慣れた。

ただ、それだけのことである。

そして、居合わせたハンター達の一部が、席を立ってぞろぞろと出て行った。

……勿論、解体場へと向かったのである。

本人や職員に、直接あれこれと問い 質(ただ) すことはできない。

それはルール違反である。

なので、解体場へ行って、状況……何が納入されたのかを直接確認しようと考えたわけである。

ハンターが解体場へ行き、様子を確認する。それは、別に何の問題もない行為である。

納入物もないのに手ぶらで 解体場(そんなところ) を訪れるハンターなど、滅多にいないが……。

……そして数分後、蒼い顔で解体場から戻ってきた、ハンター達。

「おい、どうだった? 角ウサギ(ホーンラビット) 10匹とかの、とんでもない高効率の狩りの名手だったのか?」

既に、間引きの報酬と素材納入の代金を受け取ったマイル達は、とっくに姿を消していた。

おそらく、今日はちょっと豪華な夕食でも摂るつもりなのであろう。

なので、居残っていたハンター達は、解体場から戻ってきた連中に遠慮なくズケズケと聞いてきたのであるが……。

「オーガ……」

「え? 何だって?」

戻ってきたハンターのひとりが溢した言葉に、思わず聞き返した居残り組の男。

オーガを間引くと言っていたくせに、獲物は 角ウサギ(ホーンラビット) だった、という言葉が後に続くと思っていたのに、続くはずの言葉が発せられない。

それを疑問に思ったのは、聞き返した男だけではなかった。

静寂の中、他の居残り組と、ギルド職員達もが言葉の続きを待っていると……。

「オ、オーガが5頭、丸々納入されてた……。

殆ど損傷がなく、素材価値はおそらくAランクだろう……」

「「「「「「…………」」」」」」

再び広がる静寂。

そして、しばらく経って……。

「馬鹿な! いくら7人の大人数とは言え、小娘ばかりで、しかも前衛ふたり、魔術師5人のバランスの悪い新米パーティだぞ!!

……それに、狩るのも不可能だろうけど、そもそもどうやってオーガ5頭を丸々運んで来られるんだよっ! しかも、この短時間にだぞ!

あり得るかよ! おかしいだろうがよ、ええっ!!」

居残り組のひとりがそう怒鳴るが、解体場に行った者達全員が、蒼い顔のまま黙って俯いている。

それを見て、……つまり、そういうことなのだろうな、と察する、他の居残り組のハンター達。

そしてその時、カウンターの向こうで、職員のひとりが呟いた。

「少女だけのパーティ……。若いのに、Cランク……。異常な輸送力……。

ああっ、馬鹿容量の収納魔法持ち、特例昇級の新米パーティ!!」

「「「「「「あ……」」」」」」

ハンター達にはあまり知られていないが、ギルド職員達の間からは理解の声が漏れた。

3ランク特例昇級の、収納魔法持ちを擁する新人パーティ。

ならば、オーガ5頭を丸ごと運んだという輸送力は納得できる。

なので、まだ理解できていないハンター達とは違い、職員達はその事実を理解した。

……輸送についてだけは。

しかし、馬鹿容量の収納魔法持ちであるというだけの理由でCランクになれた新米の少女達が、どうして5頭ものオーガを狩れたのか。

それが理解できない限り、ギルド内のこの空気が変わることはないのであった……。

* *

「あ~、スッキリしたわ! これで、私達の受注にあれこれ口出しする者はいなくなるわよね!」

「あはは……」

せいせいした、というような顔のレーナと、肩を竦めるメーヴィス。

クランメンバー達は、かなりの大金を稼いだので、宿屋ではなく少しお高いお店で食べまくっている。

皆、お酒を飲まないため、かなり食べても代金はそんなに高くはならない。

……マイルとレーナの分以外は……。

しかし、今日は稼ぎが多かったため、マイルとレーナも好きなだけ食べて良し、とのポーリンからの許可が出ているため、お酒なしとしては常識を超えた金額になりそうである。

「まあ、面白そうな依頼もないし、この町には4~5日滞在すればいいかしらね。

まだ旅は始まったばかりだし、先は長いわよ」

「はい。王都と違い、私達のことを知らない地方の町で色んなことをやりたいですからね。

ここでは少しのんびりして、さっさと先へ進みましょう!」

王都から徒歩で6日。

ここでは、まだ『王都にいては経験できない、面白い依頼や人助けになる依頼』があまりない。

本当に困ったことや重大な案件は、王都へ依頼が持ち込まれるからである。

マイル達が求めるものは、もう少し王都から離れてからのお楽しみであった。

……まあ、依頼主や関係者達が楽しめるかどうかは、別問題であるが……。

すぐにこの町から移動するなら、別に受注の時に余計な口出しをされても、無視しておけば済むことである。

しかし、『赤き誓い』と『ワンダースリー』も、今はそう上昇志向がないとはいえ、若手パーティなのである。実力を過小評価され、見下されては面白かろうはずがない。

自分達が楽しめて、依頼人に喜んでもらえれば、それでいい。

そう考えはしても、やはり自分達を見た目で馬鹿にした連中にぎゃふんと言わせるくらいの意趣返しはするのであった。

なので、少し多めにオーガを狩ったわけである。

レーナだけでなく、あの温厚なメーヴィスやマルセラですら大賛成して……。

何の不思議もありはしない。

皆、仲間達との冒険の旅を楽しんでいる、新進気鋭の若手ハンター達なのだから……。