軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

734 『ワンダースリー』の里帰り 7

「いったい、何を考えているのですかっ!

護衛を護るために命を捨てる要人がいますかっっ!!」

モレンと『ワンダースリー』以外の者は、皆最後のオーガをタコ殴りしたり、まだ息のある他のオーガに止めを刺して回ったりしているため、少し離れた場所にいるマルセラ達の会話は聞こえていない。

なので、遠慮なくモレンを怒鳴りつける、マルセラ。

さすがに声量は少し抑えているものの、怒気はあまり抑えている様子がない。

「私が死んでも、護衛の皆さんはエストさんが取り出してくださいますから、ケラゴン様かシェララ様にお願いして、こちらの大陸に運んでいただけますし……」

「そういう話をしているのではありません!!」

「ひえっ!」

マルセラのあまりの怒りように驚いたのか、淑女らしからぬ声を漏らして、半歩ほど後ろに下がってしまった、モレン。

王族として、これはいただけない。教育係に見られたら、夕食抜きにされる程の失態である。

モレーナ王女は、決して臆病でも小心者でもない。

それどころか、民のために死地へ赴くことができる者である。

……しかし、そのモレーナ王女の腰が引けるほど、今のマルセラは怖かった。

いつも沈着冷静、温厚なマルセラが、ちょっと拗ねた感じの『プンプン!』ではなく、本気で怒っていた。……激怒である。

しょっちゅう怒っている者より、滅多に怒らない者が怒った時の方が恐ろしい。

そう、今のマルセラのように……。

「替えの利く者であれば、他者を救うために自らを犠牲にするのは構いません。それが本人の意志であれば……。

しかし、替えの利かない者、それが却って損失を大きくする者には、そのような勝手は許されません。

ミアマ・サトデイルの小説によく出てくる、アレですよ、アレ! 『しかし、テメーは駄目だ!』というヤツ……」

いつもの『~ですわ』というお上品な喋り方ではなく、キツい口調でたたみ掛けるマルセラに、言い返すこともできずにただコクコクと頷くだけのモレーナ王女。

「王族というものの意味、分かっておられますかッ!」

「ひゃい……」

ピヨるモレーナ王女と、慌てて他の者達の方に目をやるモニカとオリアーナ。

どうやら、皆はまだオーガの生死確認やら色々でこちらには注意を向けていないようであり、安心するふたりであるが……。

勿論、そのようなことはなく、皆、マルセラによるお説教が終わるまでは介入を避け、何度もオーガの確認を繰り返すことによって『聞こえていない振り』をしているだけであった。

そして、マルセラのお説教を聞きながら、オリアーナは思っていた。『マルセラ様がそれを言いますか?』と……。

そう。オリアーナは忘れてはいなかった。以前、オリアーナに向けて賊の剣が振り下ろされた時に、マルセラがその間に立ち塞がって氷魔法で剣を受けたことを……。

あの時、マルセラには反省のカケラもなかった。そして『同じようなことがあれば、また同様のことを繰り返す』と断言し、 退(ひ) かなかった。

「マルセラ様が、それを言いますか……」

そして頭の中だけでなく、つい口にも出してしまったオリアーナであるが、それどころではないマルセラとモレーナ王女には聞こえておらず、ただモニカが苦笑するだけであった。

「そもそも、王族としての心構えというものは……」

「どうどう……。マルセラ様、今はそのあたりで……」

モニカに宥められ、あ、というような顔で言葉を止めた、マルセラ。

既にオーガの確認をする振りにも限界が来て、他の者達が戻ってきたのである。

ピクリとも動かないオーガの生死確認に掛けるには不自然な程長い時間が、既に経っている。

それに、そろそろ止めてやらないと、『もうやめて! とっくにモレンのライフはゼロよ!』という状態である。少しはモレンに反省を 促(うなが) すべきではあるが、やはり皆はモレンには甘かった。

「……仕方ありません。今日のところはこのあたりにしておいて差し上げますわ!」

マイルがいれば喜びそうなお約束台詞を口にして、ようやく 矛(ほこ) を収めたマルセラ。

いくら今のモレーナ王女が王女としての立場ではなく『ワンダースリー』の新入りモレンであっても、普通であればこのような口の利き方をするようなマルセラではない。

余程、お怒りのようであった。

しかしそれも、ようやく頭が冷えたようである。

だが、それでも無礼な口を利いたことを後悔しているような様子は皆無。

おそらくこれは、いくら自分が疎まれても構わない、それでも王女殿下に諫言せねば、という、臣下としての己の責務を果たしたという認識なのであろう。

得がたい部下にして、親友。

……仲間に恵まれた。

そう思い、女神に感謝するモレン……、モレーナ王女殿下であった。

「あ、オーガを収納魔法に入れないと……」

気を取り直し、5頭のオーガを次々と収納する、モレン。

そう、モレンは自分が収納魔法……実はアイテムボックス……持ちであることを隠してはいなかった。

これを隠すと、皆の稼ぎがガタ落ちとなるからである。

この辺りは、『ワンダースリー』や『赤き誓い』が隠していないのと同じであった。

勿論、あの凶作の時の援助活動によって、モレーナ王女が『収納魔法に似た、特殊な女神の加護持ちである』ということは、皆が知っている。

なので 収納魔法のようなもの(・・・・・・・・・・) が使えるなどと言えば、バレバレである。

……しかし、元々バレバレなので、何の問題もなかった。

ああ、あの加護のことを誤魔化すために、収納魔法だと言い張っているのだな、と思われるだけである。

中に入れてあった獲物の体温が下がっていないとか、鮮度が落ちていないとか、取り出した時にまだ血が流れ終わっていないとかで、普通の収納魔法ではないことなどすぐにバレているし……。

勿論、中にはテントや毛布、食料や水、医薬品とかも入れてある。

「……では、今日はこれで引き揚げましょうか」

モレンの言葉に頷く、メンバー達。

マルセラ達はただの付き添いというか見学というか、オブザーバーの立場であるため、このチームの行動に関しては口出ししない。

なので普通であればリーダーの男性が判断すべきことであるが、今の戦いの後で、まだ狩りを続ける気がある者などいようはずがない。

今日はさっさと帰って、命拾いしたことを女神に感謝しながら、ちょっと豪華な夕食を摂ってお酒でも飲みたいところであろう。

* *

「皆さん、モレーナ王女の護衛役として問題のない、立派な方達でしたわね」

ギルドへ戻り、獲物を納入したお金を皆で分けた後解散し、宿を取った『ワンダースリー』。

普通であれば、ただ随伴していただけの自分達は分け前を貰うつもりなどなかった。

しかし、『オーガの大半を倒してくれた「ワンダースリー」に分け前を渡さなかったら、自分達の 沽券(こけん) に関わる』と言って、皆が承諾しなかったのである。

確かに、そんな話が広まっては堪らないだろうと納得し、さすがにマルセラ達も分け前を受け取らざるを得なかった。

「はい。女性騎士さんも問題なく、そして今後は隠れ護衛の皆さんももう少し距離を詰め、索敵にも気を配るようになるでしょうし……」

「それと、アイテムボックスの中に入れておく護衛に関しては、対人戦だけでなく魔物相手の訓練も充分積んだ者のみにして、いきなりオーガの前に出される可能性についても事前にしっかりと説明し、中の兵士がそれらに対応できることをモレーナ王女に認識させておくべきですね。

このことは、私から近衛の上層部に伝えておきます」

自分の言葉に続いたモニカとオリアーナの補足に、こくりと頷くマルセラ。

「これで、安心して新大陸に戻れますわね……」