軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

732 『ワンダースリー』の里帰り 5

あの後、 角ウサギ(ホーンラビット) や狐、野鳥等を狩り、それらを現場で血抜きし、内臓を取り出した後に魔法で冷やし、モレンの収納魔法……ということになっているアイテムボックスの中へ収納。

モレンのアイテムボックスも時間停止機能付きであるが、それは一般には公表していないため、肉の劣化防止のために処置している、という建前を通す必要がある。

冷やすのは、すぐに傷まないように冷却するだけであり、凍らせるわけではない。

凍らせてしまうと、肉や毛皮の質が落ちるので……。

モレンのアイテムボックスの中には護衛の兵士が一個分隊、9名入っているが、時間が停止しているため、自分達が血塗れの獲物達と一緒にされているということは認識できないので、問題はない。

獲物の血で衣服が汚れるようなこともないので、安心である。

「少し奥の方に入ってきたから、そろそろCランクの魔物が出てもおかしくないぞ。警戒を厳となせ!」

「「「「「「了解!」」」」」」

リーダーの指示に対して、小声ではあるが、力強い返事が揃う。

(いい感じのパーティですわね……)

(はい。若手の割には、しっかりしているし雰囲気もいいですよね)

マルセラにそう返すモニカであるが、彼らも、自分達より年下である『ワンダースリー』に若手と言われたくはないであろう。

しかし、良いパーティであることは確かであった。

(子供の頃から見習いとして働いていた、叩き上げの人達なのでしょうかね。

モレンさんと護衛騎士以外の5人のチームワークがいいのは、同じ村の幼馴染み達だとか、孤児院で一緒に育ったとか……)

(他のふたりも、結構馴染んでいますよ。これは、心配なさそうですね)

オリアーナとモニカも、5人組に対してかなり高評価のようである。

しかし……。

(まだ、Cランクの魔物と対峙した時の様子を確認しないと、何とも言えませんわね……)

マルセラの呟きに、こくりと頷くモニカとオリアーナであった。

* *

「止まれ! ……静かに!」

「「「「「「……」」」」」」

移動陣形で、先頭のリーダーが焦ったような小声で、後ろ手で皆を制止した。

小声で制止、というだけであれば、ただ獲物を発見しただけであろう。

……しかし、 焦って(・・・) 、となると……。

「前方、オーガ5! 静かに後退……」

風は、前方からの微風。

ならば、まだ気付かれていない可能性が……。

「駄目だ、見つかってる! レセル、モレンを護りつつふたりで離脱! 俺達が時間を稼ぐが、長くは 保(も) たん。急げ!!」

新大陸とは違い、こちらの大陸ではオーガが3頭以上で徘徊することは滅多にない。

……しかし、滅多にないということは、 稀にはある(・・・・・) 、ということであった。

いくら自分達が 風下(かざしも) 側であっても、人間如きが野生の動物や魔物より先に相手に気付くことができることなど、余程条件に恵まれた場合以外はあり得ない。

そして今回は、その 滅多にない場合(・・・・・・・) ではなく、ごく普通のパターンだったようである。

……運が悪かった。

ハンターの死因の大半を占める、『予期せぬ強力な敵との不時邂逅』。

無謀な行動をしたわけではないが、ハンターの仕事には、多かれ少なかれ、こういうリスクは常に付きまとうものである。

こればかりは、神の采配に文句を言うしかなかった。

到底勝つことなどできない、自分達とはあまりにも戦闘力が違いすぎる、5頭のオーガ。

森の中で、オーガから逃げ切れる人間などいない。

しかし、オーガの数は5頭。

ならば、自分達5人が足止めし、そして全滅しても、オーガはそれぞれ1頭につきひとりずつの獲物が手に入る。

自分用にひとり丸々の餌が手に入ったなら、それを食べることで満足し、余ったふたりを追うことはないかもしれない。

野獣も、満腹であれば目の前の獲物をスルーし、自分が空腹を満たすのに必要な分以上の獲物は狩らない場合がある。

その可能性に懸けて、王国の至宝、大聖女モレーナ王女殿下とその護衛騎士であるレセルを逃がすために、自分達の身体を餌にしてオーガを満腹にさせようと考えたのであろう。

モレン……、モレーナ王女殿下の盾となって死ぬ。

必ずや王国の輝かしい未来を築いてくださるであろう、大聖女、モレーナ王女殿下をお護りして……。

一介のハンター風情にとって、何たる僥倖、何たる光栄……。

(平凡な俺達の命で、その何万倍もの価値がある命を護ることができる……。

女神よ、感謝します……)

心の中で、そっとそう祈るリーダー。

おそらく、他の4人も同じようなことを考えているのであろう。

「行くぞ、みんな!」

「「「「おおっ!!」」」」

「……って、どうして私がみんなを置いて逃げるなんて話になっておりますの!

怒りますわよ!!」

「「「「「「……え?」」」」」」

そう。モレン……モレーナ王女は、あの『対異世界侵略者絶対防衛戦』を戦い抜き、そして生還した勇者達の内のひとりなのである。

……そして、民草のために命を懸けられる、誇り高き王族の一員であった。

「民を護るのが、王族……げふんげふん、ハンターの務め。

さ、皆で全力を尽くしましょう……」

いくら逃げるよう説得しても、無駄。

それがハッキリと分かった上、もう逃がすには遅すぎた。

これがオークであれば。

もしくは、オーガの数が通常のパターンである2~3頭であれば、何とかなったかもしれない。

しかし、5頭のオーガでは、Cランク以下のハンター7名ではどうしようもない。

分かってはいるが、もう迎え撃つ以外に方法がない。

オーガより遥かに遅い速度で懸命に逃げ、そして後ろから一方的に狩られるよりは、正面から迎え撃った方がまだマシである。

少なくとも、最後まで勇敢に戦って死んだという、矜持的な意味において……。

そして木々の間からオーガの姿が現れ……。

「アース・ネイル!」

「アース・ジャベリン!」

既に詠唱を終えてホールドしていた攻撃魔法を放つ魔術師組と……。

「……対魔貫通弾!!」

強力な魔法のため詠唱時間が長かったためか、ふたりよりワンテンポ遅れて放った、モレン。

あの、対異世界侵略者絶対防衛戦を戦い抜いたのである。いくらマイルからチート魔法を伝授されていなくとも、これくらいの攻撃魔法は操れる。

あの時は、モレン……モレーナ王女が固定砲台となり、近付く雑魚からは女性近衛分隊の者達が護っていたのである。

モレーナ王女を死なせて自分達だけが生還した場合のことを考えると、我が身を犠牲にしてでも王女を護らねばと、目を血走らせた必死の形相の少女達によって……。

もしそんなことになれば、自分だけではなく、お家の未来が閉ざされる。

……それはもう、死にもの狂いであったことであろう……。

そして、 空(くう) を走るそれらの攻撃魔法を追うようにして走る、3人の前衛達。

若者達の力では敵うべくもない、強大な敵。

しかし、勝てる可能性がたとえ1パーセント以下であろうとも、それは決してゼロではない。

……ゼロではないのだ……。

勿論、事態に気付いた隠れ護衛達が必死で駆け寄っているが、間に合いそうになかった。

皆の後方にいたためオーガの存在を知るのが遅れ、そしてパーティの者達の小声での会話は聞こえず、状況を把握するのが致命的なまでに遅れたためである。

王都内であれば、隠れ護衛は少し離れていれば良い。大勢の人の中に紛れていられるので……。

しかし、森の中ではあまり近いとすぐに気付かれる。森の中でずっと自分達についてくる人間など、悪意ある者として警戒されるに決まっている。

そのため、気付かれないだけの距離を取っていたのが裏目に出た。

やむを得ないことであり、仕方のないことなのであるが……。

死を覚悟した、しかし後悔の念はない……、いや、自分達が死ぬことに対しての後悔はないが、王国の至宝、大聖女にして未来の女王……そう決まっているわけではないが……を護りきれずに死なせることになるかもしれないということだけは 慚愧(ざんき) に 堪(た) えない、5人の若手ハンターとひとりの新米護衛騎士。

そして3人の前衛がオーガの群れに突入しようとした、その眼前を走る、ひと筋の光。

どぉん!

その小さな光の塊が、1頭のオーガの胸を貫いた。

「……魔力弾!!」

そして、ワンテンポ遅れて唱えられた、魔法名。

発動のための魔法名詠唱ではなく、ただ皆に対しての説明代わりの台詞のようであった。

土や氷に変化させた属性魔法ではなく、魔力……エネルギーをそのまま射出しぶつける、原始的ではあるが高威力の攻撃魔法。

……そう。

ここには、7人のパーティと、必死に駆け寄る隠れ護衛達の他にも、戦力があった。

あの対異世界侵略者絶対防衛戦において主力の一角を 担(にな) い、マイルから教わった反則級の魔法を使いこなす、ハンターギルドの秘密兵器。

……人は彼女達をこう呼んだ。

女神の御寵愛を受けし3人の少女達……、『ワンダースリー』と……。