軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

724 シェララの暴走 3

ずぅん……。

『悪い人間はいねが〜。悪い村人はいねが〜……』

「「「「「「ぎゃあああああああ〜〜!!」」」」」」

『……あ、間違えた! マレエットという幼生体はどこ?』

ついうっかりと、ザルムに聞いた『人間の村を訪問した時の、脅しの台詞』を言ってしまったシェララ。

慌てて言い直したが、一度起こったパニックが、それくらいで簡単に収まるはずがない。

何しろ、高速で真っ直ぐ学院の上空へと飛来し、そのまま急降下してきたのである。

着地の前に減速し、ちゃんとザルムに教わった通り、人間や建物に被害を与えないよう着地したのであるが、何の事前連絡もなく突然古竜が中庭に降り立って脅しの台詞を喋ったのである。これでパニックにならないのは、 度重(たびかさ) なるザルムの訪問で古竜に慣れてしまった、西方大陸のあの国の王都民だけであろう。

「……お呼びでしょうか? 私がマレエットでございます!」

僅か数秒後、校舎の3階の窓からひとりの少女が上半身を乗り出して、大きな声で叫んだ。

少しでも早く事態を収拾させるため、1階まで降りる時間を惜しんだのか。

……それとも、3階の窓からの方が相手の顔面との距離が近く、話しやすいと考えたのか……。

確かに、地面からだと遥か上を見上げながら話さねばならず、首や肩に大きな負担がかかってしまう。

それでも、普通の人間は『首が痛くないよう、3階の窓から古竜に話し掛けよう』などと考えたりは絶対にしないのであるが、……まあ、マレエットも マイル側の人間(・・・・・・・) だということであった……。

「あの……、ケラゴン様でしょうか?」

マレエットは、ケラゴンのことを『ワンダースリー』やマイル001から聞いたことがある。

『誰がよっ! あなた、雄と雌の区別も付かないの!』

「……あ、はい、付きません……」

『え?』

「古竜様は、熊や狼、オークやオーガ、魚とかの雌雄を、一目で見分けることがお出来になるのでしょうか?」

一応、見た目で区別できそうな、鳥と人間は例から外しているマレエット。

『……できないわね……。

とにかく、あなたがマレエットね?』

そして自分の文句が無茶振りであったと気付き、シェララはその話題を流した。

レーナであれば、こういう時には『悪かったわよ』とか言って一応は謝罪するのであるが、さすがに古竜が人間に対してそのように下手に出ることはありえない。

例外があるとすれば、古竜側に落ち度があって大勢の人間を死なせた時か、相手がマイルであった場合くらいであろう。

『あなたを、私の 愛玩動物(ペット) にしてあげるわ!』

「お断りします!」

……即答。

そして、驚愕のあまり、口をぱかりと開けて呆然と立ち尽くす人々。

当たり前である。古竜からの命令を、……いや、それがたとえ要望や提案レベルであろうとも、古竜からの話を否定したり、断ったりする者など存在しない。ヒト種であろうが、亜人であろうが、動物や魔物であろうが……。

怒らせるどころか、ほんの僅か機嫌を損ねただけで、致命的な結果を招く。

……本当はそこまで横暴ではないが、世間ではそう思われている古竜が 決定事項(・・・・) として通達したことを、即座に拒否。

そんなことが、あるはずがない。

自分だけであればともかく、王都全域を、いや、国全体を廃墟と化す危険を冒す者など、存在するはずがない。

たとえ自分が犠牲になっても、多くの人々のために、どのような理不尽も甘んじて受ける。

それが、知的生命体としての義務である。

……そのはずであった。

そのはずであったのだが……。

『え?』

シェララ自身も、今聞いた下等生物の言葉が信じられず、ぽかんとしている。

「……ですから、辞退いたします。私は、学院を卒業した後、マイル様にお仕えする予定ですので……」

『えええっ!』

シェララは、神殿にいるマイルは『マイル001』という偽者であることを知っている。

そして、マレエットもまたそれを知っていることも……。

なので、自分の言葉を否定されたことにも驚いているが、更に、マレエットが今言っている『マイル様にお仕えする』というのが、どちらのマイルを指すのか分からず、混乱していた。

『……』

「…………」

「「「「「「………………」」」」」」

言葉に詰まった、シェララ。

古竜の提案を一蹴してしまったことに思い至り、今更ながら、自分がやらかしたことに気付き、蒼くなっているマレエット。

マイル001や『ワンダースリー』達があまりにも気軽に、まるで普通の友人かのように古竜達のことを話すものだから、自分もつい同じような感覚になってしまっていたようである。

しかし、そもそも自分の人生を古竜の 玩具(おもちゃ) として捧げたいなどと考える若い女性など、いるはずがない。

すぐに飽きられて捨てられるか、うっかり踏み潰されるか……。

そして、古竜と一緒に住むとすれば、食事として何が与えられるのか……。

生の魔物肉?

即答で拒否したマレエットを責められる者は、いないであろう。

そして、マレエットの百倍くらい酷い状態の、他の学生や学院の関係者達。

もう、蒼い顔とか白い顔とかを完全に通り過ぎて、土気色になっている。

それも、無理はない。

彼らの頭の中には、ドラゴンブレスで黒こげになった自分達の姿、そして炎上する王都の様子がまざまざと思い浮かんでいるのだから……。

『…………』

「………………」

「「「「「「……………………」」」」」」

皆が固まり、無言の静寂が続き……。

「マレエット君! そのお話、お受けしなさい!」

「……あ、ハイ!」

地上から大きな声で叫ばれて、反射的にそう答えてしまった、マレエット。

いくら有名になってはいても、マレエットはただの中堅商家の娘であり、しかもクソ真面目な 良い子ちゃん(・・・・・・) なのである。突然学院長からそんなことを言われれば、そう答えるに決まっている。

「あ……」

『やった! 愛玩動物を手に入れたわ!!』

喜ぶシェララと、絶望の表情を浮かべるマレエット。

さすがに、一度了承したのに断るというのは、古竜相手にやっていいことではない。

それくらいのことは、マレエットも知っていた。

「ああ。あああああ、終わった……」

がくりと肩を落とす、マレエット。

そして……。

『それじゃあ、時々遊びに来るからね! その時には、面白いお話とか、聞かせてよね!』

「……え?」

『じゃあ、また来るわね!』

「えええええ?」

そしてシェララは、ふわりと浮かび上がり、地上に突風が巻き起こらないようにと、静かに飛び去った。

「「「「「「何じゃ、そりゃあああああ〜〜」」」」」」

それは、シェララの説明の仕方が悪かった。

古竜に『愛玩動物にする』と言われれば、古竜の居住区へと連れ去られ、死ぬまで玩具にされると思うに決まっている。

ここは、ザルムのように『加護を与えてやる』とか、『護ってやる』とか言うべきであろう……。

それに、マレエットに執着しているのかと思えば、今回は顔合わせだけで、さっさと引き揚げるとか……。

それは、みんなに絶叫されるのも、無理はない……。

とにかく、こうして『聖女』、『絶対防衛戦の英雄』等の様々な呼び名を持つマレエットに、『古竜の 愛(いと) し 子(ご) 』という新たな呼び名が追加されたのであるが、もう、既に評判がMAX状態であるマレエットにとっては、状況は大して変わらないのであった……。