作品タイトル不明
718 えへ、来ちゃった! 4
「このあたりで、真上に向けてファイアーボールを撃ってくれ」
「あ~、ハイハイ、いつものやつね……」
王都近傍の森に到着し、獣人からの要望に、素直にファイアーボールを打ち上げてやるレーナ。
獣人は魔法が苦手な者が多いが、連絡と位置表示のためにはこれが一番便利で手っ取り早い方法であるため、獣人からこれを頼まれるのはいつものことである。
そして、ファイアーボールを打ち上げてから数分後……。
ずしん!
『あ~ら、お久し振りね~』
一頭の古竜が、マイル達の前に舞い降りた。
一応はヒト種達に見つからないよう配慮しているのか、あまり高度を取らずに低空飛行で来たようである。着地も、古竜としては静かに行ったようである。
シェララは『久し振り』とか言っているが、古竜が人間の顔など覚えているはずがない。
なので、ただ使いの者が連れてきた雌っぽく見える4人組、ということで、『赤き誓い』だと判断したに過ぎないのであろう。
しかし、それはお互い様である。
マイル達も、来るのがシェララだと知っているから『あの時の古竜なのだろうな』と思っているだけであって、別に古竜の顔を判別できているわけではない。
人間も、犬や猫であれば少しは見分けがつくが、同じ種類の小鳥や魚となると、顔で見分けろと言われてもどうしようもない。
古竜にとって人間の判別など、人間が虫の顔を見分けろと言われるのと同じくらいの難度であろう。なので、推測によってであろうと、一応は識別して挨拶してくれたというだけで、古竜にとっては破格の待遇だと考えていいだろう。
事実、案内役の狐獣人が、驚いたような顔をしている。
おそらく、自分達はそんな個体を見分けているかのような言葉を掛けられたことなどないのであろう。
……シェララは、古竜としては比較的下等生物に優しい部類であるのだが……。
そのことは、この狐獣人を送り出した時の、『死なない程度、大怪我をしない範囲でいいからね』という言葉からも察することができる。
普通、古竜は下等生物が死のうが怪我をしようが、あまり気にしない。
……たとえそれが、自分達古竜のために尽くそうとしてのことであっても……。
下等生物が、偉大なる古竜のために働き、死ぬ。
それは当然のことであり、名誉なことである。なので、喜んで死んだことであろう。
『自分達、古竜のために死なせてやった。ありがたく思うがよい』
そう考えているのだから、気に病むことなどあり得ない。
一応、下等生物を無為に傷付けないようにはしているが、それは『下等生物愛護法』として長老達からキツく指導されているからである。
……長老達、上層部の一部の者達は、 自分達の(・・・・) 、 真の造物主(・・・・・) のことを知っているのだから、そう指導するのは当然の事であろう。
「お、お久し振りでございます、シェララ様……」
そして、皆を代表して挨拶を返す、メーヴィス。
自分がちゃんとした挨拶を返さないと、レーナやマイルが失礼な言葉遣いで答えるかもしれない。
そんな危険を冒すわけにはいかないため、若干慌てたようになったのは、仕方ない。
メーヴィスは、頑張って、よくやっている。世界の平和のために……。
そして、『赤き誓い』は以前、シェララを屈服させ、完全降伏させているが、それはそれ、これはこれ、である。
あれはもうずっと昔の、過ぎ去ったことである。……古竜の時間感覚だと、つい先日のことかもしれないが……。
とにかく、今はもう、ただの『古竜と人間』という関係に過ぎないので、シェララに対して無礼な口を利くわけにはいかない。
……マイルだけは、名誉古竜であること、そして更に名誉評議員であることから、いくら氏族長の娘とはいえ自身はただの少女に過ぎないシェララより、名目上は上位であると言えなくはないが……。
「シェララさん、今回は、どんな御用で?」
(((((あああああああ〜〜っっ!!)))))
そして、メーヴィスの気遣いを察することなく、友人に話し掛けるようなぞんざいな口調でそう尋ねるマイルと、頭を抱える5人。
……そう、 5人(・・) 、である。
レーナは、自分も普通に、対等な感じで話すつもりなので、マイルの喋り方には別に何とも思っていない。
さすが、空気の読めなさでは『赤き誓い』の中でマイルと双璧を成す、レーナである。
「マ、マイル、気心の知れたケラゴンさんやザルムさんじゃないんだから!
もう少し、古竜様に対する敬意というものを……」
メーヴィスが、慌ててそう言うが……。
『あ~、いいわよ、そういうのは。
マイルちゃんは名誉古竜だし、私が降参した人間だし、そもそも私達古竜が造物主様から与えられた使命を果たすという悲願達成の協力者なんだから、少なくともうちの氏族の者とは対等に喋っても大丈夫よ。誰も気を悪くしたりはしないわよ。
……それどころか、角や爪に飾り彫りをしてもらった連中は、すごく感謝してるわよ。
あいつら、他の氏族のところに恋人を漁りに行ってるから、そこの 雄(オス) 達から苦情が殺到していて長老と 氏族長(とうさま) が激怒しているわよ……』
「「「「あ~……」」」」
「「「…………」」」
状況を理解している『赤き誓い』は呆れ声を漏らし、よく分かっていないらしき『ワンダースリー』は、今はまだ口を挟まない。
シェララと話したいとは思っているが、良いタイミングを待っているようである。
『……で、私がここへ来た理由だけどね……』
いよいよ、本題である。耳を澄ませてシェララの言葉を待つ、クランメンバー達。
『何か、面白いコト、ないかしら……』
「「「「「「「やっぱりいいィ〜〜!!」」」」」」」
「……知ってた」
「予想通り……」
「想定の範囲内ね」
メーヴィス、ポーリン、レーナの3人は諦めの言葉を口にしたが、ひとり、まだ諦めていない者がいた。
「……シェララさん、人化したり小さくなったりはできませんか? もしくは、身体をどこかに保管しておいて、意識だけぬいぐるみか何かに憑依させて動かすとか……」
マイルは、ナノマシンにあれだけハッキリと否定されたにも拘わらず、まだ諦めてはいなかったようである。
『……? 何よ、それ……。
でも、何だか面白そうね。あなたの魔法でできるの?
えへへ、やっぱり、ケラゴンを脅してあなた達の情報を吐かせて、大正解だったわ!
黙って里を抜け出してきた甲斐があったというものよ!』
「「「「「「「「え……」」」」」」」」
驚きの声は、『赤き誓い』と『ワンダースリー』の七つだけではなく、もうひとつあった。
……そう、古竜様の命令に従っているだけだと思っていたのに、どうやらそれが少女の家出の手伝いだったらしいと知り、そのことが大人の古竜達に知られれば自分がどうなるかということに思い至り、蒼白になった狐獣人が呆然とした顔で漏らした声が……。
(((((((あ~……)))))))
自分達の驚きなど問題にもならないくらいの狐獣人の動揺っぷりに、同情の念を禁じ得ない一同。
「マイル、フォローしてあげなさい!」
レーナが、小声でマイルにそう指示を出した。
レーナは、いつもは他者に対して冷淡に見える態度を取ることが多いが、あれは弱味を見せないためのポーズである。
なので、特に虚勢を張る必要がない場合には、結構優しい本性が現れるのであった……。