軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

699 マイルの休日 1

「戻りました~……」

「あ、お疲れさまでした、マイルちゃん」

「ようやく終わりましたの? 古竜の里への、出張彫り師……」

そう。後で検討すると約束させられていた、あの『角と爪への飾り彫り』。その約束を果たすため、マイルは数日間の泊まり込みで古竜の里へ行っていたのである。

時間を掛けて、ただひたすら黙々と彫り続ける仕事であるため、退屈するであろう他のメンバー達は連れて行かず、マイルひとりでの滞在であった。

それには、マイルだけであれば『水平方向に落ちる』という方法で簡単に移動できる、という理由もあった。

「はい。全員にではなく、 古竜達(むこう) が決めた者達だけですけどね、彫ったのは……。

さすがに、一度に全員に、というのは私の負担が大きすぎると配慮してくれたみたいで。

最初は雄ばかりが施術の権利を争っていたのですけど、雌の方々が『なぜ雄だけで独占しようとしているのか!!』と、至極尤もな主張をされまして、混乱に拍車が掛かり……。

施術権とその順番を決めるだけで、初日が潰れましたよ……」

「「「「「「あ~……」」」」」」

旧大陸における古竜達の醜い争いのことを知らないマルセラ達も、その情景が脳裏に浮かんだようである。

マイル達から、『角と爪に飾り彫りを施した古竜は、異性にモテまくるらしい』という話は聞いていたので……。

そしてその時に、『私達も、爪を彫ればモテるようになりますの?』とマルセラ達が食い付いてきたが、人間の爪は薄くて彫りにくいこと、強度が下がって割れやすくなること、伸びれば切るためすぐに駄目になること等を説明して、諦めさせたのであった。

……そもそも、人間は古竜のように爪の飾り彫りにそう心惹かれることはないであろう。

あれは、何も身につけることのない古竜だから強烈なアピールポイントになるのであって、人間にはそれに代わるもの……化粧、衣服、装飾品等……が色々とあるのだから。

それに、そんなことをしなくても、マルセラは旧大陸においては『対異次元世界侵略者絶対防衛戦』の英雄のひとりであり、子爵家当主にして女神の愛し子の親友、モレーナ王女殿下の腹心の部下にして親友である、年若き美少女。……しかも、高潔で慈悲深く、平民からの人気抜群である。

……おまけに、収納魔法の使い手。

これ以上モテ要素が追加されれば、他の令嬢達が助走を付けて殴りかかってくるレベルである。

そもそも、自国の第一王子と第二王子を落としておいて、これ以上、誰にモテたいというのか……。

モニカとオリアーナにしても、似たようなものである。

正式な貴族ではない、 女準男爵(バロネテス) ではあるが、その名声から考えて、形だけどこかの貴族の養女となり、その家から伯爵家あたりに嫁ぐことは、不可能ではない。

平民であるふたりには社交は難しいであろうが、それは貴族出の第二夫人とかに任せて、という方法もある。

……ふたりが、そんな結婚生活を良しとするのであれば、だが……。

おそらくモニカとオリアーナは、牛後……貴族の最底辺……ではなく、鶏口……平民の上層。割と裕福な商家の奥様とか……の方が、気楽で楽しい人生が歩めると考えるであろうが、世間がそれを許してくれるかどうか……。

「で、お疲れのマイルは数日間の休暇に入るのよね?

私達はマイルがいない間にゆっくり休んだから、マイルが休んでいる間は適当に近場の依頼をこなしているわ。塩漬けの依頼とかをね。

少しはギルドに恩を売っておくのも、悪くはないからね」

レーナが言う通り、ギルドの依頼ボードに長期間貼りっ放しになっていて紙の色が変色してしまっている、 所謂(いわゆる) 『塩漬けの依頼』というのは、ギルドにとっては困ったものなのである。

……別に、『赤い依頼』のような、危険の多い依頼ばかりだというわけではない。

ただ、難度に対して報酬額が低く、受け手がいないというだけである。

お金がなければ、いくら困っていても、大した依頼料は払えない。

ゴブリンやコボルトの駆除であっても、片道3日の場所で依頼料が金貨1枚とかでは、パーティで受けるにはお話にならないし、さすがにソロで受けるのは危険すぎる。

しかし、依頼を出した村にとっては死活問題であろうから、ハンターギルドとしては何とかしてやりたい。

だが、ハンターにそのような稼ぎにならない依頼を押し付けることもできない。

なので、たまに暇潰しやボランティアでそういう依頼を受けてくれるパーティがあると、かなり感謝されるのである。

普通であれば、どのような簡単な依頼でも、それなりの危険はあるし、時には思わぬこと……ゴブリン数匹のはずが、巣ができていて数十匹いたとか……もあるため、油断したり、馬鹿にしたりはできない。

しかし、『赤き誓い』と『ワンダースリー』であれば、そういう心配は、殆どないであろう。

また、それでも万一のことを考えて、マイルが古竜の里に行っている間は休暇にして、マイルと長期間連絡が取れない間には僅かな危険も冒さないところは、徹底した安全策を遵守する両パーティらしい選択であった。

「はい。ちょっと、あちこち廻ってみようかと……」

勿論、マイルがひとりで行動する時には、異常な速度で移動しているらしきことは、皆が察している。……敢えてそのことに言及はしないが……。

なので、あの漁村とかに顔を出すのだろうと思っている、レーナ達。

マルセラ達は、各地の旨いものを食べ歩くのかな、とか思っていそうである。

* *

そして翌日、クランハウスから出て、ひとりで王都を離れ……。

「このあたりでいいかな。探索魔法に、ヒト種の反応なし、と……。

よし、 重力操作魔法(ケイバーライト) 、発動!」

重力を相殺し、軽く地面を蹴って、上昇。

付近の木々を越え、山々の高さを越え……。

「防風シールド展開。重力の方向を、水平方向に歪曲!

……両舷全速ゥ、マイル、発進します!!」

そして、目的地に向かって、 地面に対して平行に(・・・・・・・・・) 落ちていく(・・・・・) 、マイルであった……。

* *

「漁村の諸君、私は帰ってきた!」

マッカーサーのパクリ台詞で漁村に降り立った、マイル。

目的は、勿論……。

「おじいさん、船の状況は?」

「おおお! 嬢ちゃん、来てくれたか!!

艤装は終わっとる。試験航海も終わり、帆柱も帆も快調じゃ。後は、実戦を待つばかり、じゃな」

以前渡した、『時を越える者』謹製の、鋼鉄製船体。

もっと軽くて 強靱(きょうじん) な金属で造ることも可能であったが、あまりにもオーバースペックで、後年オーパーツとして物議を醸すことのないようにと、鉄の船体に留めたのである。

但し、炭素の含有量を慎重に調整したり、ニッケルやクロムなどを加えたりして、強度と硬度、靭性、耐食性等を最適の状態にしたものである。

それに、村人によって帆柱や帆、その他様々な設備や部品を取り付ける艤装作業が終わっているとのことであり、それは『いつでも出航可能』ということを意味していた。

…… 船に関しては(・・・・・・) ……。

つまり、『乗員に関することを除いて』、ということである。

漁師は、充分に足りている。

……ということは、足りないのは『その他の者』。

護衛であった……。