軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

697 空を飛ぶ 1

どんっ!

地響きを立てて王城の中庭に着地した、ザルム。

威厳を演出するために、少し地面を揺らすが、建物が崩れたりはしないよう、ちゃんと計算した着地である。

この辺りも、マイルが人間との交流に慣れているザルムに依頼した理由のひとつである。

……あの後、古竜の居住地における激しい攻防戦の結果、マイルによる飾り彫りについては、また後日、改めて交渉の場を持つこととなったのである。

そしてとりあえず今回は、日数的な余裕もあまりないため、マイルが人間との交流に慣れているザルムを指名したのであった。

その、依頼内容は……。

「さあ、殿下、こちらへ……」

「……え? えええ? えええええええええ〜〜っっ!!」

テレス王女の手を引き、伸ばされた 古竜(ザルム) の腕の上を歩き、その背中へと 誘(いざな) う、メーヴィス。

しかし、テレス王女は足が 竦(すく) んで、歩けない。

それを察したメーヴィスが……。

「ちょっと、失礼しますね……」

「あ……」

ひょい、と両腕でテレス王女を抱え上げる、メーヴィス。

「お姫様 抱(だ) っこですよっ! リアルお姫様抱っこですっっ!!」

マイルがひとりで騒いでいるが、……お姫様の、お姫様抱っこ。まぁ、 そのまんま(・・・・・) である。

テレス王女をお姫様抱っこしたメーヴィスは、そのままザルムの腕の上を歩いて、その背中の頭部寄りの場所へ。

そして、その後に続く、マイル。

勿論、ザルムにはメーヴィスの指示に従ってくれるよう、事前に話を付けてある。

しかしそれでも、ザルムが本当に対等扱いしてくれるのは、名誉古竜であり名誉評議委員であるマイルだけなのである。

そのため、念の為にマイルが同乗するのであった。

それに、ないとは思われるが、もし万一トラブルが発生した場合には、重力操作魔法で皆を安全に地上へ降ろせるマイルがいると、心強い。

皆が所定の位置に就いたのを確認し、ザルムが背中をシールドで覆った。

背に乗せた者を落とすことのないよう、そして風圧が掛かるのを防ぐためでもある。

そこに更に、マイルがシールドを重ね掛けする。

これは、高度を上げた時の温度低下や酸素濃度の低下に備えたものであり、ザルムのシールドより遥かに高性能のものである。

「では、殿下、参りますよ」

「……え? ど、どこへ……」

「大空の旅へ!!」

ぽかんとした顔。……そしてその顔が、次第に笑顔へと変わり……。

「はいっ!」

満面の笑みを浮かべて、嬉しそうにそう答えるテレス王女。そして……。

「あ、あの、私のことは、テレス、とお呼びください!」

「……テレス殿下?」

「テ、レ、ス! ただの、テレスですっ!」

王女殿下を呼び捨てになど、できるわけがない。……普通であれば。

しかし、今ここには、自分達ふたり……と、黒子役に徹して空気になっているマイルしかいない。

ならば、本日の主役であり、誕生日を迎えた王女殿下の御希望に沿うことに、何の問題もない。

そう考えたメーヴィスが、にっこりと微笑んで……。

「分かりました、テレス」

ザルムの背に座ったメーヴィス。その両足の間にスッポリと収まるように座ったテレス王女の身体を後ろからしっかりと抱き締めて……。

「ザルム様、お願いいたします!」

『任せるが良い!』

ふわり……

あまりのことに、硬直したままひと言も発することができない、バルコニーの令嬢達。

親達がバルコニーに出ていなかったのは、幸いであった。

心臓麻痺やら卒倒やらの被害者が出なかった、という意味において……。

最初は、周囲に被害を及ぼさないようにと、翼で羽ばたくことなく魔法のみの力でそっと上昇した、ザルム。

そして、充分高度を取った後……。

ばさり

翼を動かし……それでも、揚力の大半は翼ではなく魔法によるものであろうが……、飛行を始めたザルム。

更に高度を取り、上昇していく。

「うわ……、うわぁ……。街が、王都が、小さくなって……」

そして、更に上昇し……。

「え……、これが、王都の周り……」

更に高く……。

「綺麗……。え? まさか、これが我が王国? こんなにちっぽけな……。

そして、向こうに広がるのは……」

「隣国、そして更にその向こうの国々ですね」

メーヴィスが、後ろからテレス王女の耳元に口を近付けて、そう囁く。

シールドで風は遮られているので、別に普通に喋っても充分聞こえるのであるが……。

「あ……、あ……、はうううぅ……」

破壊力抜群。

テレス王女、真っ赤になって、あうあう状態である。

いくら幼くとも、素敵な王子様に憧れるところは、しっかりと『少女』であった。

「……メーヴィス様……」

しばらくして、テンパっていたテレス王女が、やけに落ち着いた様子でメーヴィスに語り掛けた。

「やれ王族だ、やれ貴族だと威張っていても、我が国はあんなに小さいのですね……。

そして王都も、各貴族領も……。

ここから見れば人間など、アリどころか、 芥子(けし) 粒(つぶ) 程の大きささえありません。

女神様は、こういう視点で私達人間をご覧になっているのでしょうか……。

ならば、矮小な存在が、取るに足らぬ狭い場所を取り合って、争い、死んでゆく。そんな無意味なことを繰り返す愚かな生き物に、愛想を尽かされているのでは……」

「……それはどうかな?

女神様は、ちっぽけな存在には慈悲をお与えにならない、ということはないよね?

ならば、いくら高いところから見下ろしていても。いくら対象がちっぽけで憐れな生き物であっても。……いや、 ちっぽけで憐れ(・・・・・・・) だからこそ(・・・・・) 、慈悲をお与えくださるのではないかな?

そう。王族や貴族が負う、 高貴なる(ノブレス・) 者の義務(オブリージュ) のように……」

「あ……」

テレス王女の瞳が、輝いた。

しかしそれは、先程までのような、メーヴィスに対する憧れの瞳ではなかった。

……もっと広く大きなものを見る、強い輝きであった……。