軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

696 要 望 4

数日前。

マイルは、『引力の向きをねじ曲げる』という、 重力制御魔法(ケイバーライト) によって空を飛び、この大陸にある古竜の居住地を訪れていた。

……とある 頼み事(・・・) をするために……。

ごく短時間で済む用件で、旧大陸からケラゴンに来てもらうのは、申し訳ない。

そう思ったマイルが、ここ、新大陸の古竜に頼むことにしたのは、当たり前のことであった。

……ケラゴンは、マイルが自分を頼ってくれた方が喜んだであろうが、マイルはそういう発想には至らないので、仕方ない。

それに、マイルが訪れた居住地には、知り合いがいる。

コネは、使ってナンボ。

マイルも、そういう知識を持っていた。

「こんにちは~! ザルムさん、おられますか?」

『変な下等生物、キタアアァ〜〜!!』

古竜の居住地に来る人間など、いるはずがない。

そもそも、来られるものでもない。

なので、大騒ぎになるのは当たり前であった。

ザルムというのは、あのシルバ達の件……村長一派によるニセ依頼事件の時に、通訳に来てくれた2頭の古竜の内、下級の方の個体名である。

上級……おそらくこの居住地のトップ……は、名乗らなかったため、マイルはこちらの名しか知らない。

古竜は人間に名乗ったりしないので、マイルがザルムの個体名を知っているということが、そもそも驚きなのであろう。

「私、東の大陸の氏族から、名誉古竜の称号と名誉評議委員の証をいただいた者です。

これが、その証の、 竜の宝玉(ドラゴンボール) です……」

『こっ、これは……』

『確かに、竜の宝玉……』

驚く、古竜達。

……バレれば殺されることが確実である嘘を吐く者はいないであろう。

そう考える古竜達であるが……。

『……待てよ? 名誉古竜の人間といえば……』

『ああっ! 氏族長とザルムが言っていた……』

『『『『『『あの、角と爪の飾り彫りの!!』』』』』』

周囲にいた古竜達の視線が、一斉にマイルに集中した。

「あ~、ここでもソレですか……」

『おお、マイルではないか!』

「……あ、ザルムさん?」

マイルには古竜の見分けはつかないが、ここで自分を知っている古竜は、ザルムと、もう1頭のお偉いさんだけである。

そして、明らかにお偉いさんらしくない喋り方であることから、消去法でザルムだと判断したのであるが、その判別の自信のなさが語尾に現れていた。

そして他の古竜達は、ザルムが自分の名を教えただけでなく、 人間の名前を(・・・・・・) 覚えている(・・・・・) ということに、再び驚愕していた。

それは、相手を下等生物ではなく古竜が対等に話す相手として認めたということであり、滅多にないことである。

……しかし、あの角と爪の飾り彫りをした者とあらば、それも納得できよう。

何しろ……。

『マイルに彫ってもらった角と爪のおかげで、雌達にモテモテだ。感謝するぞ!』

やはり例の彫り師であったかと、ざわつく古竜達。

今のザルムの言葉が本当であれば、それも無理はないだろう。

「もうひとりの、偉い方の方は……」

『氏族長は、若い雌と散歩に出ておられる』

『『『『『『ケッ!!』』』』』』

周囲にいる古竜達が、一斉に不機嫌そうな声を出した。

……今、周囲にいるのは、皆、牡のようである。

ちなみに、古竜が言う『散歩』というのは、人間の感覚で言うと、かなり長期間の旅行である。

まあ、マイルは別に氏族長に用があるわけではないから、関係ない。

もしこの場にいるなら、挨拶くらいはしないと失礼になるかな、と思っただけである。

自分には、誰が氏族長か、顔の見分けがつかないので……。

マイルとしては、話しやすい相手であるザルムがいてくれれば、それで充分であった。

「……あのぉ、実はザルムさんにお願いがあるんですけど……」

『うむ、良いぞ。引き受けよう!』

「え? そんな、内容も聞かずに?」

『マイルが、我ら古竜におかしなことを頼むとは思えぬからな。

そして、マイルは名誉古竜であるから、我らの仲間として認められておる。

仲間の頼みを引き受けるのに、何の不思議もあるまい?』

「おお! な、仲間! 私に、大勢の仲間が!!」

マイル、大喜びである。

自分を『仲間』だと言われたことが、余程嬉しかったようである。

そして、古竜に仲間扱いされて、慌てるでもなく恐縮するでもなく、ただ純粋に喜んでいる 下等生物(にんげん) を見て、またまた驚く古竜達であった……。

* *

『……では、その人間の幼生体の誕生日とやらに顔を出せ、と?』

一生のうち何千回も迎える誕生日など、古竜にとっては何の意味もない。

人間達が使う 暦(こよみ) というものも関係ないし、特別なご馳走とかも、特にない。

しかし、下等生物の相手をすることを楽しんでいるらしき変わり者の古竜ザルムは、『誕生日』とか、そのお祝いという概念は知っていたようである。

「はい。その幼生体の誕生日に、もし古竜様がお見えになれば……。

その者は、その素晴らしいひとときを永遠に忘れることはないでしょう。

……そう。高々50~60年程度しか生きられない可憐な生物が、あなたとの思い出を胸いっぱいに詰めて生涯を過ごし、そして旅立つのです。

あなたへの感謝と親愛の情を抱いて……」

『お……、おお! おおおおおおお!!

何と、……何と美しい一生なのだ……』

何だか、感動に打ち震えているような様子の、ザルム。

(オチましたね……)

そして、にやり、と笑うマイル。

この惑星の知的生物は、人間もエルフもドワーフも獣人も魔族も、みんな『お涙頂戴』や『感動の物語』には免疫がない。

マスメディアが発達していないため、物語に接する機会があまりないせいである。

本は少ないし高価であり、そもそも識字率が低い。

田舎町には旅の劇団もあまりやって来ない。

なので、人々は物語に接する機会があれば、のめり込む。

……そして知能は高いが文字を持たない古竜もまた、『カッコいいこと』、『感動するようなこと』には弱かった……。

『おお……。何か、楽しそうだな……』

『お前、お遊びでゴブリンやコボルトを飼っていただろう? あれはどうした?』

『怯えてばかりで懐かないから、捨てた』

『馬鹿、下等生物愛護法違反で、氏族長に怒られるぞ!』

マイルとザルムの話を聞いていた者達が、ざわざわしている。

どうやら、長い寿命と代わり映えのない生活で、古竜達は皆、退屈を持て余しているようである。

そしてその中の一部の者達が、暇潰しで下等生物を相手にして遊ぶというのは、割とあることのようであった。

そのためか、先程のマイルの説明を聞き、ただ恐れられるのではなく、ひ弱で儚い下等動物に 慕(した) われ、憧れの目で見詰められ、幼生体と 戯(たわむ) れるのも面白いかも、と考えた者がいるようである。

そして、更に……。

『……おい、名誉古竜の娘。頼みを聞いてやれば、あのだな、そっ、その……、つっ、角と爪を彫ってくれるか?』

『『『『『『あ……』』』』』』

1頭の古竜が発した言葉に、辺りが静寂に包まれた。

『『『『『『……』』』』』』

『『『『『『…………』』』』』』

『『『『『『………………』』』』』』

『駄目だ! このオモチャは、俺のものだああぁ〜〜っっ!!』

そして響いたザルムの怒鳴り声に、肩を竦めるマイルであった……。