軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

695 要 望 3

「ええっ、メーヴィス様がいらっしゃると?」

「はい。先日話している時に、テレス殿下のお誕生日が近いらしいという話が出ましたところ、私達がお世話になっているエストリーナ殿下の妹君のお誕生日とあらば、ということで、古竜様に乗せていただくとかで……」

「…………」

古竜に乗る、というパワーワードに、一瞬、固まったエストリーナ王女。

……しかし、すぐに復活した。かなりの精神力である。

そして、『先日話している時』というマルセラの失言には気付かなかったらしく、『別の大陸にいる方と、どうやって話したのですか!』などと突っ込むことはなかった。

「……テレス、でかしましたわ!」

そして、本人はいないが、妹への称讃の言葉を口にする、エストリーナ王女。

妹はまだ幼いため、恋のライバルとはなり得ないと思い、その点では安心しているのであろう。

「それで、私達からもお祝いをしたいと思っておりますの。イベントの途中で、少しお時間をいただけないでしょうか……」

「ええ、勿論、大丈夫ですわ。

テレスはまだ幼いですから、あまり大勢を招くわけではありませんし、大規模な 演(だ) し 物(もの) とかもありませんし……。賑やかしになって、あの子も喜びますわよ」

エストリーナ王女は、また、前回のような芸……というか、 技(わざ) というか……を披露してくれるのだろうと思い、マルセラの頼みを快諾した。

……何も知らずに……。

* *

第四王女である、テレス殿下の誕生日当日。

家族、親しい王族、一部の上級貴族、そして仲の良いお友達を招いての、王女としては小規模な誕生パーティーに、『赤き誓い』と『ワンダースリー』の姿があった。

服装は、前回と同じである。……勿論、配役と設定も……。

なので、メーヴィス、マルセラ、マイルは貴族、その他はメイド役である。

参加者数は少ないが、前回と同じ出席者が多いので、そこは変えられない。

あまり早くから王子や王女の婚約者を決めると、派閥間の争いやらおかしな野心を抱く者やらが現れて陰謀を巡らす可能性があるため、姉姫達と同じく、テレス殿下にはまだ婚約者はいない。

まあ、第一王女や、女神の愛し子である大聖女の第三王女とかであればともかく、第四王女であれば政治的な意味は薄く、あまり注目を集めることはないため気楽であろうが……。

そんな第四王女の誕生パーティーなので、家族や親族、国民達は心から祝うのであるが、政治的な意味合いは、あまりない。そのため、王女の誕生パーティーとしては、やや小規模である。

本人にとっては、それは心安まる幸せなことかもしれないが……。

そして、そんな誕生パーティーが始まって、すぐに……。

「テレス王女殿下、お誕生日、おめでとうございます!」

「……え? ……メ、メメメ、メーヴィス伯爵様!!」

どうやら、エストリーナ王女は妹姫にメーヴィスが来ることを内緒にしていたようである。

一瞬、きょとんとして。

……そして、次の瞬間、顔一面に喜びの表情をたたえて席から飛び出し、メーヴィスに抱き付いた。

まだ10歳前後の幼い少女であるから許された、暴挙である。

これがもう2~3歳上であったなら、はしたない行為として、そして羨ましすぎる行為として、他の女性達から非難と嫉妬の目で睨まれても仕方ないであろう。……いくら王女殿下であろうと。

なので勿論、エストリーナ王女には絶対に許されない行為である。年齢的にも、立場的にも……。

(((ぎぎぎぎぎ……)))

そして、自分達には決して許されない行為を平然としでかした末の妹に、恨みがましい視線を送る、3人の姉姫達。

そして更に……。

((((((ぐぎぎぎぎぎぎ……))))))

会場中から放たれる、鉄板をも貫きそうな、嫉妬の視線。

王族や貴族だけでなく、平民であるメイドや給仕に至るまで。

そして、幼女から老婆まで……。

((((((メーヴィス、恐ろしい子!!))))))

そして、マイルの『にほんフカシ話』によって刷り込まれたフレーズを心の中で叫ぶ、メーヴィス本人以外のクランメンバー達……。

* *

その後、令嬢避けに、テレス王女の側を離れず、ずっと王女のお相手を務め続ける、メーヴィス。

これが第一王女だとか第三王女のエストリーナとかであれば騒ぐ者も出たであろうが、テレス王女相手では文句も出ず、また、自分の誕生日における最大のサプライズに大喜びの幼い王女からメーヴィスを引き離すという非道を行うことのできる者は存在しなかった。

そのため、至福の時を過ごす、テレス王女。

そして、程良い時間になった頃……。

「テレス殿下、バルコニーに出られませんか?」

「……え? そ、それって……」

男性に、バルコニーに 誘(いざな) われる。

ロマンス本で、何度も読んだシチュエーションである。

「「「なっ! ななな……」」」

そして勿論、そういった本は姉妹で共有しているため、姉姫達にもそういう知識はある。

まだ子供だと思って、油断した!

そう思い、まだ幼い妹が喜ぶことを優先し、今日は我慢することにしていた自分達の大失策を後悔する、姉姫達。

テレス王女をエスコートしてバルコニーに出るメーヴィスに、ゾロゾロと付いていく王女達、クランメンバー、そして貴族家の令嬢達。

これでは、バルコニーが人で一杯になり、ロマンチックな雰囲気にはなれないであろうに……。

そして、バルコニーに出たマイルが、上空に向かって魔法を放った。

……炎弾、マイル・エディション。

真っ直ぐ上空に打ち上げられた炎弾が 弾(はじ) け、大空に綺麗な花を咲かせた。

これを見せるためにバルコニーへ出たのか、と思った者もいたが、しかしそうではない。

……これは、ただの 合図(・・) に過ぎなかった。

何の合図かと言うと……。

「……あれは何だ?」

遠くから飛んでくるものを目にした者が、 それ(・・) を指し示し……。

「鳥か?」

「 飛竜(ワイバーン) か?」

「……いや、違う……。

あれは……、あれは……」

「「「「「「古竜だああああぁ〜〜!!」」」」」」

……そう。

それは、真っ直ぐにこの王宮目指して飛び来たる、古竜の姿であった……。