軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

693 要 望 1

「マルセラ様、そろそろ、良いのではないですか?」

「……え? 何が、でしょうか?」

「あなたのお 義兄(にい) 様である、メーヴィス・フォン・マイレーリン伯爵様の、我が国への御訪問ですわよ!」

定期的に顔を出せ、というエストリーナ王女からの強い要望があったため、時々王宮へと登城している『ワンダースリー』の3人。

そしてエストリーナ王女の姉や妹を含めた4人の王女達と『ワンダースリー』の、計7人の少女達によるお茶会が開かれていたのであるが……。

そこで、エストリーナ王女からいきなり出された話題が、これであった。

「……あ、いえ、それは……」

エストリーナ王女は、マルセラが子爵家令嬢であり、かつ自分自身も子爵位を持つ爵位貴族であることを知っている。

それでも、王女である自分達から見れば遥かに格下ではあるが、モレーナ王女の親友にして腹心の部下であることと、『竜巫女4姉妹』として古竜との強い繋がりがあることから、マルセラとモニカ、オリアーナとはほぼ自分と対等に近い態度を取ってくれる。

そのため、姉姫や妹姫も、同じように接してくれるのである。

特に、妹である第四王女は、古竜に乗って大空を自由に飛び回れる『ワンダースリー』のことを心から尊敬しており、いつか自分も古竜に乗せてもらって大空を、という野望を密かに抱いている。

そんなエストリーナ王女からの、いつにない強い口調での要求に、少し戸惑うマルセラ。

「い、いえ、私達の母国も、 義兄(にい) 様がおられる隣国も、ここからは海を 隔(へだ) てた遥か遠くですから、そう簡単には……」

「モレーナ王女の収納魔法に入れていただけば、一瞬ではありませんか?」

「「「あっ……」」」

3人揃って声を漏らしてしまった時点で、認めたも同然であった。

というか、それで人間が移動できることは、既に自分達で証明してしまっている。

「前回は、古竜様に運んでいただいたのかもしれませんけど、今後は遠慮なく私とモレーナ様の転移システムをご利用いただきますよう、メーヴィス様にお伝えくださいましね!」

「う……、は、はい……」

* *

「……ということが、あったぞな……」

「マイルの口真似をしていると、 伝染(うつ) るわよ……」

「あわわわわ!」

レーナの指摘に、慌てて自分の口を押さえる、マルセラ。

「私は、伝染病の病原体ですかっ!」

……そして、保菌者扱いされて、ぷんすこのマイル。

この世界では、細菌やウイルスは発見されていないが、『病気がうつる』ということは認識されているし、『赤き誓い』と『ワンダースリー』のみんなは、治癒魔法の授業やフカシ話を通じて、マイルから色々と教えられているため、『病原体』という言葉の意味も理解している。

「と、とにかく、以前にも何度か催促されましたけれど、今回はかなり強い要求でしたの……。

これは、何とかしないと、益々面倒なことになりそうですわ……」

「「「「「「…………」」」」」」

あれは、あくまでも王女達に対する婚約の強要が企まれているであろうパーティーを掻き回して、主要貴族達の前でエストリーナ王女達がおかしな 言質(げんち) を取られないようにするという作戦であった。

そのため、完全に男装すれば理想の王子様になれるメーヴィスを登用し、『王女様は今、異国の若き伯爵に憧れていて、他の男性との婚約とかは眼中にない』という作戦を遂行したわけである。

……勿論、『その後、現実に目覚め、少女の夢は諦めて、それなりの相手と婚約する』というストーリーであった。

あった、はずなのであるが……。

「本当に落としちゃった、メーヴィスが悪いのよ!」

「いや、そんなことを言われても……。

私はただ、みんなで立てた作戦通りにしただけだよ……」

「銅貨斬りと 腕相撲(アームレスリング) が余計だったのでは?」

「いえ、あの流れでは仕方なかったでしょう。あれは妥当な判断でしたよ」

みんなが勝手なことを言っているが、今更言っても仕方ない。

そもそも、爵位詐称は 何処(どこ) の国でも重罪なので、それは誤魔化すわけにはいかなかったのである。

この見た目で、この物腰で、この性格で、自身が伯爵位を持つ、異国の超凄腕騎士。

貴族や王族の男達は皆、傲慢で自信過剰な男尊女卑の男ばかりで、優しく誠実な男性など、平民が読む御伽草子かロマンス本の中にしか存在しない。そう思われている世界に、突如として現れた、実在する白馬の騎士。……しかも、凄腕で、伯爵様。

そんなもの、貴族の娘や王女様どころか、幼女から老婆まで即堕ちに決まっている。

「そもそも、どうして事前にメーヴィスが本当は女性だって教えておかなかったのよ!」

「いえ、それだと王女の反応が不自然になるかもしれないから、ということで、満場一致でそう決めたじゃないですか。レーナさんも賛成していましたわよね?」

「ぐっ……。ま、まぁ、確かにあの時は、その方がいいと思ったわよ……」

マルセラに突っ込まれて、引き下がるレーナ。

自分の失敗は、素直に認める。レーナの良いところである。

「あの、今からメーヴィスが女性だと教えては……」

「それは駄目ですわ……。

完全に『恋する乙女』の目になっているエストリーナ王女が、急に、その、……何でしたっけ、以前マイルさんが形態模写されておりました、あの何とも言えない虚無の……、あ、そうそう、『チベットスナギツネのような顔』になられますと、何かあったと王宮の皆さん全員に悟られてしまいますわ。上は国王陛下、下は下級メイドの方々まで、全員に……」

「「「「「「あ~、確かに……」」」」」」

全員が、マルセラの説明に納得した。

「それに、エストリーナ王女も頭の中では分かっておられるはずですわ。

大聖女である自分が、他国へ嫁ぐことなど許されるはずがないということくらいは……。

私達の国はあまりにも遠く、自分達では行き来することができませんから、交易どころか、国交さえ不可能ですからね。

王女転移システムによる飢饉対処も、王女がこちらの大陸にいるからできるのであって、向こうの大陸に嫁げば、意味がなくなりますからね。

……だから、今だけでも、ほんの少し夢を見て、楽しんでいただきたいな、と思うのですわ……。

そして数年後には、王女は国内の有力貴族へと嫁がれるでしょう。

メーヴィスさんのことは、少女の頃の憧れ、若き日の想い出として、そっと心の奥にしまったまま……」

「「「「「「…………」」」」」」

「……って、何、しんみりとしたいい話に纏めてるんだよっ!

これから先、私は貴族や王族の前ではずっと男の恰好をしていなきゃならないの?」

メーヴィス、困惑。

「そうなりますわね……。

パーティーで大勢に男装姿を見せたメーヴィスさんは、 ハンター装備(このまま) の姿で王宮に行くわけには参りませんから、その時には、また伯爵様の恰好をしていただく必要がありますわ」

メーヴィスは、普段のハンター装備の時はパンツスタイルであるが、それは男っぽい恰好だというだけであって、別に男装というわけではない。

なので、一瞬は男性かと思われても、ちゃんと見れば、胸部の防具の形状とかで、女性だと分かるであろう。

だから、王宮とか貴族がいるところとかに『Cランクハンター、メーヴィス』ではなく『異国の貴族、メーヴィス・フォン・マイレーリン伯爵』として姿を見せる時には、完全な男装でなければならない、ということに……。

「…………」

がっくりと 項垂(うなだ) れるメーヴィスであるが、そんな機会は滅多にあるまい。

普段はいつもの恰好でいても、そうそう貴族と超至近距離で出会うわけではないし、俯き加減にしていれば、服装が全く違う上に性別も異なるハンターがまさか異国の伯爵だなどと思う者はいないだろうから、そうそうバレるようなことはないであろう。

……余程勘の良い者でなければ……。