軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

692 ルイエットの旅立ち 2

「遂に、調査の旅に出発ですわね!

ひとりだと心細かったでしょうけど、ギンガ、あなたがいてくれるから、心強いですわ!」

『お任せください! 護衛、ガイド、アドバイザー、その他諸々。自律型万能機械知性体である、このギンガに!!』

何か、やけに張り切った様子の、ギンガ。

自律型であるが、勿論、すでに惑星中に張り巡らされている先史文明チームのネットに接続して情報を得たり、上位存在である『時を越える者』に支援を求めることもできる。

しかし、自律型であることに誇りを持っているのか、いつも自分が自律型であることを 殊更(ことさら) に強調する傾向にある。

……かなり個性的な特性を持っている個体のようである。

「まずは、この国を廻って、基礎的な調査を行いましょう。その後、周辺国、大陸全体、そして他の大陸へと、調査の範囲を広げます。

どこかに、整備基地以外にも先史文明の遺跡が残っているかもしれませんからね……。

最初は、情報が集まりやすい都市部で活動いたしましょう。

とりあえず、近くにある大きな町へ向かいますわよ!」

『はい!』

都市部で調査するならば、最も多くの情報が集まるであろう大都市を選ぶべきではないのか。

……たとえば、ついさっきまでいた、この国の王都とかを……。

なぜ、そこで調査せずに、すぐに旅立つのか。

そう疑問に思わないでもないギンガであったが、特にルイエットに相談されたわけでも意見を求められたわけでもなく、そしておそらく何かそうするべき理由があるのだろうと考えて、特に反対することなく、ルイエットの判断に従うのであった……。

* *

「……疲れましたわ……。今日は、このあたりで野営しましょう」

『はい!』

やはり、ルイエットには長時間歩き続けるのは少し厳しいようであった。

頻繁に休憩を取ったし、まだ日没までにはかなり時間があるというのに、早々に今日の移動は終了となった。

ギンガは暫定的な 主(あるじ) であるルイエットに関してマイルから充分な情報を得ているため、ルイエットには持久力がないということはちゃんと把握している。なので、『もう少し進んだ方が……』などと言って、ルイエットに無理をさせるようなことはない。

「ええと、確か街道を進む人達から見えないように道から外れて、木々で隠れたところで野営する、ということでしたわね」

ちゃんと、みんなから教えられた安全対策を遵守する、ルイエット。

ここまでの、そう長くない道のりの間だけでも、他の旅人達に何度も話し掛けられたのである。

ひとりなのか。

馬車に乗せてあげよう。

一緒に行ってあげよう。

その他諸々……。

ルイエットは、どう見ても、貴族か金持ちの娘にしか見えない。そして、僅かな荷物しか持っていない。とても野営できるとは思えない軽装である。

……荷物の大半は、 犬型収納魔法袋(アイテムドッグ) に入れてあるので……。

『アイテムバッグ』ではない。『アイテム ドッグ(・・・) 』である。

勿論、命名者はマイルである。

しかし、人前でその名を使うとギンガと関連付けられてしまう危険性があるため、その呼び方はせず、あくまでも『自分の収納魔法である』と言い張るようにと、何度も念押しした、マイル。

……ならば、なぜそんな名を付けたのか……。

おそらくそれは、 マイルだから(・・・・・・) 、だと思われる。

とにかく、そういうわけで、悪い考えを抱いた者も、ただお近づきになりたいと考えただけの者も、……そして本当に若い女性のひとり旅を心配してくれた者も、皆が声を掛けてくるのである。

中には、本当に善意で声を掛けてくれた者もいるのは、ルイエットも理解している。

そういう人からの『馬車に乗せてあげよう』というお誘いには、少し、……いや、かなり心が惹かれたが、もし便乗させてもらった場合、その間、ギンガと話すことができなくなる。

さすがに、古竜以外の喋る動物というのは、目立ちすぎるであろう。

下手をすると、悪党や金持ち、権力者達に目を付けられ、奪おうとされたり、国王陛下への献上を強要されたりする可能性がある。

それに、乗せてくれた者達から、色々なことを聞かれまくるに決まっている。

今はまだ、色々な質問に全てそつなく答えられるほどの知識はない。なので、会話を拒否しづらい状態が長時間続くのは、避けるべきであった。

その内、馬車に便乗させてもらうようになるかもしれない。

……しかしそれは、今後ギンガと色々な話をして、しばらく話をしなくても気にならないくらいに絆が強まってからだとルイエットが考えており、それまでは、ゆっくりであってもいいから一緒に歩くつもりのようであった。

* *

「できましたわ……。では、夕食の支度をしましょうか」

テントを設営したルイエットであるが、できたも何も、マイルがクランハウスの庭で組み立ててくれた小さなひとり用テントを、アイテムドッグから出しただけである。

水や食料、着替えやらその他諸々を入れていても、ひとり用の小さなテントくらいは入れられる。

体積はともかく、重さがあまりないために負担が少ない……と他の者には説明できるが、実際には収納魔法ではないため、そういった制限はない。ただ単に、ナノマシンが容量制限を掛けているだけである。

「……では、 竈(かまど) を、と……」

そう言いながらルイエットがアイテムドッグの中から取りだしたのは、この辺りで使われている普通の竈ではなく、耐火シート(焚き火台シート)、焚き火台、そしてその上に五徳……調理器具を乗せるための支持具……が取り付けられている、自然に優しいものである。

直火……地面で直接焚き火をすると、地面や植生、木の根等を傷めるし、燃え残りや灰の始末が面倒な上、完全に消えずに残った火種から火事になることもある。

なので、テントやその他諸々と一緒に、マイルに渡されたものであった。

火を使う時は、立木から3m以上離れたところで、と、何度も念を押された上で……。

しかし、実はマイルも、毎回こういう特殊なものを使っているわけではない。

複数種類の料理を4人分同時に作るにはこの焚き火台では不足であるし、他の者に見られると、明らかに奇異に思われるので……。

なので、なるべく岩場を選ぶとか、後始末をきちんとやる、という程度に留める場合が多い。

ルイエットも、自然破壊には厳しい制限がある世界で育ったため、マイルの指示には何の疑問も抱くことはなかった。まだ、それを聞いていたクランメンバーの方が、そこまで気にしなくても、と思っていたくらいである。

しかしルイエットは自分ひとりの分しか料理を作らないし、明らかに貴族っぽく見えるため、多少おかしな道具を使っていても、『貴族のお嬢様の趣味』とでも思われるだけであろう。

「ギンガは、食事ができないのですよね?」

『偽装のために食べる振りは可能ですが、後でそのまま排出するだけとなります』

「……そうですわよねえ……。

身体の造りから、一緒にテーブルで、というわけにも参りませんわよね。

食材を無駄にしないためにも、無理に食事に付き合っていただく必要はありませんわよね……」

このあたりは、現実的に考える、ルイエット。

「今日はまだ明るいですから、お肉でも焼きますか……」

クランメンバー達による特訓の中には、ちゃんと野外調理も含まれていた。

そして、何でもそつなくこなせるルイエットは料理も簡単にマスターし、レーナに歯噛みさせていたのであった。

アイテムドッグの中には、マイルが作り溜めしてくれた、かなりの量の料理が入っている。

しかし、それは時間がない時や、まともな料理が食べたくなった時のために温存すべきだと考えたようである。

長期に亘る調査活動においては、空気と水と食料の管理には万全の配慮が必要。

……調査隊の隊員としては、常識である。

こうして、ひとりと1頭の旅が、幕を開けたのであった……。