軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

674 モレーナ王女の休日

休養日ですわ。

……それも、公務のない、久し振りの 本当の休養日(・・・・・・) ですわ!

いえ、確かに、暦上の休養日は、週に1回ありますわよ。

でも、大抵は休養日にも公務が入っているのです。

……表向きは、休養日の娯楽、お遊びという 体裁(ていさい) を取った、強制的なものが……。

ええ、有力貴族や国外からの 賓客(ひんきゃく) 、宗教関係の著名な方々とのお食事会やパーティー、懇親会、お茶会、狐狩りとか、その他諸々……。

そして、会話の中の言葉の端々に、『婚約』とか『女王』とか『国母』とかいう単語が……。

そんなの、普通の公務より疲れますわよ、精神的に……。

しかし今日は、本当に久し振りの、何もない休日ですの!

一日中、ベッドでゴロゴロしていたい気もしますが、せっかくのお休みをそんなことで無駄にするのも勿体ないですから、頑張って外出します。

勿論、その前に食事と身支度を済ませてからですけど……。

* *

かららん……。

いつものドアベルの音が聞こえ、反射的に戸口の方……、つまり私に集中します、たくさんの視線。

それもまた、いつものことですわ。ドアベルが鳴れば、ハンターやギルド職員の目が戸口に集中し、そしてまた、すぐに元に戻るのは……。

ここ、ハンターギルドに入ってきたのが、馴染みのハンターか、美味しい依頼を持ってきた依頼主か、他の町からやって来た余所者のハンターか、ハンター登録に来たひよっこか……。

それを確認して、自分達のカモとなりそうな者でも、そして脅威となりそうな者でもないと分かれば、一瞬で興味をなくし、元の状態に戻る。……それが、ハンターの習性なのですわ。

私も、ここ、ハンターギルド王都支部でハンター登録をしてから、もうすぐ1年。

受けた依頼はそう多くはありませんけど、時々は依頼をこなしておりますわ。

……でないと、ハンター資格が抹消されてしまいますし……。

それに、私はこれでも、あの超有名パーティである『ワンダースリー』の一員なのです!!

……一緒に依頼を受けたことは、一度もありませんけど……。

でも、あのアルバーン帝国における『対異世界侵略者絶対防衛戦』に参加しました!!

……しかし、あれはハンターとしてではなく、この国の第三王女としての参戦でしたから、新米ハンター『モレン』としての功績にはなりませんけれど……。

でも、あの後、ランクアップしたのですわよ!

ギルドマスターからお部屋に呼ばれまして、魔法の腕と『対異世界侵略者絶対防衛戦』に参加したことに鑑み、Dランクに昇格させていただきました!!

何でも、戦場で 私(モレン) を見掛けたハンターさんがおられたとのことで……。

つまり、 第三王女(モレーナ) としての私と、 Fランクハンター(モレン) としての私、両方がそれぞれあの戦いに参戦していたと認められた、ということですわね。

何だか、報酬の二重取りみたいで気が引けましたけれど、別に金銭を戴くというわけではありませんから、ありがたく昇格をお受けいたしました。

ギルドマスターさんは、『本当であれば、一人前であるCランクにしてやりたかったが、さすがに3ランクはなぁ……。それに、嬢ちゃんがCランクパーティに入って、というのは、いくら魔法の腕が良くったって、ハンターとしての基礎がないから、心配でな……』と言われまして、勿論その説明に十分納得しましたので、お礼を言っておきましたわ。

そして……。

「お待たせいたしましたわ」

「いや、俺達も、さっき来たばかりだ。

さ、受注する依頼を選ぼうか……」

待ち合わせをしていた、私の仲間達。

男性3人、女性3人。

私は『ワンダースリー』のパーティメンバーですから、この方達は『一緒に依頼を受注する仲間』ではありますが、私のパーティメンバーというわけではありません。

私が『ワンダースリー』と一緒に行動できないため、ほんの時々しか参加できないにも拘わらず、都合が合えば仲間に入れて一緒に受注してくださいます、親切なお友達ですわ。

この中の女性ひとり……たまたま、私と同時に参加されるようになった方……も、私と同じように、たまにしか参加されないそうです。なぜか、私が参加する時にはいつもおられますけど。

おそらく、私よりはずっと頻繁に参加されているのでしょう。

……とにかく、私がこの国の王女であることを知らず、ごく普通のハンター仲間として扱ってくださいますこの方々と一緒のお仕事は、とても楽しいのです。

そして、またいつか訪れるかもしれない我が国の危機に際しましては、前回以上に民を護るお役に立てますよう、お仕事を通じて戦いのための実力と知識を身に付けるために、頑張りますわ!

それに、私が王女だとは知らない方達との会話は、心安まる感じで、楽しいですわ。

王族ではない、普通の平民としての時間は、私にとって良き経験になります……。

* *

今日は、モレーナ王女殿下がハンター活動をなさる日だ。

なので、騎士の仕事は他の者達に任せて、ひとりの新米ハンターとして、いつものパーティに臨時で参加している。

殿下がこのパーティに臨時参加を勧誘された時にその場に居合わせて、そしてその時に私も同じく臨時参加として潜り込むことができて、良かった。

……本当に……、本っっっ当に、良かった……。

あまりにもあからさまな、『彼女募集中!』というオーラを出しまくっていた、男3人、女ふたりの若手パーティ。

そこに、ホイホイと簡単に引っ掛かった王女殿下。

……いや、この連中が悪い者達ではないということは、すぐに分かった。

しかし、善人であるということと、美しく魅力的な少女であらせられる王女殿下に劣情を抱くかどうかとは、別問題である!

なので、女性騎士見習いであり連中と年齢が近い私が即座に割り込み、殿下と同じく、たまに臨時加入するメンバーとなれたわけだ。

おかげで、騎士見習いの『見習い』が取れて、予定より遥かに早く正式な騎士になれたわけであるが、それは、魔物や悪党、そしてハンター達からその身をもって殿下をお護りするという危険な任務に対する、報酬の前払いのようなものである。

……少し離れた位置にいる隠れ護衛が駆け付けるまでの数秒間を、その命をもって稼ぐということに対する……、つまり、騎士として心残り無く死ねるようにという、ありがたいお心遣いである。

まあ、王女殿下をお護りして殉職するなど、騎士としてこれ以上はない 誉(ほま) れなので、文句はないが……。

……そして、そして……。

何と、モレーナ王女殿下は、異世界からの魔物の侵攻の最前線に立ち、大陸中にその勇姿をお示しになられたのだ!!

アルバーン帝国における『対異世界侵略者絶対防衛戦』で、最前線で王族旗を掲げた唯一の王位上位継承権者であり、年若く、可憐で美しい少女。

各国の王族達は、その一部が正規軍を率いて東方での『オーブラム王国王都絶対防衛戦』に出陣しており、その他の大半の者達は、安全な母国の王宮に残っていた。

その中で、 燦然(さんぜん) と輝く、モレーナ王女殿下の御活躍!!

あの時は、殿下自らが設立された、直轄の部下である女性近衛分隊を率いての御出陣であったため、自分が御一緒できなかったことが口惜しい……。

しかし、あの戦場での殿下の御活躍は、私がお護りし、このパーティで魔物との戦いを経験されたことが大きな 礎(いしずえ) となったものだ。殿下も、そのことは十分にお分かりくださっていることだろう。

……そう。

モレーナ王女殿下は、私が育てた!!

あの戦いで名を挙げられた殿下は、第三王女の身でありながら、今では次期国王、女王陛下として望まれる程の人望をお集めになられた……。

もし。もし、殿下が女王となられたら。

そして、私の功績を覚えていてくださったならば……。

……私が、史上初の、女性の近衛騎士団団長となれる可能性が、なくもない、とか……。

……うひ。

うひひひひひひ……。

* *

(また、妄想の世界に入ってるよ……)

(し~っ! 殿下をお護りするために、色々と考えてるんでしょ。温かく見守ってあげなさいよ)

パーティの元々のメンバーである5人……男性3人、女性ふたり……は、モレーナ王女……Dランクハンター、モレン……と、護衛の少女をそっと見守っていた。

(……でも、ハンター達とギルド職員全員と、王都の人達の大半が知ってるよな、モレンがモレーナ王女だってこと……。あれだけ派手に活躍が大空に映し出されたし、普段からバレバレの行動を取ってるし。……隠れ護衛が、時々 隠れていない(・・・・・・) し……。

密着護衛にしても……)

(あの子の本職が騎士見習いだってことも、喋り方や身のこなし、剣筋とかから、丸分かりだしね。

モレンの加入時に、慌てて自分も入ろうとしたのも、不自然さ、違和感バリバリだったし……。

そして、常にモレンの方を見ているし、少しでもモレンが危なくなると、血相変えて飛んでいくし……。

あれで護衛役だと気付かない者なんて、いやしないわよ)

(うん……。

でも、なぜか殿下……モレンは『私達が、そんなことには全く気付いていない』という想定で行動されているみたいだから、俺達もそれに合わせているんだけど……。

他の連中も、同じだよな?)

(ええ……。別名でのハンター登録は問題ないし、犯罪者を除き、ハンターの過去を詮索するのは 御法度(ごはっと) だから、ギルド職員は絶対にそこには触れられないわ。

ハンター達も、英雄にして大聖女であるモレーナ王女の意に反することなんかするはずがないから、それとなく手助けしてくれる以外には、そっとしてくれているし……)

(まあ、ハンターとして活動する時には、平民達との間に壁を作らず、対等の仲間として 在(あ) りたいという、崇高なお考えなのでしょう……)

(ああ。ま、俺達は、この光栄な役割をしっかりと果たすだけだ。

何も知らないハンター仲間、としてな……。

まぁ、ギルドマスターから『命に代えても モレン(・・・) を護れ!』という特命を受けていて、その分の依頼料も貰っているからな。

……そんなものを貰わなくたって、この命を盾にして護るつもりだがな、勿論……)

(……あ、ふたりが妄想から復帰したみたいよ!)

「よし、じゃあ、今日は 角ウサギ(ホーンラビット) を狩りながら、遭遇したゴブリンやコボルトを討伐するか! どれも常時依頼だから、ノルマや違約金が発生しないから気楽だし、戦闘訓練もできるしな。みんな、どうだ?」

「「「「「「異議なし!!」」」」」」

「では、行くぞ!」

「「「「「「おおっ!!」」」」」」

* *

「行ったか……」

「モレーナ王女殿下に、幸運と祝福を……」

「「「「「「幸運と、祝福を……」」」」」」

パーティが出て行った扉に向かって、両手を組んで祈りを捧げる、ハンターとギルド職員達であった……。