軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

671 パーティー 6

ビクッ!

何か、背筋が寒くなるような感覚を覚え、マイルがそっとその方向に目をやると……。

(マアァ~イイィ~ルうぅ~……)

「ひえっ!!」

どうやら、やらかしてしまったらしい。

馬鹿ではないのだ、それくらいは分かる。

では、馬鹿ではないのであれば、どうしてこんなことをしでかしてしまったのか。

……それは、『マイルだから』である。

前世では、家族と本と漫画と映画とアニメとゲーム以外では、あまり楽しいことを知らなかった。

転生して、マルセラ達と、そして『赤き誓い』と出会ってからは、仲間内での楽しいことは、色々と経験できた。

しかし、こういうタイプの、『学芸会や演芸会的なノリ』は、初めてであった。

……いや、悪党を糾弾するために芝居がかった台詞を言ったりはしたが、あれは『楽しむためのもの』ではなかったので、別物である。

なので、メーヴィスと筋肉オヤジとの『 好敵手(ライバル) 同士の熱い戦いと、勝負がついた後の友情の握手』とかを見て、舞い上がってしまったのである。

……私も混ぜて、と……。

それを 理解し(わかっ) てくれそうなのは、メーヴィスと『ワンダースリー』だけである。

なので、助けを求めるかのように、すぐ近くにいるマルセラ、そしてレーナの側にいるモニカとオリアーナの方を見たマイルであるが……。

「「「…………」」」

3人共、冷ややかな目でマイルを見詰めていた。

(あああああああっ! 帰ったら、怒られるうぅ……)

それは、仕方ないであろう。自業自得である。

メーヴィスは、依頼任務遂行のために必要だと判断した行為であった。

しかし、マイルは完全に自分のお遊びである。

しかも、ワイングラス斬り、……特に 脚(ステム) の縦方向の切断は、完全にやり過ぎであった。

銅貨斬りでさえ異常だというのに、これは、明らかに常軌を逸している。

物理法則に喧嘩を売る、殆ど神の所業である。

……なので、女神本人かその眷属でないならば、その御寵愛を受けし『女神の愛し子』であるということ以外に、そんなことができることの説明がつかない。

そして、マイルがそっと周りの様子を窺うと……。

もう少しでマイルの『銅貨4分割』を完全にマスターできて、剣においてはマイルに追いつけると思っていたのに再び突き放されて、ガックリと肩を落とすメーヴィス。

その剣技と女神の祝福に、呆然とする人々。

……そして、『どうすんだよ、コレ……』という、クランメンバー達からの冷たい視線であった……。

その後、令嬢達とその両親に取り囲まれたメーヴィス、令息達とその両親に取り囲まれたマイル、そして何とか場を静めようと頑張る王宮側スタッフで、パーティー会場は大混乱。

予定されていたらしい王女達からの挨拶やら、その後に何やら企まれていたらしい第三王女に対するアプローチ計画とかも、全てが行われることなく、ぐだぐだの内に終了したのであった……。

* *

「「「「「やり過ぎ!!」」」」」

「「ごめんなさい……」」

皆に叱られ、ショボ~ン状態のマイルとメーヴィス。

今は、深夜。

王宮でのパーティーがぐだぐだの内に終わり、クランハウスに戻った一同が居間でお茶を飲んでひと息入れた後、マイルとメーヴィス以外の5人の声が揃ったのであった。

「いえ、メーヴィスは仕方ないわよ。がっつく令嬢達に思わず引いちゃったのは仕方ないし、その流れを変えてメーヴィスをカッコ良く見せるためにマルセラが銅貨斬りを指示したのも、絡んできた貴族を華麗にあしらってカッコ良さを維持したのも、王女殿下からの依頼を遂行するためには必要なことだったわ。……少々、過剰気味ではあったけどね……」

レーナの言葉に、ほっとした顔のメーヴィス。

そして……。

「問題は、マイル、……あんたよっ!」

「ひぃっ!」

「自分が楽しむための、不必要なパフォーマンス! それも、何なのよ、あの『ワイングラス斬り』とかいうヤツ!!

あんなの、どう考えても不可能でしょうがっ!

どうせ、あんたの 魔法の国から来た(・・・・・・・・) お友達(マスコット) の仕業なんでしょ。それか、無詠唱魔法を使ったか……」

「うっ……」

レーナが言う通りであった。

さすがに、マイルも自分の剣技や身体能力だけであんな真似ができるわけがなかった。

あれはマイルにとっては武芸大会とかではなく、ただの宴会芸に過ぎなかった。

なので、マイルは魔法を使うことに対しては何の抵抗もなかったのである。

メーヴィスさんもズルをしていたし、と考えて……。

パーティーの参加者達は、あの場では魔法が使われておらず、剣技と腕力での勝負が繰り広げられていたこと、そしてマイルが完全な無詠唱魔法を使えるなどとは思ってもいなかったこと、そして魔法でグラスを両断するなどという発想に至らなかったことから、それには全く気付いていなかったのである。

「……まぁ、結果的にはパーティーの段取りをメチャクチャにできて、予定されていた王女様達のお言葉もなくなって、その後に企まれていたらしいエストリーナ王女に対する婚約話の発案とかも全てお流れになっちゃったから、問題ないと言えば問題ないんだけどね……」

レーナが寛容な態度を見せたため、ほっとするマイル。

「……それに、メーヴィスの銅貨斬りも、そう難しい技じゃないしね」

「「「「「「……え?」」」」」」

レーナの言葉に、驚きの声を上げる6人。

それも無理はない。

銅貨斬りは、皆が知る限りでは、マイルとメーヴィスにしか使えない技である。

未だかつて、他の者に真似ができた 例(ためし) がない。

「あれくらい、私にもできるわよ」

「な、なっ……」

銅貨斬りの創始者であるマイルは、レーナの言葉にただぽかんとしているだけであるが、必死の思いでそれを身に着けたメーヴィスは、何やら異議がありそうであった。

「ん? 納得行かない、って顔ね。

……じゃあ、誰か銅貨を投げて頂戴」

そう言って、左腕を軽く捻るように振り、前腕部分に仕込んでいた暗器……スティレットの一種……を振り出し、左手に握ったそれを右手に持ち替えたレーナ。

「「「「「「…………」」」」」」

皆、怪訝そうな顔をしている。

……無理もない。レーナが腕に仕込んでいる暗器は、敵の油断を衝くための、奇襲用である。

決して、レーナに刃物による近接戦闘の才能があるわけではない。

「……では、私が……」

だれも動かないため、仕方なくマルセラがその役を買って出た。

レーナが無謀なことを言い出した理由は分からないものの、誰かが引き受けないと話が進まないと思ったことと、明らかにレーナには何らかの意図があると察したためである。

そして、懐から出した巾着袋から1枚の銅貨を取り出して……。

「いいですか? 行きますわよ! えいっ!」

そして、投げられた銅貨はレーナに向かって放物線を描き……。

ひゅん!

ちゃり、ちゃり~ん……。

暗器を握り締めたレーナの右腕が振られ、床に落ちた、ふたつの金属片。

皆が動かない中、マルセラがその金属片を拾い上げた。

「銅貨が……、真っ二つになっておりますわ……」

「「「えええええええええ〜〜っっ!!」」」

驚愕の叫びを上げる、ポーリン、モニカ、オリアーナ。

そして、マイルとメーヴィスは、別の叫び声を上げていた。

「「インチキだあああぁ〜〜っっ!!」」

……そう。

マイルとメーヴィスの優れた動体視力は、しっかりと捉えていたのである。

レーナが暗器を振ると同時にマルセラが投げた銅貨が消え、代わりに半分に切断された銅貨が2片、現れたところを……。