軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

669 パーティー 4

……さすがに、これはない。

この国の貴族達だけでなく、エストリーナ王女に強引に迫る者がいれば排除するために王女の近くで待機しているメイド4人組……レーナ達……も、頭を抱えていた。

(やり過ぎよ!)

(予定には入っていませんよ、『銅貨斬り』は……)

((あはははは……))

そして、レーナが何気なくエストリーナ王女の方を見ると……。

きらりらり〜〜ん!!

(あああ、完全にオチてるううぅ!!

オチた振りをさせる計画なのに、本当に落として、どうするのよっ!)

(レーナさん、オチてるの、エストリーナ王女だけじゃないですよ……)

モニカの囁きに、レーナが周りを見回してみると……。

第一王女、第二王女、第四王女、轟沈。

王妃殿下、大破。

その他、パーティー会場にいる令嬢、御夫人方、メイド、その他諸々、女性と名が付く者は、幼女から老婆までことごとくが撃沈か大破であった。

……中には、男性の被弾者も……。

「「「「「「…………」」」」」」

静寂に包まれる会場内であるが、そこに、勇者が現れた。

「……ふむ、中々の技でありますな。

しかし、実戦には 膂力(りょりょく) と体力、そして持久力が必要。

技術はあれど、見世物用の小手先の技やお座敷剣術では、御婦人方の歓心は買えても、戦場では役に立ちませんぞ!」

40代半ばくらいの男性が、そんなことを言い出した。

がっしりとした 体躯(たいく) に、意思の強そうな顔。おそらく、腕に覚えのある騎士か、軍の高官あたりであろう。

……別に、メーヴィスに敵意や悪意があるようには見えなかった。それに、女性の歓心を買うために10代の若者と張り合うような年齢でもない。

おそらく、メーヴィスに対して敵意を抱くどころか、逆に気に入り、面白がって話し掛けたのであろう。

その表情や雰囲気からそう判断したメーヴィスであるが、メーヴィスも騎士の、それも聖騎士の名を背負っているのである。ここで 退(ひ) くわけにはいかなかった。

「なる程、それは正論ですね。

……しかし、なぜ私に膂力や持久力がないなどと誤解されているのでしょうか?」

「何……」

メーヴィスの返しに、面白い 玩具(オモチャ) を見つけたかのような笑みを浮かべる、男性。

そしてメーヴィスから、挑発と取られてもおかしくない……、いや、挑発そのものである言葉が放たれた。

「ひとつ、 腕相撲(アームレスリング) など、 如何(いかが) ですか?」

「……面白い! やるぞ! もう、後には引けんぞ」

「勿論、望むところです」

事態が急展開し、銅貨斬りに続いて腕相撲をすることになった、メーヴィス。

さすがにパーティー用のテーブルでは無理があるため、給仕の者が大慌てで他の部屋から使えそうな台を持ってきた。

そして、会場の皆が見守る中、その台を挟んで立つふたりであるが……。

「あ……。すみません、左手でやってもいいですか? 右だと、ちょっと……」

突然そんなことを言い出したメーヴィスに、男性はその申し出を快諾した。

見たところ、メーヴィスの腕は左右共にそう変わった様子はないし、先程の銅貨斬りの様子から、メーヴィスの利き腕は右手であることは分かっている。

なので、右腕を少し痛めているか、何か事情があり、別におかしなことを考えているわけではないだろうと思ったようである。

それに、先にちょっかいを出したのは自分の方であるし、たとえメーヴィスの利き腕が左であったとしても、これだけの体格差、これだけの腕の太さの差があれば、そんなものは誤差の内にも入らない、と考えて……。

((((((あ~……))))))

クランメンバー達は、メーヴィスもズルをすることがあるのだな、と少し驚いているが、メーヴィスにとって今は依頼の遂行中であり、これは 仕事(・・) である。

メーヴィスは、依頼任務の完遂のためであれば、多少のことは許容する。

そして、見た目で馬鹿にされたことに対して、何も思わなかったというわけでもない。

なので、仕事であることを別にしても、退くつもりはなかった。

……聖騎士としての、プライド的に。

そして、自分を聖騎士に任命してくれた、 御使い様(マイル) の名誉のために……。

準備が 調(ととの) い、足の位置を決め、腰を落とし、腕を台の上に置き、……そして互いの手を握る。

この国でのルールでは、手首を巻き込むのは反則である。

体重をかけるのは、あまりにも極端なものは駄目であるが、多少は容認される。

審判役を買って出てくれた伯爵が、メーヴィスが他国の者であることから、そのあたりのローカルルールを説明してくれた。

そして、伯爵が、握り合ったふたりの手の上に、軽く自分の手の平を乗せて……。

「いいかね? 行くぞ? ……レディ……、ファイッ!!」

* *

(……なっ……、何だ、これは!!)

手を握り合った時に、その手の剣ダコから、メーヴィスと名乗るこの人物がかなりの剣の鍛錬を積んでいることが分かった。

さすがにあの『銅貨斬り』という技が使えるだけのことはあり、剣の道に対するその真摯な姿に、思わず笑みを溢したものである。

……しかし、その割には、身体が細く、 華奢(きゃしゃ) である。

握った手も、細く柔らかい。

筋肉が付きにくい体質なのかと、せっかくの才能を存分に活かせないその不運に、少し同情したのである。

……なのに……、なのに、いくら力を込めても、その腕は微動だにしない!!

こちらがいくら力を込めても、相手の腕はビクともしない。

……しかし、こちらの腕もまた、向こうからの攻めに動くことはない。

なので、開始時の状態から全く動くことのない膠着状態が続き……。

疲れと油断で、つい、少し力が抜けた瞬間、グイ、と押された。

(しまった!)

慌てて力を入れると、そこでまた膠着状態に。

……しかし、いくら力を込めてもビクともせず、どうしても元の位置には戻せない。

(攻めの力は、この細腕にしては大したものだが、儂に較べれば決してそう強いわけではない。

なのに、こちらがいくら攻めても、絶対に後退せん! 全く、ビクともせん……。

そして、こちらが疲れたり集中が途切れたりして油断すると即座に押され、それを止めることはできても、絶対に後退せん……。

これでは、時間と共に少しずつ押されて……。

馬鹿な! この私が、……この私が、このような 優男(やさおとこ) に負けるだと?

こやつには、疲労という概念が存在せんのか!!)

(銅貨斬りから腕相撲と、何だかせっかくのパーティーが私のせいで無駄に時間を……、って、いや、当初の目的からすると、それでいいのか……)

メーヴィスは、他のパーティー参加者達に申し訳ない、と思ったが、考えてみれば、他の参加者達の思惑を潰し、自分に対するアプローチの妨害をするというのがエストリーナ王女からの依頼内容であった。

それから考えると、パーティーで王女とは無関係のイベントを起こすことによって時間を無駄に浪費させ、王女に擦り寄る機会を潰すというのは、願ってもないことである。

(……ならば、このままでいいのか……)

最初は依頼遂行のために。

そして次は、聖騎士としての意地と名誉のために。

……しかし今は、少し楽しくなってきた、メーヴィス。

勝負を左手にした時点で、メーヴィスの勝利は確定していた。

何せ、メーヴィスの左腕は、ナノマシン謹製の特別仕様なのである。

自分で動かす時の出力は、緊急時を除き大きく制限されており、普段は元の力の2倍弱くらいに抑えられている。あまり人間離れした力にならないようにと……。

……しかし、 支える力(・・・・) は、そうではない。

防衛機能として、『自分が出す力は制限されているが、相手から加えられる力を受け止め、支える力は制限されていない』のである。

また、義手である前腕部分だけではなく、肘、二の腕、肩、背筋、腰、脚、その他諸々の、以前の2倍弱の力を出すために、そして外部から加えられた力を支えるために必要な他の部分にも、全身に亘って、密かに補強措置がなされている。

……以前、土竜(どりゅう。決して、『もぐら』ではない)の攻撃を 支えられた(・・・・・) のは、そのおかげである。

というわけで、メーヴィスは腕相撲においては、左手で勝負する限り、たとえ自分の2倍以上の力を持つ者を相手にした場合であろうと、 絶対に負けない(・・・・・・・) のである。

……そして、時間が経てば経つほど相手が疲労し、少しずつ、少しずつ、勝利へと近付くのであった……。