軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

652 帰 省 2

何とか宿屋で4人部屋ふたつを確保できた一行は、1階の食堂で夕食を済ませた後、皆が片方の部屋へと集まっていた。

「もう、エストリーナ王女とモレーナ王女ときたら、それはそれはそれはそれは、しつこくて……」

そして聞かされる、マルセラの愚痴。

昨日の夕方から、丸々1日、徹夜で話をさせられ続けたのである。

……しかも、ほぼ同じ話を、2回……。

聞く方(むこう) は1回ずつであるし、聞き役なので負担は少ない。

しかし、 喋る方(マルセラ) は、ほぼ喋りっ放しである。

喉が 嗄(か) れ、 疲労困憊(ひろうこんぱい) 。

それは、愚痴のひとつも言いたくなるであろう。

……しかも、これから先、王女転移システムを使う度に、これが繰り返されることになる。

「以前、王女転移システムは便利に使えると言いましたけど、申し訳ありませんが、あれは取り消させていただきますわ。

あまりにも負担が大きいということが判明しましたの。

……主に、私の身体と精神に……」

そう言うマルセラの声はしわがれており、目の下にはクマができている。

「そして恐ろしいことに、 辻褄(つじつま) 合わせをするために、王女転移システムは必ず往復でワンセットとして使う必要がありますのよ。

……つまり、一度こちらへ戻るために使えば、再度向こうへ行くためにも使わねばならないということなのですわ。

比較的短期間のうちに、あの苦行がもう一度あるというわけですわよ……」

「「「「「「…………」」」」」」

その、げっそりとやつれた顔を見せられては、皆、何も言えなかった。

「わ、分かりました。なるべく、王女転移システムは使わずに済むように考えましょう……」

そして、マイルの言葉にこくこくと頷く、クランメンバー達。

普段、滅多に弱音を吐くことのないマルセラから、泣きが入ったのである。

それは余程辛かったのだろうな、と、皆が理解したのであろう。

「『ワンダースリー』の誰かひとりを、交替制で常にこちらに置いておく、ということにすれば、王女転移システムを使う必要はないのですけど……」

「全員揃って一緒に行動しないと、パーティの意味がありませんよね……」

マルセラが口にした選択肢を、即座に否定するマイル。

マルセラ自身も、マイルの言葉に頷いている。

おそらくマルセラも、決して選ぶことはできない選択肢を除外するために口にしただけであり、勿論、そのような方法を選ぶつもりなど皆無であったのだろう。

「ケラゴンさんを、しょっちゅう馬車馬代わりに使うのも申し訳ないですし、王女転移システムがごくたまにしか使えないとなると、独自の移動手段を考える必要がありますよね……」

マイルは、『水平方向に落ちる』という、あの、万有引力の法則に喧嘩を売っているような移動方法を提案するつもりはなかった。

あれは、あまりにも反則すぎる。

それに、もしレーナが自分にもその魔法を教えろとか言い出すと、困ったことになる。

あれは、ナノマシンに口頭で指示できるマイルだからこそできる芸当であるし、下手をすると、山や地面に激突したり宇宙空間に飛び出したりして、即死する可能性がある。

あれは、重力というものに関する基本知識があり、権限レベルが5、そして後に7となったマイルだから安全に使えるのである。

また、その魔法が広まってしまった場合にこの世界に与える影響の大きさからも、マイルは、自分ひとりだけの場合にしか、アレを使うつもりはなかった。

「 ゆっくり歩く者(スロー・ウォーカー) さんに頼んで、何か作ってもらうかな……。

航空機。

……操縦ミスで、一発で即死。技術的ハードルも高いし……。

パス!

船や、潜水艦。

水の抵抗で速度が遅いし、海棲魔物に邪魔されそうな気がします……。

海の中には、細長い、シーサーペントタイプのものだけでなく、今まで人間が見たことのない、超デカいやつがいそうな気もしますし……。

大きな船や潜水艦だと、まともな港湾施設がないから、そのまま接岸することができませんし。

……いえ、たとえ大きな港や桟橋があっても、そんなもので正式に入港するわけにはいかないですけどね、勿論……」

「物騒な話ばかりじゃないの!」

「マイルちゃん、あの、もう少し安心できるもので……」

「あはは……」

「「「…………」」」

いくらマイルのやることには慣れているとはいえ、さすがに『赤き誓い』のメンバーにとっても、それは勘弁してもらいたいらしかった。

そして勿論、『ワンダースリー』も同感のようである。

「う〜ん……」

悩むマイルであるが……。

「いや、そんなに悩まなくてもいいんじゃないかな?

そもそも、そんなに簡単に、頻繁に大陸間を移動しようと考える方がおかしいんじゃないかな。

そういうのは、滅多にできない大変なことであり、年に1回、あるかないか。

それくらいのつもりでいるべきじゃないのかな」

「「「「「「あ……」」」」」」

メーヴィスが言うとおりであった。

配慮的なことを考えなければ、簡単に大陸間を行き来できる方法がある。

そのため、少し常識から逸脱してしまっていたことに気付かされたのである。

「考えてみれば、田舎から町に働きに出た者でさえ、年に一度、実家に帰省できるかどうかなんですよねえ。

なのに、遠く離れた別の大陸に行っている私達が、そう簡単に帰省できるのがおかしいのですよねぇ……」

「しかも、私達『赤き誓い』のメンバーは、マイル以外は出奔中の身だから、見つかるわけにはいかないし……」

「マイルちゃんこそ、001が代役を務めているのですから、絶対に見つかっちゃ駄目ですよ。

偽物扱いされて、縛り首か断頭台送りになっちゃいますよ。

……いえ、救世の大英雄である御使い様の偽物となれば、 火炙(ひあぶ) りでしょうか……」

「ひいぃ!!」

レーナとポーリンの言葉に、恐怖の悲鳴を上げる、マイル。

「まぁ、マイルなら縛り首でぶら下がってもピンピンしていそうだし、ギロチンは刃が欠けて、火炙りの炎の中から平気で出てきそうだから、問題ないわね」

「問題、大アリですよっ!」

レーナの、あんまりな言葉に突っ込む、マイル。

『ワンダースリー』は、マイルのことをよく理解しているのであるが、みんなお人好し揃いであるためか、こういう不謹慎なノリにはついて行けない。

そのため、口を挟めず、ぽかんとしたり、苦笑をしたりするばかりであった。

「あ、そういえば、エストリーナ王女とモレーナ王女なんですけど、おふたりとも、大聖女に認定されたらしいですわ」

「「「「「「えええええええっ!!」」」」」」

「……詳しく!」

そして語られた驚愕の出来事に、呆然とする一同であった……。