軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

645 『ワンダースリー』+ポーリン 8

「いやいやいやいや、何ですか、あの魔法は!!

Cランクの実力と大容量の収納魔法のことはお教えいただいておりましたが、あんなにお強いなんて聞いておりませんよ!

……というか、もし何事もなければ、本当のお力はお見せにならないまま依頼を終わらせるお積もりでしたよね?

あ、いえ、勿論きちんと護衛任務を遂行していただいたならそれで全く問題ありませんし、守秘義務は厳守いたしますよ。商人にとって、契約の厳守と信用は、命の次に大事なものですからね」

あれから、戦いのせいで鍋も調理台もひっくり返り台無しになってしまった夕食を作り直し、皆で食事しながら話をしている、商隊一行。

……幸い、馬車も馬も無事であり、明日の移動には問題なさそうであった。

おそらく狼達が、木に繋がれている馬は逃げる心配がないと考えて、先に人間を襲おうとしたおかげであろう。

なので、御者達も含めた、商隊の者達全員での食事である。

おっさんトリオは、見張りを立てて交代で食事を、と主張したが、『ワンダースリー』が警戒魔法を使うからその必要はない、と言って、みんなで一緒に食事を、と主張したのである。

普通であれば、新米の小娘がそのような 戯(ざ) れ 言(ごと) を言っても相手にされないであろうが、……さすがにマルセラ達の言葉を疑う者はいなかった。

またひとつ余計な情報を皆に与えてしまうこととなったが、交代で食事を摂ると、説明やら口止めやらを2度行わねばならないので、面倒である。

それに、既に色々と見せてしまっているため、もう、それくらいは誤差の範囲内である。

マイルが、自分が教えた新たな攻撃魔法が広まることは危惧していたけれど、治癒魔法や防護魔法等の拡散はあまり気にしていなかったので、警戒魔法や探索魔法もその範疇だと考えているためでもある。

とにかく、まぁ、そういうことであった。

「ランクアップが目標であるはずのハンターが実力を隠すというのは奇異に思われますが、人それぞれですからね。物事には皆、それなりの理由があるものです。

なので、勿論 善き依頼人(・・・・・) である私共は、余計な詮索はいたしませんし、何も喋るつもりはございません」

そう言って商人が御者とおっさんトリオの方に視線を遣ると、全員がこくりと頷いた。

ハンターに対して禁忌事項を犯した商人がどうなるかは、みんなが知っている。

以後、誰も護衛依頼を受けてくれない。

チンピラに絡まれていても、ハンターは勿論、ハンターギルド関係者どころか、他の商人や商業ギルドの者達も、誰も助けてくれない。

……そして、そういう消極的なものではなく、もっと 積極的なヤツ(・・・・・・) ……『その日以降、その商人の姿を見た者は誰もいない』とか……もある。

そしてその後、狼との戦いの話や、商人の失敗談、マルセラ達の『話しても構わない範囲内での、若干フェイクを混ぜたハンター活動の話』とかで盛り上がっていたのであるが……。

「いやあ、少し前に、 角ウサギ(ホーンラビット) が激減してなぁ……。

そのくせ、買い取り価格は暴落。あり得るかよ、そんな馬鹿な話!

それで、稼ぎが激減。

底辺とはいえ、俺達は一応、Cランクだ。 町中(まちなか) での半端仕事や薬草採取なんか受けて、Eランク以下や子供達の仕事を奪うわけにゃあいかねえからよ。

それで、ほんの僅かな蓄えも食い潰しちまって、どん詰まりの状況だったんだよ……。

だから、この依頼は本当にありがたかったんだ。

それがまさか、こんなに危険な目に遭って、しかも護ってやるつもりだった嬢ちゃん達に助けられるとはなぁ……。

こりゃあ、俺達もそろそろ考えなきゃなんねぇかもなぁ……」

((((え……))))

おっさんの自嘲的な呟きに、愕然とする『ワンダースリー』+1。

……そう。彼らを追い詰めたのは、自分達であった……。

((((こっ、これは、何か補填措置を取らないと、申し訳ない……))))

皆がそう思ったのも、無理はない。

「あっあっあの、皆さん、古傷や肩こり、腰痛とかはございませんか? 今は仕事仲間ですから、治癒魔法のサービスをいたしますわよ?」

肩こりや腰痛が治せるですと、と商人が目を剥いているが、マルセラ達はそれどころではなかった。

「た、倒した狼は全て、マルセラ様の収納魔法で運びます! 毛皮が焦げてしまっているものもありますが、そこそこの値で売れると思いますよ。

マルセラ様をお護りいただきましたお礼に、その分は全額、皆さんにお譲りします!」

「マ、マルセラ様、アイテム……収納の中に、いつドワーフと出会ってもいいようにと用意しておいたお酒が入っていますよね? あれをお出ししては……」

「護衛依頼の最中に、しかも夜の森の中で酒が飲めるかよ!!」

急に挙動不審になり、何やら次々とサービスを申し出るマルセラ達を胡散臭げに見る、おっさんトリオ。

「それに、合同受注のパーティに助けられておきながら、倒した獲物の売却金を全て掻っ攫ったなんて噂になったら、これから先、誰も俺達と合同受注を受けてくれなくなるだろうが!

しかも、小娘達の稼ぎを横取りする情けないパーティという烙印を押されちまうだろ!」

「「「「あ……」」」」

……そう。いくらマルセラ達が説明したところで、ハンター達の間では、そういう話になって面白おかしく広められるに決まっている。

噂話というのは、そういうものなのである。

そしてポーリンも、 他人事(ひとごと) ではない。

あの方法(角ウサギ狩り) を提案したのは『赤き誓い』なのであるから、ポーリンもしっかりと加害者の中に入っている。

「「「「「「「…………」」」」」」」

「まぁまぁ……」

何やらおかしな雰囲気になってしまった空気を切り替えるためか、商人が割って入り、話題を変えようとしてくれたようである。

このあたりの機微が、商人には大事なのである。

「皆さん、うちの商会の専属になってくれませんか?」

……しかし、投げた話題は、大暴投どころか、 危険球(ビーンボール) であった。

一度は自粛した勧誘の言葉を、再び口にしてしまった商店主。

やはり、あれだけの大容量収納魔法と戦闘力を見せられては、我慢できなかったようである。

挑戦もせずに諦めるには、あまりにも惜しい。

駄目で元々。断られるにしても、怒って殺されるようなことはあるまいと、一世一代の勝負に出たようである。

そして……。

「「「喜んで!!」」」

即座に返された、了承の返事。

「あなた達じゃありませんよっ!」

額に青筋を浮かべて怒鳴りつける商会主に、しょんぼりと肩を落とす、おっさんトリオ。

「……でも、まぁ、あなた達も真面目で誠意があり、そして勇気もあるということは、先程見せていただきました。

なので、特別扱いはできませんが、ごく普通の給金で、護衛ではなく普通の下働きでも良いと言われるならば、うちの商会でお雇いすることはできますが……」

「「「是非、お願いいたします!!」」」

やはり、何の戦闘経験もなしでの、この年齢でのハンターへの中途転職は、無理があったようである。

既に、ハンターとしては年齢的なピークを過ぎており、あとは体力も運動能力も低下する一方。

この程度の能力であれば、引退しても何とかやっていけるだけのお金が貯まる前に、身体的な限界を迎えるか、無理をして死ぬか。そういう未来を迎える確率が、非常に高かった。

そう。この年齢は、己の力を信じてハンターとして上を目指すか、自分は凡人であったと自覚し、ハンター稼業から足を洗う決心をするかの、文字通り『人生の分岐点』となる年齢であった。

尤も、ハンター以外の仕事に就くことができず、自分に才能がないことを知りながら、無理を承知で続けざるを得ない者が大半であるが……。

この3人にとっては、中堅商家に使用人として雇われることの方が、無理をしてハンターを続けるよりはずっと幸せであり、本人達もそれを十分に自覚しているようであった。

ならば、真面目に、懸命に働くことであろう。

そして……。

「『ワンダースリー』の皆さん、是非、うちの専属護衛に! 何なら、養子にでも……」

勿論、商会主の目的は、『ワンダースリー』の方である。

しかし……。

「「「遠慮いたします!」」」

当然ながら、マルセラ達は辞退。

ポーリンは『ワンダースリー』のメンバーではないため、返事はしていない。

まあ、商店主も、受けてもらえるとは思っていなかったのであろう。

駄目で元々、言ってみただけ、というような様子であり、特にがっかりした様子もない。

もし『ワンダースリー』がハンターを引退して別の職に就くとすれば、もっと良い働き口はいくらでもあるのだから、当然のことである。