軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

643 『ワンダースリー』+ポーリン 6

狼達は、頭が良かった。

なので、皆が固まっていればそこに集中攻撃されるが、獲物に反撃能力があるならば、分散すればいいと考えた。

獲物は動きが 鈍(のろ) く、我らの素早い動きには反応できない。所詮は、無力な餌にすぎないのだ。

仲間が少し減り、あの忌々しい『熱いの』のせいで鼻や耳が利かず、空気の流れが乱されて気配が読めなくなってはいるが、それでもこの脆弱な獲物達を狩るには何の問題もない。

自分達は強く、優れた 統率者(リーダー) に 率(ひき) いられているのだから!

* *

マルセラが、燃え盛る炎に何かを投げ入れ、モニカと共に商人達を直衛する位置へと下がった。

そして、その直後……。

「「「「「「うっ……」」」」」」

とてつもない悪臭が、周りに広がった。

「うげぇ!」

「なっ、何だよ、これ……」

そう。それは、マイル達の話にあった、『獣人達の追跡を振り切るために使った方法』を参考にしてマルセラ達が考案し試作品を作ったばかりの、秘密兵器であった。

とてつもない悪臭を放つ、使った自分達もその影響をまともに喰らう自爆武器。

なので、自分達よりかなり嗅覚が敏感な相手にしか使えない。

鼻が利く魔物や動物、獣人やエルフ等と戦う時という、限定された場面でしか出番のない武器なのであるが、ハマる相手に対しては、非常に効果的であった。

元々木材に燃えると悪臭を放つものを仕込んでいたくせに、追い打ち用にと更に強烈なやつを用意するという、悪魔の所業。

そして狼系の野獣も魔物も、ヒト種より遥かに嗅覚が鋭い。

……つまり、悪臭には弱いということであった。

『『『『『『ギャヒイイイイイイィ!!』』』』』』

狼達の絶叫が聞こえる。

……まぁ、無理もないであろう。いくら煙と標準装備の悪臭の 素(もと) で鼻が利かなくなってはいても、これは別物である。もう、『 臭(くさ) い』とかいう次元の話ではない。

嘔吐(おうと) 、悶絶。

そして不幸なことに、狼は自分の鼻を塞ぐことができない。

戦闘力の、大幅ダウン。

……しかし、狼達は諦めなかった。

リーダーはここに至って、獲物の抵抗力を少しばかり評価した。

そして、『何も考えずにただ蹂躙すれば良いだけの獲物』から、『多少の抵抗力がある獲物』へとランクアップした相手に対して、仲間達に作戦を指示したのである。

……『奴らの 統率者(リーダー) を狙え』、と……。

そして何とか悪臭によるダメージに耐えた数頭の狼達が、一斉に襲い掛かった。

マルセラひとりに対して。

「……ッ!!」

無詠唱のファイアーボールで。そして振り回した短剣で防ぐものの、少女の腕力と 拙(つたな) い剣術、それも 歩兵剣(ショートソード) ではなくリーチの短い短剣とあっては、大した効果は望めない。

魔術師は、比較的安全な場所から魔法を行使するのが、その正しい戦い方である。

決して、物理的な攻撃手段で戦う敵と至近距離で 対峙(たいじ) するものではない。

いくら無詠唱で魔法が使えるとはいえ、剣士の一撃、そして魔物や野獣の牙や爪によるコンマ数秒の攻撃には対処できないのだから……。

「「マルセラ様!!」」

じゃっ!

がぶり!

革の防具を切り裂く狼の爪と、首筋を守ろうとして突き出された左腕に食い込んだ、鋭い牙。

爪は、安物の革の防具を引き裂き、胸に数本の裂傷を刻んだ。

胸の裂傷と、噛み付かれたままの左腕からは血が流れ、狼はそのまま自分の身体を捻って獲物を転倒させようとしていた。おそらく、倒れた獲物に皆で一斉に噛み付いてトドメを、という考えなのであろう。

深々と牙が突き立てられたまま暴れられ、腕の傷が大きく裂けて血が噴き出した。

「……おじさま!!」

自分と狼の間に割り込んで、自分の代わりに狼からの攻撃をその身に受けた、3人組のうちのひとり。

その男の腕に噛み付いたまま、引き倒そうとして身体を 捻(ねじ) る狼に、短剣を腰だめに構え、体当たりしてその身体に深々と 刃(やいば) を突き立てたマルセラ。

……ヤクザの鉄砲玉が敵対組織の組長を襲う時の、アレである。

非力なマルセラは、自分では超至近距離で短剣を振っても狼の毛皮を切り裂いて致命傷を与えることは難しく、そして下手をすると自分を守ってくれた男を傷付けるかもしれないと考え、短剣をしっかりと構えたままで狼に体当たりするという、確実な方法を選んだのであろう。

どすっ、どすっ!

そして、更に連続して続く、 刺突音(しとつおん) 。

……モニカと、オリアーナである。

3人組の残りふたりは、慌てて仲間のところへ駆け寄ったりはせず、商人と御者を護っている。

さすが年配者だけのことはあり、今の最優先事項、そして自分達の任務と役割をきちんと理解しているようである。

そして更に乱射されたマルセラ達3人のファイアーボールによって、マルセラに襲い掛かった数頭の狼は一旦撃退できた。

狼達は、態勢を立て直すためか、少し後退して動きを止めている。

……思わぬ被害を出したが、悪臭も徐々に薄れ、『熱いの』の勢いも衰えてきた。

自分達は圧倒的な強者であり、何の問題もない。

そして時間の経過は自分達を有利にする。

そう考えた、強者の余裕なのであろうか……。

「おじさま! 大丈夫ですか!!」

男の左腕に噛み付いていた狼は、ぐったりとして、ずるりと地面に落ちた。

男は、大きく裂けた腕の傷から血が噴き出して服の袖を真っ赤に染めており、胸からもダラダラと血が流れ落ちていた。

おそらく、腕の太い血管が切れたのであろう。

胸の方も、かなりの深手のようである。

「どうして……」

泣きそうな顔のマルセラ。

そして、男は右手で左腕の傷を押さえ、痛みに耐えながら苦笑した。

「……いや、どうして、って……。

俺達が護衛していて、可愛い女の子に怪我させたなんて既成事実作るわけにゃいかんだろ。

……それに、今まで何の役にも立たなかったこの俺が、将来有望な可愛い女の子を護って死ねるんだぞ? 信じられないような大手柄だ!

こんな俺でも、生まれてきた意味が、生きてきた甲斐が……」

そう言うと、出血のせいか、ふらついて、そのまま地面に座り込んだ。

「ああ、もう痛みを感じなくなってきやがった……。

嬢ちゃん達、これに懲りて、もう自分達の能力を超えた無茶な依頼を受けるんじゃねぇぞ……。

じゃあ、先に逝かせてもらうぜ……。

無事、この場を切り抜けて生き延びられることを祈ってるよ……」

そう言って、静かに目を 瞑(つむ) り……。

「……」

「…………」

「………………」

「なかなか意識がなくならねぇな……」

「いえ、無詠唱の 上級回復魔法(メガ・ヒール) で、とっくに治っておりますわよ、腕の傷も、胸の傷も……」

「「「何じゃ、そりゃあああああ〜〜!!」」」