軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

633 本格始動 6

「……って、どうしてマイルがいないのに全員が寝ようとしてるのよっ!」

みんなが毛布に潜り込んだ30秒後、レーナが怒鳴り声と共に飛び起きた。

「マイルの謎魔法、『警戒魔法』が張ってないし、マイルと違って私のバリア魔法は長持ちしない上、眠れば解けちゃうわよ!」

「「あ……」」

メーヴィスとポーリンも、その事実に気付き、愕然。

完全にマイルの存在に毒されてしまい、ハンターにとって必須の能力である『危険察知』と『安全策』というものが欠落してしまっていたようである。

「交替で、不寝番に立つわよ!」

「まあ、それが普通だよねぇ……。

そもそも、マイルが寝ていても一晩中保つ『警戒魔法』や『バリア魔法』、『虫除けシールド』とかいうのが、おかしいんだよ……」

メーヴィスがそんな愚痴を溢すが、自分達が安全に関して疎くなっているのは、マイルのせいではなく自分達のせいである。

マイルがいる時にその能力を利用するのは構わないが、それは『今、マイルがいるから』であり、当然、マイルがいない時には代わりの手段としてどのようにするか、ということを考えておかねばならない。

そのことが分かっているレーナは、大容量の収納魔法があるとかないとかいうような問題ではなく、ハンターとしてもっと基本的な部分における、自分達の命に関わる大失態に肩を震わせている。

そして、ポーリンがポツリと呟いた。

「……少なくとも、そんなに長時間は眠れないよ、と悩む必要は、なくなりましたね……」

* *

「では、索敵魔法を使いますわよ」

「「はい!」」

ぴこ〜ん……

……ピッ! ピッピッ……

「一時半方向50メートル、小目標2。二時70メートルに中目標1。

一時半のものは、おそらく 角ウサギ(ホーンラビット) 。二時は猪か鹿である確率が大……」

「どうしてそんなに手際がいいのですかっ!」

マルセラの索敵魔法に、マイル、愕然である。

マルセラが使う索敵魔法は、マイルが教えたものではない。

昔、エクランド学園時代にマイルが話して聞かせた『にほんフカシ話』の中に出てきた『探索魔法』というものを覚えていたマルセラ達が、マイル……アデルがいなくなってからの雌伏の期間に、自ら考え出し実用にこぎ着けた、オリジナルの魔法である。

一応、マイルの話に出てきた『探索魔法』ではなく、『索敵魔法』と、少し名前を変えてある。

……自分達の、オリジナルなので。

マイルの話では、ただ単に物語の中に出てくる架空のものとして、『敵の位置が分かる魔法』と言っていただけであり、その原理や仕組みについては、一切言及していなかった。

それを、魔力を発振して生物からの反射信号を感知するとか、全周に対して短いパルスを打つとか、そういったことを全て自分達で考え出し、試行錯誤し、実用化したのである。

……誰の助けも借りず、3人だけで、他の者に気付かれないように密かに研究し、人目を避けて練習を重ねて……。

全ては、アデル……、マイルの後を追い、全員が生き延び、そしてマイルと出会うために……。

マイルですら、探索魔法は音声誘導のカーナビ方式からPPI方式を経て、ソーナー方式へと変遷を重ねたのである。

それも、前世でアニメや映画等でそういうのを何度も見ていたから、そしてナノマシンから圧倒的な 贔屓(ひいき) をされていたから、割と簡単にできたのである。

それを、前世の知識などない、この世界で生まれ育っただけの者達が、ナノマシンからの贔屓もなく、権限レベル1のただの人間として……。表示方式については、マイルが再会後にPPI方式とそのセクタースキャン、そしてソーナー方式を伝授したが、短時間のパルス発振とその反射波を受けて、という部分に関しては、基本的な仕組みは知らなかったマイルより完成度の高いやり方を採用していたという天才振りであった。そして、今はマイルよりうまく使いこなしている。

それに、そもそも『ワンダースリー』のメンバーは下級貴族の娘、商人の娘、ド田舎の貧乏農家の娘である。

そして全員、跡取りとかいうわけでもないため、そんなに熱血スポ根タイプだというわけでもない。

……なのに、どうしてそんなに無理を重ねて、懸命に 足掻(あが) いたのか。

恐るべき信念。そして、恐るべき執念であった。

「……もう、私がマルセラさん達に教えられることは、何もありませんよ……」

マイルは、別に魔法の天才だというわけではない。

馬鹿げた魔力量、前世で得た知識、そしてナノマシンからの圧倒的な贔屓によって、人外の能力が使えるだけなのである。

もしマイルが、前世の知識がなく、平均的な魔力量で、権限レベルが1でありナノマシンからの贔屓がなかったなら。

マイルは、この年齢ではDランクの能力さえ身に付けていなかったに違いない。

……いや、それよりも、今頃は墓石の下で眠っていた可能性の方が高かった。

なので、マイルのメリットであるその3点セットなしでここまで成長した『ワンダースリー』の3人は、魔法に関するセンスだけであれば、レーナとポーリンをも遥かに凌駕していると言えよう。

……但し、そこには『10歳の、頭が柔らかい頃からマイルのフカシ話を聞かされていた』という、唯一のアドバンテージがあったが……。

「「「そんなことはありません!!」」」

そして、そう声が揃うマルセラ達。

「マイルさんは、私達の親友ですけれど、魔法のお師匠様でもありますわ。私達に、明るい未来を切り拓いてくださいました……。

『親友』と『お師匠様』。このふたつの肩書きは、永遠になくなることはありませんわよ」

「マルセラさん……」

彼女達にとっては、お家のために望まぬ相手に嫁入り……ならばまだしも、側室や愛人という可能性もあった……という未来を吹き飛ばし、自分が望む相手と結婚できるという未来をくれた、大恩ある親友なのである。

……その、おそらくはお家の秘伝であろう知識と、女神の愛し子としての並外れた能力によって……。

というか、そもそも、マイルは救国の、いや、救世の大英雄である。

御使い様と勇者を兼任して世界を救った……、いや、やはりマイルはマルセラ達にとっては、ただの『元クラスメイトである、大親友』なのであろう。

彼女達には、それ以外の肩書きも関係も、必要ない。

マルセラ達からの返事に、じんわりと来ていたマイルであるが……。

「間もなく視認距離! 総員、攻撃用意!」

「「はいっ!」」

小声で指揮するマルセラに、同じく小声で応えるモニカとオリアーナ。

「いや、もう少し感慨に 耽(ふけ) らせてくださいよっ!!」

マイルが、少し膨れっ面でそう文句を言うが……。

マルセラ達も、マイルとの初めてのハンター活動ということで、高揚していないわけではない。

しかし、自分達がハンターとしては取り立てて才能があるわけではなく、凡人であると自覚しているマルセラ達は、仕事に関しては切り替えが早い。

油断せず、慢心せず、自分の役割は確実に果たす。自分の精神状態とは関係なく。

自分のミスが仲間を死なせ、……そして自分達の夢を潰す。

それだけは、決して許されない。

……誰に許されない?

勿論、『自分自身』に!!

「弾種、氷魔法。撃て!」

バシュバシュッ!

「いえ、だからもう少し余韻に浸らせてくださいよっ!!」