軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

630 本格始動 3

あの、商人からのふざけた指名依頼の件から数日後。

クランハウスである元宿屋の建物で、『赤き誓い』と『ワンダースリー』がのんびりとアフタヌーンティーを楽しんでいた。

「あの、地方から来たと思われる商人の件は、両ギルド、その加盟者、一般の人達、そして一部の貴族達にも広まったそうです。

これでもう、『赤き誓い』と『ワンダースリー』を輸送員として使おうとする者は現れないと思いますよ。

……地方から来た人、情報に 疎(うと) い人、そして自分はどんな無理でも通せると勘違いしているお馬鹿さんを除いて、ですけど……」

「それに、今後はおかしな指名依頼が来た時点で、受付嬢さんがちゃんと確認して指導してくれるそうですからね」

ポーリンの説明に、そう付け加えるマイル。

通常依頼の場合は、依頼を受け付ける時に条件が妥当なものであるかどうかを受付嬢が確認する。

そしてあまりにも酷い場合はアドバイスするが、依頼者がそれを聞き入れずにそのまま出すと主張した場合は、仕方なくその条件で受け付ける。

ギルド側には受付手数料が入るから問題ないし、その条件でも構わないという奇特なハンターがいないとも限らない。

おそらくそういう可能性は限りなくゼロに近いであろうが、受注者がいなくて塩漬けになろうが、別に問題はない。有効期限が切れて依頼票がボードから剥がされるか、延長料金を払って貼り出し期間を延ばすかは依頼主が決めることである。

しかし指名依頼の場合は特定の相手に受注をお願いするため、条件は直接会って擦り合わせを行う。依頼側が最初に高額報酬を提示すると、会ってからそれ以下に下げることができないため、何とか交渉で安く依頼したいという者が条件の詳細が未定のまま依頼を発注するのは、別に珍しいことではない。

勿論、絶対に受けて欲しい場合は、依頼する段階で会ってももらえず断られるのを防ぐため、交渉前の最低金額としてそれなりの依頼額を提示する場合もあるが……。

まあ、依頼者側がどのような条件を出そうが、それが気に入らなければハンター側が受注を断ればいいだけの話であり、それでもギルド側にはちゃんと依頼の受け付け手数料が入るので、何の問題もない。

別に、話し合いをすれば全ての場合において合意が得られるというわけではない。

なので、受付嬢には全く責任はないのであるが、さすがに、まさかあのような馬鹿げた条件を提示するとは思ってもいなかったようである。少なくとも、ここ王都の商人の中には、あそこまでの馬鹿はいないので……。

しかし、以後はその辺りにも注意してくれるとのことである。

事前にある程度の提示条件を確認し、『そういう条件の依頼は全て断られておりますよ』と商人側に忠告したり、あまりにも酷い場合は、ハンター側に状況を伝えて、『相手に会わずに断りますか?』と確認したり、という配慮をしてくれるというわけである。

これは馬鹿容量の収納魔法持ちがいるため今後もああいう馬鹿が 集(たか) ってくる可能性がある『赤き誓い』と『ワンダースリー』だけに対する特別サービスである。

どうやら、ギルド側は両パーティにかなり気を配ってくれているようであった。

「勿論、ギルドの緊急呼集で頼まれた物資の輸送とかは、別だけどね。

そういう場合は、勿論荷物運びだろうが安い依頼料だろうが、気にしないわよ。

まぁ、馬車が行けない現場に医薬品や水、食料とかを大量に運ぶ緊急依頼が出るなんて、魔物の 暴走(スタンピード) の時くらいしかないけどね」

「20~30年に1回くらいだよね、そういうのは……」

そして、レーナとメーヴィスがそう付け加えた。

「……そして、明日で前回の 暴走(スタンピード) から、丁度30年……」

「やめんかっ!」

マイルの不謹慎ネタに、レーナが怒った。

そう、魔物の 暴走(スタンピード) は、いくつもの村や町を飲み込み、多くの死者を出す大事件なのである。壊滅した村や町の生き残りが王都に移住したりもするため、そのあたりにいる人が魔物の 暴走(スタンピード) で家族を失った、当時は幼い子供であった者である可能性は、ゼロではない。

なので、それは決して人前で口にしてはいけない、不謹慎なネタであった。

「ご、ごめんなさい……」

レーナの、いつもの『教育的指導』として叱るのではない、本気で怒っているらしき様子に、さすがにマイルも今のが失言だったと気付いたらしい。

考えてみれば、原因は違うものの、レーナは家族も仲間も全て失い、ただひとり生き残った者なのであった。

なので以前から、全滅ネタとか、ただひとりの生き残りネタとかには過剰に反応する傾向があった。ついうっかりとそれを失念していたマイルの、大失敗であった。

そして、ちゃんと反省しているらしきマイルに、それ以上は追撃しないレーナ。

どうやら、先程のマイルの不謹慎発言は、 なかったコト(・・・・・・) にしてくれた模様である。

「まあ、とにかくこれで、『 赤き誓い(うち) 』と『ワンダースリー』を荷馬車代わりに使おうとする商人は完全にいなくなるだろうね。

……地方から来た商人も、普通は私達が王都を長期間不在にしていないことから『王都の商人達が、誰も輸送依頼をしていない』というのを知った時点で色々と確認して、両パーティがそういう依頼は受けない、という情報を得るだろうからね。

さすがに、いくら地方の商人とはいえ、王都まで来るレベルであればあそこまで酷いのはそうそういないだろう」

メーヴィスがそう言ったが……。

「港町で会った、あの商人の娘アルリも、王都にいたって言ってたし、今は地方の町にいるわよ……」

「「「あ……」」」

レーナの突っ込みに、絶句する3人。

そう。世の中、まともな者ばかりではない。どのような職種の者であっても……。

ハンターの中には、誠実な者もいれば、粗暴な馬鹿もいる。

それと同じように、商人の中にも、一定数の馬鹿はいるであろう。

「……まぁ、 集(たか) ってくる羽虫が激減するのは確実なんだから、問題ないわよ。

これで、ようやくハンターとしての活動に専念できるわね。

いつも、新しい街で活動を始めるときには、最初のうちはおかしなのに絡まれて面倒なのよね。

ま、すぐにそういうのは寄って来なくなるけど……。

で、『 赤き誓い(わたしたち) 』はいいけど、『 ワンダースリー(あんたたち) 』は、まだパーティ加入の勧誘が続いてるんでしょ? 3人纏めて入れてやる、とかいうのが……」

「ええ。さすがに私だけを引き抜く、という話はあまり来ませんけど、3人一緒に、というのは来ますわね。4~5人のパーティとか、大所帯のBランクパーティとかからも……」

「「「「あ〜……」」」」

「でも、そういうのは断ればいいし、マルセラさん達なら、無理強いされても安心ですよね。

何しろ……」

「ええ。襲われて縛られても、ロープを収納すればいいですし……」

「口を塞がれても、無詠唱魔法が使えるし……」

「そもそも、私達を利用することが目的ですから、奇襲攻撃で心臓をひと突き、とかいう心配はないですからね。ならば、どうとでもなりますから。

たとえ大勢に囲まれても、ホット魔法で全周攻撃が可能ですし……」

マルセラ、モニカ、そしてオリアーナの言葉に、うんうんと頷くマイル。

マルセラ達には、護身のためにカプサイシンによるホット魔法だけでなく、その他にも色々とえげつない魔法を教え込んでいるのである。

「それに、もし暴力を振るわれそうになって反撃しても、正当防衛になるわよね。

あんた達が色々と纏わり付かれているのはみんなが知ってるし、そもそもあんた達には他のパーティに喧嘩を売る理由がないものね。

ギルド側も他のハンター達も警備隊の兵士達も、間違いなくあんた達の証言を信じるわよ。

だから、絡んできた連中に怪我をさせたり、最悪の場合殺したりしても間違いなく無罪になるから、何も心配せずに好きなだけ反撃すればいいのよ」

「……そ、そうですわね……」

レーナの言葉に、少し引き気味にそう答えるマルセラ。

確かにその通りではあるが、さすがに、盗賊とかではなく同じハンター仲間にそこまでやるのはちょっと、と思っているようである。

勿論、相手に殺意がある場合とかは、躊躇なく反撃するつもりではあるが……。

多少の怪我であれば魔法で治癒できるため、部位欠損や生死に関わらない程度であれば、自分達の怪我も相手の怪我も割と安易に考えてしまうのは、『赤き誓い』と『ワンダースリー』の少し悪いところである。

まあ、以後仲間として利用しなければならない相手、しかもいつでも自分達に反撃できる者に対して暴力で従わせようなどと考える馬鹿が、そうそういるとは思えない。

なので、レーナの言葉はそのまま流した『ワンダースリー』の3人であった。

そして……。

「レーナさんが言われました通り、『 ワンダースリー(わたしたち) 』もこれから本格的にハンターとしての活動を始めますわ。『 赤き誓い(みなさん) 』とは違い、私達は飛び級でCランクになってほやほやですから、少し目立った実績を上げないと、示しがつきませんからね。

飛び級にふさわしい実力を示さないと、ギルドマスターの 面子(メンツ) を潰すことになりますし……」

「そりゃそうよね。頑張りなさいよ」

マルセラの言葉は 尤(もっと) もであるため、そう激励するレーナと、うんうんと頷くマイル達であったが……。

「なので、しばらくマイルさんを『 ワンダースリー(わたしたち) 』に貸してくださいまし」

「「「「えええええ!」」」」

「……いえ、私としましては御一緒するのは別に構わないのですけど、『ワンダースリー』の皆さんが実力を示すのに、他パーティの私が入ってちゃ駄目なのでは……」

当然のことながら、マイルがそう指摘するが……。

「「「い〜んですよ、細かいことは!」」」

「全然、『細かいこと』じゃないわよっ!!」

『ワンダースリー』のマイルに対する返事に、そう突っ込むレーナであった……。