作品タイトル不明
625 閑話 第三王女、大聖女になる 1
「飢饉……、ですか?」
「そうだ。北側の、海に面した地域が不作……と言い張っているが、明らかに凶作だ」
夕食の席で、国王が家族達……王妃、ふたりの王子、そして3人の王女……に、そう告げた。
「隣国ティルス王国もオーブラム王国も、同じように北側の海に面した地域は凶作寄りの不作だ。
特に東西に細長く海に面する部分が多いオーブラム王国は、半年前の魔物との戦いで農地が荒れたこともあり、かなり厳しいようだ。
アルバーン帝国も、国土は広いが元々その大半が山地や荒れ地、それに同じく戦争や半年前の件からまだ回復しきっていない。
マーレイン王国、トリスト王国にしても、凶作ではないが、不作であり、例年よりは収穫量が少ない。
なので、支援はしてくれるが、そう大規模なものではない。
他国への支援より、自国民を飢えさせないことの方が優先されるのは当然のことだ、文句は言えん。
いくらカネを積もうが、さすがに自国民を飢えさせてまで金儲けをしようとする王族も領主もいないであろうから、他国から購入というのも無理であろう。
それに、もし購入できたとしても、そんな状態での食料輸送商隊など、襲撃されまくって目的地へ到着できるものなどごく一部であろう。とても輸送を引き受ける者などいるまい」
ブランデル王国の国王は、夕食はなるべく家族と一緒に摂る主義であった。
そしてその時に、王妃や王子、王女達が国の状況、そして国際関係の現状を正しく把握し認識できるようにと、こういう話をするのであるが、今日の話題はいささか重いものであった。
「……死者が……、餓死者が出るのですか?」
王妃の問いに、国王は無念そうな顔で答えた。
「出る。我が国ではそれほど多くないであろうが、他国、……特にオーブラム王国では厳しいものとなるであろうな。
半年前にも周辺国の中で一番多くの被害を受けたというのに、気の毒なことだ。
まぁ、今はそれに乗じて侵略を、などという余裕のある国がないことだけは、救いであろうか。
……と、他人事のように言っておるが、我が国も餓死者が出るのはほぼ確実なのだ。
皆も、行動や発言には充分留意し、国民に『王族が贅沢をしている』などと思われるようなことのないようにな」
「「「「「「はい……」」」」」」
* *
飢饉。
……そして、餓死。
怪我や病気というわけではないのに。
健康なのに、食べ物がないために飢えて、死ぬ。
若者も、お年寄りも、……そして、子供も!
許せませんわ。
……何を?
この世の理不尽を。
許しませんわ。
……誰が?
この私、ブランデル王国第三王女、モレーナが!!
手紙を書いて、収納に入れてエストさんに。
『当方、周辺諸国で不作や凶作が発生しそうですの。そちらはいかがでしょうか?』
すぐに返事が来ましたわ。
『こちらは豊作です。そのため、作物の価格が下落して、日保ちしない葉物野菜とかは畑に放置されたり、潰して畑にすき込んだりと、農民の方達が辛そうなお顔を……。
たくさん収穫できれば良いというものでもないのですね。
いえ、勿論、不作や凶作に較べれば100万倍マシなのですけど……』
……よし!
女神様、私、モレーナはやります!
多くの人々のために!!
* *
『えええええっ! 本気ですか、モレーナ様!
……って、本気ですわよねぇ……。
今まで、モレーナ様がお金と食べ物と人の命に関わることで、嘘や冗談を言われたことはございませんものねぇ……。
分かりました。このエストリーナ、モレーナ様に全てを懸けますわ!』
『上等です! 我ら第三王女コンビ、神の試練に殴り込みですわよ!』
『はいっ!!』
* *
「……モレーナ、今、何と言った? すまんが、もう一度言ってくれぬか?」
翌日の夕食の席で、国王は自分の耳を疑った。
「はい、お父様。私の個人資産を全て、金のインゴットと宝石、高価で稀少な食べ物や芸術品、工芸品等に換えてくださいまし。遠い異国の地で、高値で売れそうなものに……。
そして私達がそれを、食料に換えて北部の領地へ、そしてオーブラム王国へバラ撒きます。
……高騰前の価格の、2割増しで!」
「そこは、無料ではなく、ちゃんとお金を取るのだな……」
「当たり前ですわよ。でないと私達が破産してしまいますわ。
ボランティア活動が全部無料だなどということはありませんわよ。世の中には、有償ボランティアと無償ボランティアがありましてよ。
『ボランティア』という言葉には、本来、無償などという意味はございませんわ。ボランティアと労働の違いは、報酬の有無ではなく、自発的な意思や強制性の有無にありますのよ。
遭難した方を捜索するため、二次遭難の危険を顧みず、仕事を休んで捜索隊に加わった方は、いくら報酬を受け取ろうが、それは立派なボランティアですわよね?
ボランティアはただ働き、などという勘違いをなさっている方もおられるようですけれど、そんなのは一部の無知な方達だけですわ。
もし今回私達が無償で食料を配布しますと、一文無しになった私達は、次の支援物資を購入することができず、もう二度とボランティアを行えなくなりますわよ。
そして人々は、次にまた飢饉があっても無料で食べ物が貰えるからと、何の準備も対策もせず、ただ安穏な日々を過ごすだけになりますわ!」
モレーナの熱弁に、目を白黒させる国王。
そして……。
「本気なのだな。そして、頭がお花畑になっているわけではなく、しっかりとした勝算がある、と?
……謀略王女、そして世界の守護者のひとりと言われているお前が何かを成そうとしているのだ、 只人(ただびと) である儂には、止める資格はあるまい……。
よし! 王家が全面的に支援する。やりたいようにやるがよい!!」
「ははっ、ありがたき幸せ!」
そして、モレーナと国王の会話について行けず、ぽかんとした顔の王妃と兄、弟、そして姉達であった。
「モレーナ、先程からずっと『私達』と言っておるが……、他に仲間がいるのか?」
国王からの問いに、モレーナはにっこりと微笑んで答えた。
「はい。遥か海の彼方の大陸に住む、私の妹分。
心優しき少女、エストリーナ王女ですわ」
「「「「「「「えええええええええ?」」」」」」」
色々と、理解の範囲を超えた情報が含まれたモレーナの言葉に、驚愕の叫び声を上げる家族達。
そして、何を聞こうが顔色ひとつ変えずにスルーする、プロ中のプロである給仕達が思わず食器で音を立ててしまったのは、彼らにとって一生の不覚であった……。