軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

624 クラン 8

数十匹の 角ウサギ(ホーンラビット) を倒せるハンターは、いくらでもいる。

……もし、それだけの 角ウサギ(ホーンラビット) が自分達に向かってきてくれれば。

普通、腕の良いハンターパーティに向かってくる 角ウサギ(ホーンラビット) は少ない。

明らかに新米だと思ってからかってくる場合や、仲間を逃がすために突っ込んで来る場合とかを除いて。

角という攻撃手段を持っているが、基本的に 角ウサギ(ホーンラビット) は草食で臆病、そして逃げ足が速く、隠れるのが上手い小型の魔獣なのである。そうそう大量に狩れるものではない。

そして、もし狩れたとしても、武器や防具、水や食料、そして万一の場合に備えた荷物を持ったハンターひとりが、何匹の 角ウサギ(ホーンラビット) を狩り場から街まで持ち帰れるというのか……。

大量の 角ウサギ(ホーンラビット) に反撃されても問題ないだけの戦闘力があり、万一の場合に備えてメンバーに治癒魔術師を入れ、そして獲物の持ち帰り用に大容量の収納魔法持ちを加える。

そんなパーティが、 角ウサギ(ホーンラビット) 狩りなどやるはずがない。

さっさとBランクになって、左 団扇(うちわ) の生活をしているに決まっている。

……そしてそもそも、普通、 馬鹿容量の収納魔法(そんな能力) があれば、ハンターなどには絶対にならない。大商家か貴族家、いや、王家にさえ召し抱えてもらえるはずである。

なのに、それでハンターになろうなどと考える馬鹿がもしいれば、大喜びで特別昇級させてやる……、と考えた時点で、ギルドマスターは己の敗北を悟った。

……そう。

馬鹿容量の収納魔法が使えて、たった3人の魔術師だけで毎日大量の 角ウサギ(ホーンラビット) を狩れる。角や毛皮に殆ど傷を付けずに、綺麗な状態で……。

かなり練度の高い魔法が使えるであろうことは、ほぼ確実。

何より、小娘3人で服や装備が身体に馴染むまで生き延びているという事実が、何よりもそれを雄弁に物語っている。

ならば、『大容量収納持ちがいるパーティ』として、特別昇級の適用には問題ない。

問題は、Dランクにするか、それとも前例に倣ってCランクにするか、である。

Cランクにするには、3ランクの特進である。

それは、あまりにも異常なことである。

それに対して、Dランクであれば、2ランクの特進。

それも充分に異常なことではあるが、まあ、超大手柄を立てて実力を示した……Fランクハンターが単独パーティで竜種を倒した、とか……であれば、あり得なくはない。

Fランクとはいっても、新米ハンターの中には、職を追われた元近衛騎士とか、権力争いに敗れた元王宮魔術師とかがいないわけではないのである。

但し、同じ2ランク特進ではあっても、FからDに、EからCに、というのはあっても、DからBに、とか、CからAに、とかいうのは、絶対にあり得ないが。

それこそ、国の滅亡を防ぐだとか、魔王を打ち倒して大陸全土を護るとかの功績を挙げでもしない限り……。

しかし、いくらFからCへとはいえ、3ランク特進というのは、あまりにも大きな壁であった。

いくら前例があるとはいえ……。

だが、Dランクだと、一応普通の依頼は全て受けられるものの、Bランク以上と指定されているものは駄目であるし、ひとつ上であるCランクの依頼は受けられなくはないが、パーティ単独での受注には制限が掛かる場合がある。そして護衛依頼に雇ってくれる商人も、まずいない。

何かあった時……魔物の 暴走(スタンピード) とか、大災害とか……に、物資輸送要員として召集するにも、Dランクだとあまり無茶な使い方はできない。

Dランクパーティに危険な場所への物資輸送を命じて、もし死なせたら。

将来有望な、大容量の収納魔法を使える美貌の少女……おそらく貴族の娘……を、一人前に育つ前に自分達の都合で使い潰し、死なせたギルド支部。

その悪評は、ハンターギルド王都支部として、そしてそこのギルドマスターとして、致命的である。

自分がその責任を取るのは当然のこととしても、妻や子供、そして両親までもが『あのギルドマスターの家族だ』として非難されるのは、耐え難い……。

しかし、Cランクであれば……。

Cランクであれば、『一人前の、中堅ハンター』である。

立派な一人前のハンターとして、王都を、そして人々を護るために立派に活躍し、散っていったと言える。

(そんなの、ただの言い訳に過ぎん!

どうすれば……。

ああ! あああああああっ!!)

別に王都に危機が訪れるとか、『ワンダースリー』が全滅するとか決まったわけでもないのに、思考が先へと進みすぎて、頭を抱えるギルドマスター。

自縄自縛(じじょうじばく) 、というやつであった。

そして……。

「……わ、分かった……。ギルド支部で会議にかける。数日、待ってくれ……」

さすがに、ひとりで決断するにはハードルが高すぎたようである。

* *

「……で、首尾はどうでしたか?」

クランハウスで、マルセラ達にギルドマスター達との話し合いの結果を尋ねるマイル。

「話の流れは、作戦通りでしたわ。後は、会議で決めるそうですの。

まあ、あの様子だと悪くともDランクは確実でしょうから、『赤き誓い』と合同で受注するならどの依頼でも問題ないと思いますわよ。つまり……」

「「「「「「「計画通り……」」」」」」」

皆の声が揃った。

勿論、ミアマ・サトデイルの小説によく出てくる定型句だからである。

そしてここにいる全員が、ミアマ・サトデイルの正体を知っている。

* *

そして3日後。

ギルドマスターの部屋へと呼ばれた『ワンダースリー』は、顔色の悪いギルドマスターから特別昇級の告知を受けた。

「……お前達全員の個人ランクをCランクとし、ハンターパーティ『ワンダースリー』のパーティランクを、同じくCランクとする……」

構成員全員がCランクであれば、パーティランクはC以外にはあり得ない。

もしそれ以外のランクにしようものなら、 大事(おおごと) になるであろう。

「……あの、お顔が悪い……、いえ、お顔の色が悪いようですが、お身体、大丈夫ですか?

治癒と回復魔法をお掛けしましょうか?」

「誰のせいだと思ってやがる! そして、そこは絶対に言い間違えるな!!

……魔法は、頼む……」

マルセラの言葉に、もう全てを諦めたのか、素直に厚意を受けることにしたらしき、ギルドマスター。

マルセラも、自分達のせいだろうと察していたため、魔法のサービスを申し出たのであった。

ギルドマスターに過労や心労で倒れられたりすると、後味が悪いので……。

「……くそっ。もうひとつのパーティがCランクで、向こうにも収納魔法持ちがいると分かった時点で、どうして気付かなかったんだ……」

ギルドマスター、どうやら『ワンダースリー』と一緒に来たもうひとつのパーティが、アレであることに、ようやく気付いたようであった。

おそらく、ギルドでの会議で、列席者のうちの誰かが気付いたのであろう。

「……では、失礼いたしまして……、えいっ!」

ぱああああああっ!!

「なっ、無詠唱だと! ……ああぁ、気持ちいい……。

肩が、腰が、胃の痛みが、溶けていく……」

そして、ギルドマスターに気に入られたCランクハンターパーティ『ワンダースリー』の活躍が始まるのであった……。