作品タイトル不明
622 クラン 6
「……で、名前はどうしますの?」
「え? 名前って?」
突然のマルセラの言葉に、意味が分からなかったらしく、素でそう返したマイル。
「このクランの名前ですわよ!」
「「「「「「ああ……」」」」」」
確かに、それは必要であった。
「バッフ、とか……」
「『バッフ・クラン』ですの?」
「ベリーとか……」
「『クランベリー』?」
「猛犬、とか……」
「『クランの猛犬』?」
「マイル、大事な話なんだから、ネタに走るのはやめなさい!」
『ワンダースリー』のみんなにはよく分かっていないようであるが、マイルの『にほんフカシ話』によって『白い旗は、相手を地上から一人残らず殲滅するという、最大級の宣戦布告である』という物語や、光の御子の物語は何度も聞かされているため、『赤き誓い』の3人にはマイルが悪ふざけをしているということが丸分かりであった。
そしてレーナは、パーティ名とかには 拘(こだわ) る。
あの、『赤き稲妻』の名を歴史に残すことを人生の目標にしたり、自分達のパーティ名を『赤き誓い』にしたり、自分が開祖、初代となった貴族家の家名を『レッドライトニング』にしたというくらいには……。
なので、クラン名でふざけるマイルに、少しカチンと来たようである。
「ごめんなさい……」
マイルも、レーナのそういう思いは知っていた。
なので、素直に謝るのであった。
「……『赤きワンダークランの誓いセブン』とか……」
「詰め込みすぎよ!」
「『ワンダー7』!」
「『赤き誓い』の要素が 欠片(カケラ) も入ってないわよっ!」
レーナの駄目出しが続き、なかなかクランの名称が決まらない。
しかし、それはレーナのせいではない。
あまりにも、みんなのネーミングセンスが悪すぎたのである。
「ええい、もういいわよ! クランの名称は、一時棚上げ!
パーティと違って、クランはハンターギルドに届け出る必要はないから、そんなに急いで決める必要はないわよ」
確かに、レーナが言う通り、王都に来て拠点移動届けを出した時、2パーティはそれぞれパーティ名と所属メンバー名は申告したが、クランについては何も言っていない。
クランはあくまでもパーティ間の仲良し協定に過ぎないので、ギルドは関知しないのである。
「それと、私達がクランを組んでいるということは、あまり大っぴらにしないようにしましょう。
下手をしますと、加入希望パーティが来て面倒事になるかもしれませんからね。
男性パーティがゴリ押しされましたり、ここ、クランハウスに 無料(ただ) で住み着こうとされますと……」
「困るわね……。
よし、その案で行きましょう!
別に必死に隠す程のことじゃないけど、わざわざ公言しない、ということでいいわね?」
マルセラとレーナの提案に、こくこくと頷くみんな。
若い女性ばかり、という点では男性パーティが、そして隠すつもりがないマイルとマルセラの収納魔法……の振りをしたアイテムボックス目当ての全てのパーティが 集(たか) ってくるのは、いつものことである。
特に、まだFランクで人数が少なく、 職業(ジョブ) バランスが偏りすぎている『ワンダースリー』には、前衛主体で魔術師がいない男性パーティからの視線がエグい。
これで『ワンダースリー』と『赤き誓い』がクランを組んで一緒に暮らしているなどということが広まり、しかもクランハウスが元宿屋であった物件であるため、まだ部屋数に余裕があるなどということが知られたら……。
「まあ、絶対にそんなのは受け入れないし、無理矢理入り込んで女性ばかりのクランの主導権を、なんていうハーレム願望の間抜け連中が来たら、叩き潰せばいいだけよね。どこか、人目につかないところで……」
レーナがそんなことを言うが、ポーリンがそれに反対した。
「駄目ですよ、レーナさん。人目につかないところで、そんなことをやっちゃあ……。
そういうのは、ちゃんと人目が多いところで徹底的に潰さなきゃ。
でないと、見せしめ効果で同類の連中への威圧や抑制を掛けられないじゃないですか」
「あ、そうか。ごめんなさい、考えが足りなかったわ……」
「「「「「…………」」」」」
「あ、そう言えば、マルセラさん達はFランクでしたよね?」
「ええ、ハンター登録をしたばかりですからね。ここにはスキップ制度がありませんでしたから……」
勿論、そのことはマイル達も知っている。
自分達も、Fランクでスタートしたのであるから……。
「私達は個人ランクもパーティランクもCですから、一緒に通常依頼を受注するのは難しいですよね?」
「「「あ……」」」
そう。常時依頼や納品依頼であればともかく、討伐依頼や護衛依頼はFランクでは受けられないし、合同で依頼を遂行しても、『ワンダースリー』が『赤き誓い』に寄生しただけと思われて、『ワンダースリー』には功績ポイントは殆ど付かないであろう。
養殖禁止、無理なパワーレベリング禁止なのである。
いや、実際に実力を付けるためのものは別に構わないのであるが、ギルドへの貢献ポイントという点においては、上のランクのハンターに寄生して、というのは認められないのであった。
『ワンダースリー』は、実力の面では充分にCランクのレベルに達しており、今欲しいのは功績ポイントなのであるから、養殖やパワーレベリングでは何の意味もない。
収納魔法(アイテムボックス) を持っているということでCランクに、というのも、それは収納魔法を持っているということを公表するマルセラにのみ適用されることであり、しかもそれは『高ランクパーティに入り、護ってもらう』という前提条件があるからである。
全員がFランクのパーティの中に、同じくFランクの収納持ちがいたところで、Cランク扱いできるわけがない。
そんなパーティがCランクの討伐依頼や護衛依頼を受けたら、即、全滅である。
「何とかして、『ワンダースリー』をCランク、それが駄目なら、せめてDランクには上げないと駄目ですわよね……」
困ったように眉をしかめたマルセラの言葉に、うんうんと頷く一同。
「どうすれば……、って、そうだ!!」
そして、マイルが何やら思い付いたようである。
「「「「「「………………」」」」」」
そして、今までの経験から、マイルがこんな顔をした時には 碌(ろく) でもないことを考えているに違いないと察しているみんなは、 胡乱(うろん) な目でマイルを見るのであった……。