軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

612 王都へ 1

「そろそろ、潮時かしらね……」

「そうですよね……」

「だよね……」

「……同じく、」

「「「井坂十蔵!」」」

「あああっ、今、言おうとしてたのにいいぃ〜っ!」

せっかくのネタ台詞をみんなに先に言われ、ぷんすこのマイル。

「もう飽きたわよ、そのネタ。意味も分かんないし……」

「そろそろ、新しいネタに変えた方がいいんじゃないかな?」

「私達が出会った時から、ずっと使ってますよね、そのネタ。『どんな言葉でも、100回繰り返せばギャグになる』とか何とか……。ウザいだけですよ」

「が〜ん……」

マイル、持ちネタに対するあまりの酷評に、大ヘコみである。

「まぁ、そんなことはどうでもいいわよ。話を戻すわよ」

「そ、そんなこと……。どうでもいい……」

「あ〜、ごめんごめん、悪かったわよ! で、そろそろ潮時よね、この町に滞在するのも……」

「謝罪に、誠意が感じられないですよっ!」

「だ〜! いい加減にしなさいよっ!」

さすがのレーナも、いじけてウザ絡みするマイルに、 業(ごう) を煮やして怒鳴りつけた。

メーヴィスとポーリンも、今回はレーナ側らしく、マイルに対するフォローがない。

「……話を続けるわよ。

この町に滞在することにした理由は、王都へ行く前にこの大陸のことを勉強して、田舎から出てきました、で通るくらいにはこのあたりの常識を身に付けることと、この辺りで使えるお金を手に入れること、そしてその後、地方から名を売りながら王都へ向かう、ということだったわよね。

そして、前のふたつは充分目的を達したし、最後のも、この町においてはたっぷりと名を上げたわよね。

もう、『地方から名を売りながら王都へ向かう』って段階に移行してもいいんじゃないかと思うのよ。ここではもう、これ以上面白い依頼は出てこないでしょ?」

「はい。言葉の違いも、田舎の方言、で通る程度ですからね。問題ありません」

マイルが言う通り、現代日本やアメリカ等においても、同じ国内であっても訛りがキツくて会話が成り立たないということはある。それに較べれば、旧大陸とここ、新大陸との言葉の違いは、多少の発音の違いや異なる単語があるものの、まだずっとマシな方であった。

「そうだね。マイルがよく使う言い回しだと、『この町から私達が学べるものは、もう何もないですね』とかいうやつだよね」

「はい。ならば……」

「「「「いざ、王都へ!!」」」」

* *

「……というわけで、王都へ向かいます」

「「「「「「えええええええええ〜〜っっ!!」」」」」」

ハンターギルドに、旅立ちの挨拶に来た『赤き誓い』であるが……。

「ま、待って、待ってくださいぃ! 2階に、ギルドマスターのところへ〜!!」

受付嬢さんに、蒼い顔でそう言われた。

* *

「何だとおおォ!!」

逃げられないようにか、待たせておいてギルドマスターに報告を、というのではなく、そのまま2階のギルドマスターの執務室に連れて行かれた、『赤き誓い』。

そして本人達の前で報告した受付嬢に、大声で叫ぶギルドマスター。

まぁ、概ね、予想通りである。

しかし……。

「……ああ、怒鳴ってスマン。

そうか、町を出ていくか……」

「「「「あれ?」」」」

「ん? どうかしたか?」

ギルドマスターの様子に、怪訝そうな顔をした『赤き誓い』と、その様子に、ギルドマスターもまた怪訝そうな顔をした。

「……あ、いえ、その……」

「俺がもっと慌てたり、引き留めたりすると思ったか?」

言い淀むメーヴィスに、苦笑しつつそう返すギルドマスター。

「あ、ハイ……」

「成長して、町を出て王都を目指す若手ハンターを何人見送ってきたと思ってるんだよ……。

そんなの、日常茶飯事だ。

そりゃ、最初は引き留めたさ。ハンターに新規登録しようっていう有望な新人を逃したとあっちゃあ、この支部の恥になるからな。それに、依頼の達成率がいい奴や、稼ぐ奴はありがたいからな。

でも、お前達はもうCランクの一人前だし、うちも商業ギルドも充分稼がせてもらった。

……そして、もうないんだろ? お前達が受けたいような依頼が、この町には……」

「あ、はい……」

メーヴィスの返事に、肩を竦めるギルドマスター。

「そういうこった。

ハンターには、2種類の者がいる。自分と家族が食っていくための金を稼ぐのが目的の奴と、上を目指し、夢を追う奴だ。

前者はどこかの町に住み着いて、あまり危険が大きくない仕事を選び、堅実にやっていく。

この町にいる年配のハンターは、そういう奴らだ。

そして後者は、王都へ行くか、修行の旅に出る。

お前達がここに居着くなんて思っている者なんか、ひとりもいやしねえよ。

……有望な若手が町から出て行くなんざ、皆、慣れてるさ……」

「「「「…………」」」」

ギルドマスターは笑いながらそう言うけれど、その様子は、少し残念そうであり、そして寂しそうであった。

「で、商業ギルドにはもう行ったのか?」

「いえ、これからです」

「あ〜〜。

ま、何を言われても、あまり気にすんなよ……」

「……え? は、はい……」

* *

「「「「「「えええええええええ〜〜っっ!!」」」」」」

商業ギルドの受付嬢に町を出ることを伝えると、受付嬢だけでなく、それを聞いた他の職員や、居合わせた商人達から悲鳴のような声が上がった。

ハンターギルドでは、職員だけでなく居合わせたハンター達も同業者であり仲間なので、皆に対して報告した。

しかし商業ギルドでは、居合わせた商人達は自分達とは直接の関係はないため、受付嬢にだけ伝えたのであるが、この結果である。

どうやら、最近の大量納入が『赤き誓い』によるものだということが、既に広まっているようであった。

以前から『赤き誓い』に目を付けていた者がいたであろうし、先日の高級魚と 海棲魔物(シーサーペント) の納入で完全にバレたのであろう。

……当たり前である。

いくら何でも、あそこまでやって金の亡者である商人達に気付かれないわけがなかった。

「……待って、待ってくださいぃ〜〜!!」

ハンターギルドとは違い、2階のギルドマスターの執務室へ連れて行かれるのではなく、知らせを受けたらしいギルドマスターが2階から駆け下りてきて、レーナに縋り付いた。

……どうやら、レーナがパーティリーダーだと思っているようである。

「行かないで! 行かないでくださいぃ!!」

……ハンターギルドと、あまりにも態度が違いすぎる。

そう思い、動揺する『赤き誓い』。

((((あ……))))

そして、ようやくハンターギルドのギルドマスターが言った、『何を言われても、あまり気にすんなよ』という言葉の意味を理解したのであった。

そう。ハンターのために互助会的な役割を担うために設立されたハンターギルドは、確かに職員だけでなくハンター達も含めて手厚い福利厚生に努めるために、利益を必要とする。

しかしそれは、いくらでも無制限に儲けることを第一目標に、というわけではない。

あくまでも、ハンターを守り、皆の円滑な活動を支援するのが目的なのである。

だから、己の利益のためにハンターの行動を縛るようなことはない。

……しかし、商業ギルドの目的は、確かにハンターギルドと同じく加盟者である商人達の円滑な活動を支援することなのであるが、……その『商人達の活動』というのは、 金儲け(・・・) なのである。

だから、商業ギルドが『赤き誓い』に求めることは……。

「お願いですから、町を出ていかないでくださいいいぃ〜〜!!」

こうなるのであった……。