軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

609 拠 点 3

「そんな名前、人前で呼べませんよっ! ……いえ、人前でなくても呼べません!!」

《えええ……》

あからさまに落胆した様子の、『時を越える者』。

《ならば、管理者様に名付けていただきたく……》

「私は命名のセンスがゼロなんですよっ! そして、今はメカ小鳥ちゃんの名前を考えるので精一杯なんですよ!」

《メカ……小鳥……に……?》

「あ……」

失言をした。

さすがのマイルも、それに気が付いた。

自分が拒否された管理者直々の命名を、自分の配下の者が受ける。

それも、その場で適当に名付けられるのではなく、何日もかけて、じっくりと考えた名を……。

そりゃ、上司としては面白かろうはずがない。

《……しかも……、『ちゃん』呼び……》

「あああああああ!」

『時を越える者』、闇堕ち寸前である。

焦るマイル。

「わ、分かりました! 考えます、何かいい名前を考えますからっ!!」

高性能コンピューターに闇堕ちされては堪らない。

……なので、そう答える以外、他に選択肢がなかった。

そして、何とか頼み込んで、日数的な猶予を貰った、マイル。

但し、その代わりに『時々、ここへ来る』という約束をさせられてしまった。

「いや、私の方が偉いんですよね? しかも、名前を付けてくれっていうの、そっちからの頼み事ですよね? どうして私が締め切り延長のために交換条件を出されなきゃならないのですかっ!

……あ、いや、いいです。何となく分かってますから……。

それに、空を飛べばすぐですから、たまに来るくらい、大した手間じゃありませんからね」

自分の突っ込みに、しまった、というような様子になった『時を越える者』を気遣う、マイル。

自分達の造物主を失い、忠誠心のやり場を失っていた被造物達。

それが、新たな管理者を得て、何を望むか。

それくらいのことは、マイルにも分かる。

ならば……。

「あ、もし材料に余裕ができたら、鉄の船を造ってもらえないかな?」

《宇宙船ですか! 星系内用ですか、それとも 恒星船(スターシップ) ですか!

移民船ですか、戦闘艦ですか!!》

……無茶苦茶、食い付いた。

おそらく、現状ではそのようなものを造れるだけの力はあるまい。資材的にも、労働力的にも。

しかし、それは『管理者の命令によって、自分達が全力で活動するための目的が示された』ということである。

これから先、数十年に亘り自分達が全力を挙げて活動するための、大きな目的が……。

自らの、存在意義。

造物主達の後継者である、新たな管理者の望み。

奉仕。

防衛機構の再建計画との資源や労働力の配分を考えながらの、併行で進める作業。

自分達の能力の見せ所。

それは、食い付くのも無理はない。

しかし……。

「あ、この世界の文明レベルに合わせた、全長十数メートル、帆は1枚で、動力なし。

海棲魔物(シーサーペント) に船底を破られないだけの強度がある、鉄の船体だけで。

艤装は、 地元の人々(じもピー) がやるから、必要ないよ。

完全に出来上がったものを渡すのは、漁師の皆さんの矜持を傷付けちゃうかもしれないからね」

《え?》

「ん? どうかした?」

《……え?》

「え?」

《えええええええ?》

* *

「いや、ごめんって! そんなに期待を裏切ることになるとは思わなくて!」

《…………》

別に怒ったり 拗(す) ねたりしているわけではないのであろう。

……というか、そのような感情を持つほど進歩したコンピューターだとは思えない。

名前の件とかも、あれは自分が上下関係として不当な扱いをされたために抗議しただけであって、それは利害関係や組織の秩序維持のために必要であると判断した 計算上の行動(・・・・・・) なのであろう。

そして今の状況は、最初に提示されたことから推測した期待値を大幅に……、無茶苦茶大幅に下回る詳細説明を受けて……。

(やっぱり、機嫌を 損(そこ) ねてるよねぇ……)

そして、『時を越える者』の様子に、戸惑うマイル。

人間の心の 機微(きび) には 疎(うと) いマイルであるが、被造物は感情……のような反応においては割と単純なためか、マイルにもある程度は察知できるようである。

それが単なるプログラムによる反応なのか、人間との円滑なコミュニケーションのためにそう振る舞うよう学習しただけなのかは分からないが……。

「いや、今は、資源も労働力も防衛機構に回すべきでしょう!

神様も、あなた達を造った造物主も、この世界を護るということが最優先事項だったのでしょう? ならば、今は防衛機構の再建を最優先にして、それ以外のことは後回しにすべきだよね!

暢気(のんき) に宇宙船を造っている間に再侵攻されて、宇宙船は完成していないわ、惑星上のヒト種は壊滅したわで台無しになったら、造物主さんも悲しむんじゃないのかなぁ……」

《……確かに。その推察の論理性と妥当性を認めます》

どうやら、納得してくれたらしい。

これくらいのことは、マイルに言われるまでもなく、『時を越える者』くらいの能力があれば自分で判断できるはずである。

しかし、マイルが望む『船』が、他星系への脱出・移住用の船かもしれなかったし、いくら自分達がより良き案を考えていたとしても、 管理者(マイル) が望んだならば、たとえそれが最適解ではなくともその希望を叶え、命令を遂行するのであろう。

……それが、『被造物』というものなのだから……。

《あ。マイル様、『 ゆっくり歩く者(スロー・ウォーカー) 』から、苦情がきております。

なぜ自分だけ個体名を戴けないのか、と……》

『 ゆっくり歩く者(スロー・ウォーカー) 』がこの件を知ったのであれば、当然の結果である。

「……ああ。あああああああああっっ!!」