軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

602 旧大陸では……

「敵の姿はありません!」

「よし、何とか振り切ったようね。じゃあ、このまま帰るわよ」

「「「「おおっ」」」」

ようやくひと息吐き、安心したような顔の『女神のしもべ』の5人。

別に、魔物に追われていたというわけではない。

……確かに、追われてはいたのであるが。婚約を迫る連中に……。

そう。あの、異世界から侵攻してきた魔物達との戦いにおいて、その非凡な戦闘能力を大陸中の空に映し出された『女神のしもべ』は、貴族や商人からのお抱えハンターへの勧誘と、ハンター仲間からのパーティやクランへの勧誘、そしてお付き合いや婚約を迫る連中が殺到し、おちおち町を歩けないという状況なのであった。

貴族や商人からの遣いの者は、町にいる時にしかやってこないが、ハンター連中は仕事のために森の中で行動している時にも、偶然を装って近付いてきて、付きまとう。

狩りや採取の邪魔であるし、鬱陶しいこと、この上ない。

「ハンターの奴ら、パーティごと合体、というならまだしも、それだと人数が増えすぎるから『女神のしもべ』を解体して複数のパーティに分散、って、馬鹿じゃないの!

私達は、『赤き誓い』の連中のように、ひとりひとりがずば抜けた能力を持っているというわけじゃないのよ。みんな、ごく平凡な能力しかない。

それを、互いの能力を熟知してのチームワークでみんなの力を何倍にも増幅するのが、私達の強みなのよ。

なのに、パーティをバラして振り分ける?

そんなことをすれば、みんな普通のCランク下位の、下層ハンターに過ぎなくなるわよ!

アイツら、全く分かってない! 分かってないわよ!!」

そう言って愚痴るテリュシアであるが……。

「まあ、それでも、リートリアよりはマシだよね……」

「「「「…………」」」」

フィリーの言葉に、何とも言えない顔をして黙り込むみんな。

そう。あのナノマシンによる中継で、『女神のしもべ』の中で一番目立っていた、リートリア。

巨大な金砕棒を振り回し、攻撃魔法を乱射しながら魔物達を蹴散らす、可憐で可愛い貴族の少女。

……その強さと美貌に、その血を一族に取り入れたいと考えた貴族や王族達からの 猛攻(婚約申し込み) が始まり、ハンター活動どころではなくなったため、現在は一時的にパーティから抜けている。

リートリアの加入によって劇的なまでに戦闘力が向上した『女神のしもべ』にとって、これはかなり痛かった。

攻撃系魔術師がいる便利さに、完全に慣れてしまったのである。

「……リートリア、復帰できるのかしら……。まさか、このまま婚約・結婚で、引退とか……」

「万一の場合は、攻撃系が得意な魔術師を募集する?」

「駄目よ!」

ウィリーヌとタシアの言葉を否定する、テリュシア。

「もし今、メンバー募集なんかすれば、どこかの息の掛かった者……王宮魔術師とか、貴族や大店のお抱え魔術師とか、上級のハンターパーティのメンバーとかが送り込まれてきて、内部からの切り崩しや引き抜きをやられるわよ」

「「「「あ〜……」」」」

「仕方ない。リートリアが無事縁談を断って戻ってくることを祈って、しばらくは受ける依頼の難度を下げて、堪え忍ぶしかないだろう」

「「「「…………」」」」

『女神のしもべ』、苦難の日々であった……。

* *

「……伝達事項は、以上です。では、失礼します」

「は、はい、ありがとうございました……」

王宮からの使いの者が帰り、まだぽかんとした顔のままの親子。

……ポーリンの母親と、弟のアランである。

伝えられたのは、ポーリン・フォン・ベケット女伯爵がマイレーリン女伯爵、レッドライトニング女伯爵と共に、 国の重要な任務で(・・・・・・・・) 、長期に亘る国外行動に出掛けたこと、そして万一の場合には弟を後継者とする指示書を残している、ということであった。

「……姉さんが死ぬか、帰ってこなかった場合、僕が伯爵家の後継者に……。

この僕が、伯爵様。貴族様に……。

くふ。

くふふふふ……」

「ああっ、アランが暗黒面に堕ちかけてるぅ! こら、アラン、正気に戻りなさい!!」

ゴツン!

「……はっ! 今、僕は何を……。

いやいや、僕は父さんが残し、姉さんが奪い返してくれたこの店を守り、大きくしなくちゃ……」

何とか、堕ちずに踏み 止(とど) まったようである。

* *

「止まれ!」

「え?」

王都の裏通りをひとりで歩いていたモレーナ王女は、突然怪しい男達に前後を塞がれた。

全部で、6人。いかにも 悪人面(あくにんづら) をした男達である。

今のモレーナ王女はお忍びであり、平民の恰好をしている。

手入れされた髪や気品などから、上流階級の者であることは一目瞭然であるが、せいぜい金持ちの商家の娘か、下級貴族が囲っている愛人の娘くらいに思われているであろう。

下層民は、王女殿下の顔を間近で見る機会など、まずありはしないので……。

そのため、これは王女を狙ったわけではなく、ただ単に、護衛も付けずにこんなところをうろついている馬鹿な金持ちの娘、として誘拐しようとしただけなのであろう。

身代金目的か、人身売買なのか、その目的は分からないが。

とにかく、少女ひとりに6人掛かりである。チンピラの小遣い稼ぎではなく、大金が目当てなのは間違いなかった。

「へへへ、こんなところをひとりでうろつく、お嬢ちゃんがいけないんだぞ。運が悪かったと思って……」

「 吶喊(とっかん) !」

「「「「「「うおおおおおお〜〜っっ!!」」」」」」

「「「「「「……え?」」」」」」

呆然と立ち尽くす、誘拐犯達。

それも、無理はない。

誰もいなかった。……ひとりの少女以外は。

なのに、何もなかった場所に突然、剣を振りかぶった兵士達が現れ、少女の命令で自分達に向かって突入してきたのである。

どこげしゃずごんばこん!

誘拐犯達は、賢明にも武器を抜かなかった。

そのおかげで、兵士達は切り捨てることなく、剣の腹……横側の 平(ひら) たい面……で打つ『平打ち』と足蹴りで攻撃し、相手を殺すことはなかった。

これは、それだけの余裕があったからである。

もし誘拐犯達が武器を手にしていれば、迷わず斬り捨てたであろう。

……勿論、それが分かっていたからこそ、誘拐犯達は武器を抜かず、抵抗もしなかったわけであるが……。

そして、6人の誘拐犯達を縛り上げた後……。

「大儀でありました。臨時報奨金は、期待してもよろしいですわよ」

「「「「「「はは〜〜っ!!」」」」」」

……勿論、アイテムボックスの 仕業(しわざ) である。

モレーナ王女は、常に1個分隊、9名の護衛を連れている。

……アイテムボックスの中に入れて。

剣を振り上げて構えた状態で、そのままアイテムボックスに収納。

危機に陥った時には、それを取り出すわけである。

取り出されるのは、交替の時か、敵に襲われた時のみ。

なので、王宮の近衛隊詰所以外の場所で出された場合、剣を振りかぶったままの態勢で敵に突っ込むのみ!!

実は、3日交替であるこの役目、近衛兵の間では大好評なのである。

何しろ、体感的には、経過時間ゼロ。

コンマ数秒もかからずに、3日分の仕事が終わるわけである。

その間、歳も取らなければ、お腹も空かない。何もせずに3日分の俸給を貰えるのと同じである。

そして、ごく稀にではあるが、出番があった場合には『王女殿下を賊の手からお護りした』という名誉と臨時報奨金、そして王女殿下と国王陛下からの 労(ねぎら) いのお言葉が戴けるのである。

このような美味しい任務は、そうそうあるものではない。

希望者殺到であり、不公平のないよう、厳密にシフトが組まれているのであった。

……一度、新大陸のエストリーナ第三王女が誤って取り出し、目の前に出現した、自分に向かって剣を振りかぶった9人の兵士に腰を抜かし、その悲鳴に飛んできたあちらの近衛騎士との間で 大事(おおごと) になりかけたのは、笑えない話であった……。