軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

595 外 海 1

「じゃあ、マイルの収納に入っている高ランクの珍しい魔物を1頭だけ売ってやればどうかな?

それなら他の魔物の相場には影響しないだろうし、かなりの利益が出て、小さな店を持てるんじゃないかな? そうすれば、満足して店の経営に専念するんじゃあ……」

「駄目よ」

メーヴィスの案は、レーナに一蹴された。

「そんなの、高く売れる魔物をもっと寄越せと言って、更に纏い付かれるに決まってるじゃないの。

おまけに、それを知った他の商人達も群がり寄ってくるわよ。

一回限りで、二度目はない、ってことが分かるような状況にしないと……。

それに、そんな高ランクの魔物が狩られたとなれば、どこで、いつ狩られたのか調べられて、国から調査隊が派遣されて、大騒ぎになるわよ。

魔物が1頭だけ空気中から湧いて出るわけないから、そのあたりには最低でも数十頭の群れが生息していると考えてね。

そうすれば当然、私達が狩ったこと、そしてハンターギルドの加入者という以外の後ろ盾のない流れ者の小娘が4人で狩ったということが 公(おおやけ) になり、そうなると……」

「「「あ〜……」」」

そこから先は、言われなくとも分かる。

「そもそも、居もしない高ランクの魔物の危険に対処するために、領軍や国軍に調査隊を出させたり、周辺住民の不安を煽ったり、ハンターのその周辺での活動を制約したりと、大勢の人達に迷惑掛けまくりですよ。もし後でそれが嘘だと分かったら、莫大な賠償金と、処罰として国か領主に身柄を押さえられて、いいように 扱(こ) き使われますよ」

「確かに……。国としては、そんな便利な 四人組(フォーマンセル) 、鉱山奴隷にするよりも拒否権のない戦闘奴隷にした方が、ずっと役に立ちますからねぇ……」

ポーリンの言葉に、そう言って頷くマイル。

「「「「駄目か……」」」」

そして、しばらく 沈思黙考(ちんしもっこう) に 耽(ふけ) る4人。

「……そうだ! 海棲魔物(シーサーペント) はどうですか? あれなら、どこで狩ったかとか、まだその辺りに群れが、とかいう問題がありませんよね。そして、素材が全く出回っていないですから、相場の値崩れとかは関係ありませんよ。

好きなだけ狩っても、値崩れしようがしまいが、迷惑を受ける人達は誰もいませんよ。

そして、もっと欲しければ自分達で狩りに行ってくださいよ、私達はもうあんな危険な真似は二度と御免ですよ、と言えば……」

「「「なる程!」」」

マイルの提案に納得する、レーナ達。

確かに、小舟で外海に出て 海棲魔物(シーサーペント) を狩ろうとするハンターなどいないし、その素材が出回ることなど、たまたま死んだ 海棲魔物(シーサーペント) の死体が海岸に打ち上げられた時くらいであり、その時には肉や皮の大半は腐っていたり、海洋生物に食べられていたりして、骨や歯くらいしか使える素材はない。

そしてそれですら、何年に一度、あるかないかであった。

稀少な素材。どこに行けば狩れるかはみんなが知っている。そして誰も、ハンターに対して『あそこへ行って、もっと狩ってこい』などということが言えるはずがない、危険な狩り場、危険な獲物。

「いい案ね。……で、どうやって外海まで出るのよ?」

「「「あ……」」」

レーナの質問に、固まる3人。

確かに、あの時は簡単に狩れた。

しかしそれは、移動のための乗り物としてのケラゴンの存在と、戦うためのプラットフォームとしての船の存在があったからである。

今回は、ケラゴンの存在は、別に必要ない。

しかし、船は必要である。

マイルなら空を飛べなくはないが、他の3人のことや、戦い、獲物の回収、その他諸々を考えると……。

そして、そんな危険なことのために船を出してくれる漁師がいるとは思えなかった。

船というものは、漁師にとってはひと財産である。

おそらく、現代の日本人が都会の一等地に建てたマイホームくらいの価値観であろう。

自分の魂。漁師を継ぐ息子に受け継がせる、大切な財産。

それを、初対面である余所者の小娘の妄言に乗せられて外海へと乗りだし、 海棲魔物(シーサーペント) を狩る?

そのような話に乗るのは、馬鹿だけである。

* *

「……よし、乗った!」

「あんた、馬鹿なの!」

そして、なぜかそんな無謀な話を受けてくれた、漁師のオヤジ。

年齢(とし) は60歳前後。

「もう、人生の元は取った! このまま老いさらばえて皆に迷惑を掛けながら生きて行くくらいなら、その前に 相棒(フネ) と一緒に旅に出ようかと思っておったところだ。

息子が自分の船を新造したから、譲った 儂(わし) の船を返してきおったからな。

ボロボロの老人と、ボロボロの老船じゃ、共に、砕け散っても惜しくはないぞ!

それが、4人もの美人の 女子(おなご) と一緒だなどと、貴族様でも不可能な贅沢じゃろう。

天国へと昇天できること、間違いなしじゃ!」

……この世界では、60歳というのはかなりの高齢である。

人は盲腸や肺炎で簡単に死ぬし、戦争で死ぬより多くの人数が出産時に死ぬ。子供も、母親も。

そして栄養状態が悪いため、老化が早い。おまけに、何十年も潮と太陽に晒され続けた皮膚はひび割れ、シワが多い。

この 年齢(とし) まで生きて、子供や孫を残せたならば、思い残すことはないのであろう。

そしてあとは、皆に老醜を晒すことなく、立派な最期を見せることができれば、望外の幸せなのであろう……。

「ヴィラルじいさん、そりゃズルい!」

「その仕事、儂に譲れ!」

「おめぇは船を持っとらんだろうが!」

「頼む、儂も乗せてくれ!!」

周りで話を聞いていた老人達が群がり、収拾がつかなくなってきた。

ここは、『赤き誓い』がこの大陸に来て最初に訪れた、あの漁村である。

馬鹿な船持ちの漁師がいないかと思って行ってみると、あの時の宴会に参加していた年寄り達が集まってきた。そして馬鹿がいないか聞いてみたところ、この始末である。

……みんな、馬鹿ばかりであった……。

「死にに行くわけじゃありませんよっ! 死ぬなら、自分達だけでお願いしますよ。若くて将来のある私達が道連れにされるのは願い下げですよっ!」

「わはは、確かに、そりゃそーだ!」

「「「「「「わはははははは!」」」」」」

というわけで、船と操船手は確保できた。

……できてしまったのであった……。

* *

港を出て、外海へと向かう一 艘(そう) の漁船。

三角帆をひとつ備えただけの小さな船であるが、公園とかにあるような手漕ぎの小舟というわけではない。『赤き誓い』が戦うためのスペースは充分にある。

獲物はマイルの 収納(アイテムボックス) に入れるので、問題はない。

推進力は 櫂(かい) と帆の併用であるが、今回は風魔法が使えるため、帆の出番が多そうであった。

……さすがに、常時風魔法を使いっぱなし、というのは無理であるが、出入港時や、ここぞという時に使えるだけでも、かなり便利である。

そして、漕走においては……。

「凄ぇな、嬢ちゃん達……」

「うちの孫の嫁に来てくれんかのぅ……」

「「たはは……」」

そう。老人達に漕走のための過酷な櫂漕ぎをさせるに忍びず、立候補したマイルとメーヴィスであるが……。

凄すぎた。

マイルは勿論であるが、機械の左腕と、その出力の反動に耐えられるように全身に手を加えられたメーヴィス。そして更に、『気の力』という名目の、身体強化魔法。

このふたりの力は、年老いてなお鍛え上げた肉体を誇る老人達を遥かに 凌駕(りょうが) し、皆を驚かせるのであった。

「いや、いくら嫁に漕走能力があっても、漁師の嫁は船には乗らず、家を守っているのだから、意味ないでしょうが!」

「「「「それもそうか……」」」」

レーナの言葉に納得しかけた老人達であるが……。

「いや、ひ孫にその力が伝われば……」

「「「なるほど!!」」」

「だから、まだ当分は結婚する予定はありませんよっ!」

『赤き誓い』の4人と、船の持ち主である老人ヴィラルを含めて4人の、引退した元漁師の老人達。

老人達は『エスコート役の人数は合わせんとな』、とか言っていたが、どうやら海で死んだ漁師が召される、 勇敢なる戦士達の楽園(ヴァルハラ) の『 漁師版(・・・) 』があるらしいのだ。

そんなところへは行きたくない、と思う『赤き誓い』一同であるが、余計なことは言わず、黙っていた。

……そもそも、ここで死ぬつもりはないので、関係ない。

そして船は、外海へと向かうのであった……。