作品タイトル不明
594 商人の少女 4
そして、翌朝。
「じゃあ、今日も一日、頑張るわよっ!」
「「「「おおっ!」」」」
「……」
「「…………」」
「「「………………」」」
「「「「……………………」」」」
「「「「「…………………………」」」」」
「どうして、ひとり多いのよっ!」
そう。
レーナの掛け声に対する返事が、四つ。
ひとり、多かった……。
(宇宙大学の入学試験かな?)
そしてマイルは、いつものように、よく分からないことを考えていた。
「ここは、員数外の 闖入者(ちんにゅうしゃ) を 炙(あぶ) り出して……」
「余分なのはアルリに決まってるでしょうがっ!」
レーナに冷たく断言されてしまい、せっかく推理ごっこができると喜んでいたマイル、がっくりである。
「今からハンターとしての仕事に行くのに、どうして商人のアンタがついてくるのよ!
いえ、たとえアンタがハンターだったとしても、ついてくる理由がないでしょうがっ!!」
「そうですよっ! それに、よく考えてみたら、商人で守銭奴。キャラが私に丸被りじゃないですか! 私の 立ち位置(ポジション) を脅かすつもりですかっ!!」
レーナに続き、不機嫌そうなポーリンの声が……。
(((あ、キャラ被りに気付いてなかったんだ……。そして、守銭奴という自覚はあったんだ……)))
しかも、『自称、商人』には、レーナもいる。
5人中3人が商人では、個性が埋もれてしまう。
強烈な個性があるレーナはそんなことは全く気にしていないようであるが、自分が地味で目立たないと思っているポーリンにとっては、それは大問題のようであった。
メンバー達は、『守銭奴』、『巨乳』、そして『腹黒さ』で、ポーリンには充分強烈な個性があると思っているのであるが……。
「まぁ、別について来られても問題はないんですよね、私達にとっては……。
収納魔法については既にハンターギルド内において公表済みですし、私達が低ランクだったのは今までハンター登録をしていなかったからであって、毎回オークやオーガを狩ってきますから、Cランク上位からBランク並みの実力だということも皆さんご存じですし……。
それも、今はCランクになっていますしね。
なので問題があるとすれば、それはアルリさんが私達が行く狩り場の危険度に耐えられるかどうか、という点なのですが……」
マイルは『問題ない』と言っているが、ポーリンのホット魔法の正体……辛味成分であるカプサイシンが抽出できる……を知られるのは、マズい。お金になる、出元を調べられる、金の亡者達が 集(たか) ってくる、の3連コンボ間違いなしである。
しかし、マイルはそれには気付いていないようであった。
「え……」
そしてマイルの説明に、顔色が悪くなったアルリ。
農民の娘から商人を目指したらしいアルリには、当然のことながら、魔物との戦いの経験などない。なので、ゴブリンやコボルト相手でも瞬殺されることはほぼ確実である。
そして、Cランクとなった『赤き誓い』が向かう狩り場は、スライムやコボルト、ゴブリンとかの新米ハンター用の魔物しか出ないようなところではない。
到底、ハンターではない普通の少女が安全に行動できるような場所ではなかった。
「かっ、考えてみれば、商人は獲物や素材を買い取り、売るのが仕事ですよね! 他の業種の人達の仕事に割り込んだり、奪ったりするのは良くないことです!」
どうやら今は商人らしく振る舞うための『ハイテンションモード』らしく、早口でそう捲し立てるアルリ。
「……では、私はここで、皆さんのお帰りをお待ちしています!」
「待ってなくていいわよ!!」
レーナの叫びに、こくこくと頷くマイル達であった……。
* *
「……で、どうすんのよ、アレ……」
狩り場である森へと向かいながら、困ったような口調でそう溢す、レーナ。
「どうする、って言われても……」
同じく、困ったような顔で答えるメーヴィス。
「他のハンターやハンターギルドに迷惑を掛けないためには、ギルドマスターとの約束を破るわけにはいかないし、約束の内容の穴を突いて商業ギルドや商店に直接売る、ってこともできないよね。
そして、もしそうするとしても、私達が直接売ればいいのであって、わざわざあの子を間に挟んで利益の一部を中抜きさせなきゃならない理由はないよね?」
「勿論、その通りですよ! 我ら『赤き誓い』には、ちゃんと商売担当の私がいるのですから!」
ポーリン、そこは絶対に譲れないようであった。
「そもそも、マイルちゃんの収納目当てで 集(たか) ってきただけの、零細商人ですよ。
そんなのに、私達には何のメリットもないのに同情心で儲けさせてあげたら、どうなると思いますか?」
「街中の零細商人、駆け出し商人が 集(たか) ってくる……」
「いいえ、違いますね」
マイルの返答を否定する、ポーリン。
「街中の、ありとあらゆる商人と、商人以外の金の亡者達が押し寄せてきますよ。
当たり前でしょう、ちょっとしつこく付きまとえば大儲けできる素材を簡単に吐き出す、打ち出の小槌ですよ。
だから、面倒事に巻き込まれたくなければ、私達はハンターギルド以外に納品しちゃ駄目なんですよ、ギルドマスターとの約束が、あろうが、なかろうが……。
商業ギルドとの 直取引(じかとりひき) も、やめた方がいいですね。ハンターギルドとの業務分担の取り決めがあるでしょうし、有力商人からの圧力にはあまり逆らえないでしょうから。
ハンターギルドのようにはいかないでしょうからね、商業ギルドは……」
「はえ~……」
ポーリンの説明に、目を丸くしながらも納得した様子のマイル。
「じゃあ、アルリさんは完全無視、一切相手にしない、ってことですか? それも、ちょっと気の毒なような気が……。
他の商人が気付かなかったことにただひとり気付いて、自分の人生を懸けて食らい付いてきたのでしょう? その才能に敬意を表して、象印賞とは行かなくとも、せめて努力賞か熱演賞くらいは……」
「また、ワケの分からないことを……」
レーナが呆れるが、今回は『象印賞』という謎の言葉以外は理解できるだけ、いつもよりはマシであった。
「まだ他の商人は気付いていないようですし、1回限りで、何かちょっと儲けさせてあげて、それで縁切り、というのはどうでしょうか?」
マイルがそう提案するが……。
「甘いですよ。こっちはそのつもりでも、商人が一度掴んだ金蔓をそう簡単に諦めて手放すはずがないでしょう。ずっと付きまとわれますよ、絶対!」
言っているのがポーリンだけに、説得力があり過ぎた。
「困ったわねぇ……」
「困ったねぇ……」
「「困りましたねぇ……」」
普通のハンターであれば、自分達の秘密を嗅ぎ付けて、付きまとってきたり 強請(ゆす) ってきたりした者は、 密(ひそ) かに処分、というのが当たり前であろうが、勿論、マイル達にはそんなことをするつもりはない。
なので……。
「やはり、御祝儀として1回だけ何か金目のものを卸してあげて、『これが、最初で最後。それが嫌なら、何も卸さずに、これで縁切り』っていうことにしてはどうですか? 今後、他の者からの依頼も一切受けない、ということにして……」
そう提言するマイル。
「う~ん、仕方ないわねぇ……。本当はそんなことをしてあげる必要もないんだけど、アンタは頑張った者には御褒美をあげる主義だからねぇ……。
ま、私はそれでいいわよ。もしその後に面倒事が起きれば、さっさとこの街から出て王都を目指せばいいだけだものね。
その場合のあの子へのペナルティは、『大容量の収納使いがいるパーティが、アイツが付きまとったせいでこの街から出ていった』という話がハンターギルドと商業ギルドに広まることね」
「……それって、もうこの街では商人としてやっていけなくなるのでは……」
レーナの言葉に、マイルが心配そうにそう言うが……。
「やらかしたことに対するペナルティなんだから、厳しくて当然でしょ。
それに、他の街か王都に行けば、商人は続けられるでしょ」
それを聞いて、こくこくと頷くポーリン。
「私も、それで異議はないよ」
「皆さんがそう言われるなら、私も特に問題はありません」
レーナ、メーヴィス、そしてポーリンも、マイルの案を了承した。