作品タイトル不明
590 その頃…… 7
「……じゃあ、収納魔法は隠すつもりはないんだな?」
「ええ。これを隠しますと、私達には素材を持ち帰る能力が殆どありませんから、稼ぎが激減しますの。それだと、新米ハンターとしての普通の依頼報酬だけでは、大して稼げませんわ」
「「「「「「…………」」」」」」
マルセラの説明には、皆、納得するしかなかった。
いくら攻撃能力が高くても、高ランクの討伐依頼が受注できない新米ハンターとしては、狩った獲物を持ち帰る能力がなければどうにもならない。
それは分かる。
分かるのであるが……。
「……狙われるぞ。勧誘という意味でも、誘拐という意味でも……」
「何を、今更……。
今まで、そういうことがなかったとでも?
そして今、私達は健在ですわよね?
……つまり、そういうことですわよ……。
それに、相手を一撃で即死させられる無詠唱魔法が使える魔術師3人を誘拐して、売り飛ばせるとでも? 猿ぐつわをしようが喉を潰そうが、無詠唱魔法には意味がありませんわよ。
取り引きが行われるまで猫を被っていて、取引現場で全員を一網打尽ですわよ」
「「「「「「…………」」」」」」
御主人様に抵抗できなくなる魔法の首輪や、奴隷紋が刻まれる隷属魔法などという便利なものがあるわけではない。反撃など、無詠唱魔法で一瞬である。
「詠唱省略魔法だけでなく、無詠唱魔法も使えるのか……。
使えるんだろうなぁ……」
がっくりと肩を落とす、リーダー。
そして新人の少女魔術師がすぐに死んでしまわないようにと、少し面倒を見てやるつもりであった『女神の勇者』の女性魔術師ふたりも、がっくりと肩を落としている。
面倒を見てやるつもりであった相手が、自分達より遥かに格上だったと知って……。
しかも、相手は未成年の子供である。
盛大に落ち込んでいた。
「とにかく、確認したかったことは全て、……いえ、それ以上の成果がありました。
本日の合同受注はこれまでということで、帰りましょう」
そしてマルセラの言葉に、力なく頷く『冬の城』と『女神の勇者』のメンバー達であった……。
* *
「何じゃ、こりゃあああ〜〜!!」
どさりと床に出されたオーク6頭、オーガ4頭を見て、思わず大声を出してしまった、解体場の主任。
それも、無理はない。
常軌を逸した馬鹿容量の、収納魔法。
そして収納魔法の遣い手がいるというだけで、戦闘能力は殆ど無さそうな、小娘の三人組。
その3人を護りながらでは、いくら2パーティ合同でも、到底狩れそうにない数のオークとオーガ……。
「お、お前達だけで狩ったのか、この数を!」
収納魔法にも驚いたが、どうやらそれよりもこの大量のオークとオーガの方がインパクトが大きかったようである。
3頭のオークを狩れば、持ちきれないだけの肉が取れる。なので、1回戦えば、それで帰るのが普通である。
なので、一瞬、一度の戦いでこれだけの獲物を、と勘違いしたのであろう。
「……あ、そうか! コイツらが同時に出てきたわけじゃないか! 馬鹿容量の収納持ちがいるなら、連戦しても全て持ち帰れるから問題ねぇってワケか!
か〜〜っ! 収納持ちがいると、常識ってもんが散歩に出ちまうわな!
戦ったのは、オーク3頭が2回、オーガ2頭が2回、か……。
しかし、見習いの子供を連れて、無茶しやがる……。
いや、見習いがいるから、いいトコ見せようとしやがったのか。
馬鹿野郎、可愛い娘っ子に見栄張ってカッコつけようとしたら、死んじまうだろうが!
てめー達が死ぬのは別に勝手だが、将来美人に育ちそうな女の子達を巻き込むんじゃねぇ!」
長い付き合いなのである。主任は、『冬の城』と『女神の勇者』の実力くらい、把握している。
なので、オーガを含む4連戦がこの合同パーティの許容限度を超えていることくらいは分かっていた。
今回は、ただ運が良かっただけ。そう判断するのは当然である。
「「「「「「…………」」」」」」
どやしつけられた『冬の城』と『女神の勇者』、そして『可愛い』とか『美人に育ちそう』とかを連発された『ワンダースリー』は、ヘコんだり、赤くなったりと、ぐだぐだである。
かなりの高ランクハンターであっても、普通、解体場の 責任者(ボス) には頭が上がらないものである。
下手をすれば、ギルドマスターですら……。
解体場のボスは、ハンターを引退した者が務める場合が多いため、駆け出しのひよっこだった頃にお世話になった先輩だったり、新人講習の時の教官だったり、そして森で危機を救ってくれた元高ランクハンターだったりするので、それも不思議なことではない。
あの、買い取り窓口のオヤジと同じパターンである。
「ふむ、いい切り口だ。腕を上げたな、お前達……」
そして、オーガの切り口を見ながら、そんなことを言っている主任。
炭化ケイ素を混ぜた高圧水流による切断面など見たことがない主任は、それを腕を上げた剣士による切断だと思ったらしい。そしてロック・ジャベリンによって 穿(うが) たれた穴は、槍士によるものだと……。
解体場主任の見る目、とんだ節穴であった。
「「「「「「…………」」」」」」
そして、少し赤い顔で俯く、『冬の城』と『女神の勇者』のメンバー達。
自分達がやってもいないことで褒められても、ただ恥ずかしいだけで、嬉しくも何ともない。
しかし、主任の勘違いを訂正しようにも、下手に説明すればハンターとしての最大の禁忌である『仕事で知り得た他のハンターの秘密の漏洩』を犯すことになる。
勿論、『秘密』の中には、戦闘スタイルや特技、弱点なども含まれる。
それらの漏洩は、対人戦における生死を分けるのであるから、当然である。
……特に、違法な奴隷狩りや不埒な男達に狙われ易い女性ハンターにとっては……。
なので、間違いを訂正したくても、できない。
隠すつもりのない収納魔法だけでも襲われる危険があるというのに、わざわざ『正面から行くと攻撃魔法で反撃されるから、奇襲か搦め手の方がいいよ』とアドバイスしてどうする、ということである。
「「「「「「…………」」」」」」
こうして、ハンター達全員にとっての、居心地の悪い時間が過ぎていった……。
* *
「……本当にいいのか、討伐報酬の分け前なしで? オーガ4頭は全部お前達が倒したのに……。
というか、俺達だけじゃあ、オーガ4頭は厳しかっただろう。良くて数人の重傷者、悪けりゃ死人を出すか、下手すりゃ全滅だってあり得たぞ。なのに、お前達の取り分がないというのは……」
「ハンターにとって、契約は絶対ですわよ」
相手の言葉を遮り、当初の取り決め通り、討伐報酬の全ては『冬の城』と『女神の勇者』に渡すと主張し、 退(ひ) かない『ワンダースリー』。
それを申し訳なく思っているらしき『冬の城』と『女神の勇者』であるが、そうすると『ワンダースリー』の稼ぎがゼロかというと、勿論、そんなことはない。
ちゃんと、『2パーティが持ち帰れるだけの素材を取った後、自分達も素材を剥ぎ取らせてもらう』という約束であったため、オークとオーガの素材の殆どは『ワンダースリー』のものとなったのである。
勿論、実際には現場で切り分けたわけではなく、『多分、この部位を、これくらい担いで帰れるであろう』との自己申告により、それに応じた金額を分配しただけなのであるが、オーク6頭とオーガ4頭のうち、男性7人、女性ふたりに、森から町までどれだけの量を担いで帰れるかというと……。
そう。実質、売却益の殆どは『ワンダースリー』のものとなったのである。
卑怯なほどの『濡れ手で粟』、丸儲けであった……。
* *
「では、アデルさん達が来られるまで、この町を拠点として様々な依頼を受け、『赤き誓い』の皆さんよりこの辺りの状況に詳しくなって、活動の主導権が取れるようにしますわよ!」
「「おおっ!!」」
こうして『ワンダースリー』は、着実に昇格のためのポイントを貯めてゆくのであった……。