軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

588 その頃…… 5

「……前方、オーク3頭。やるぞ!」

『冬の城』の前衛が小声でそう囁き、後ろの者にも伝わるよう、ハンドサインを送った。

そして、こくりと頷く者と、軽く手を挙げて了解の合図を返す者。

「打ち合わせ通り、魔術師組は遠距離攻撃と支援、『ワンダースリー』は魔術師組と同じ場所で見学。

その他は全員、魔法による先制攻撃と同時に突っ込む。いいな?」

リーダーの指示……というか、既に何度も打ち合わせたことの最終確認……に、こくりと頷くパーティメンバー達。

しつこいようではあるが、こういうのは、何度も念押しするものである。

それが、ミスや間違いを防ぐことに繋がる。

(リーダーの指示も皆さんの反応も、問題ありませんわね……)

マルセラの小声での呟きに、こくりと頷くモニカとオリアーナ。

チームワークや心構え等には、問題なさそうであった。

そして、戦闘能力は……。

「アイシクル・ジャベリン!」

「アイス・ニードル!」

素早い詠唱の後に魔法名が唱えられ、攻撃魔法が発動した。

ふたりの魔術師のうち、ひとりは支援魔法が専門ということであったが、攻撃魔法が全く使えないというわけではなかったらしく、無防備な状態の敵に対する初撃には参加するようであった。

攻撃が得意な方が、敵の数を減らすための強力な単体攻撃魔法。あまり得意ではない方が、命中精度を気にしなくて済み、威力は低いが敵全体の戦闘力を下げられる範囲攻撃魔法。

前衛の突入前に行う攻撃としては、最適の選択であろう。

そしてアイシクル・ジャベリンは一頭のオークの肩に刺さり、アイス・ニードルは3頭を中心に広く降りそそいだ。

「突撃!」

『冬の城』のリーダーの号令で、飛び出す前衛達。

アイス・ニードルは敵の眼を潰せれば大戦果であるが、そうでなくとも、相手を混乱させ戦意を低下させる役に立つ。

その混乱の中に飛び込み、アイシクル・ジャベリンで肩を貫かれたオークにふたり、その他の2頭に残り全員が襲い掛かり、滅多切り。

そして3頭のオークは地に沈んだ。

「充分強いじゃないですの! 話が違いますわよ!!」

何だか理不尽なクレームをつけるマルセラ。

「いや、俺達はCランクの上位だから強いと言っただろうが! それに、『女神の勇者』の前衛ふたり、魔術師ふたりが加わってるんだぞ、Bランクくらいの戦力になっとるわ!」

マルセラの理不尽な非難の言葉に、心外だとばかりに反論する『冬の城』のリーダー。『女神の勇者』のメンバー達は、それを聞いて苦笑している。

この合同チームが結成されて狩りに出た事情を知っているので、それも無理はない。

「苦戦するのは、普通のCランク以下で、特に魔術師がいないところだ。そして俺達はCランク上位だから、護衛しなきゃならないお前達がいなけりゃ俺達だけでも大丈夫だと言っただろうが……」

「うっ、た、確かにそう言っておられましたわね……」

ギルドでの遣り取りを思い出し、口籠もるマルセラ。

「……つっ、次行きますわよ、次!」

そして歩き始めた一同であるが、マルセラはふと気が付いて、後方にあるオーク3体をアイテムボックスに収納した。

他のパーティメンバー達は、今日はまだ狩りを続けるのでオークの肉を持っていくことはできないと考え放置するつもりのようであったが、せっかくの獲物を捨てるのは勿体ない。

貧乏男爵家……今は子爵家であるが……の三女であるマルセラは、貧乏性なのであった。

今後の活動のこともあり、別にアイテムボックスのことを隠すつもりはなかったが、『ワンダースリー』の前方を歩く2パーティは、マルセラが3頭のオークを収納したことには気付いていなかった。

* *

次は、『典型的な、普通のCランクパーティ』を模した戦いである。

『冬の城』の5人のみ。魔術師がいない、剣士や槍士、弓士兼短剣使い等の、物理職ばかりである。

「このメンバーだと、わざと手を抜いて中堅Cランクパーティ程度の力でやると、怪我をするからな。攻撃は本気でやらせてもらうから、そこから自分達で適当に強さを割り引いて評価してくれや」

「……分かりましたわ。それと、私達もいつでも魔法で支援できるようにしておきますし、治癒魔法にはいささか自信がありますので、安心していただいて結構でしてよ。

尤も、いくら治癒できるとはいえ、痛いのは嫌でしょうし、壊された防具や破れた衣服は修復できませんからね」

冗談半分でそう答えるマルセラであるが、事実、高価な防具を壊されたのでは、依頼の報酬と持ち帰れるだけの肉の売却益では、大赤字である。

「そんなヘマ、しねぇよ!」

そんなことを言いながら、獲物を求めて森を進む一行。

そして……。

「前方、オーク3!」

少し先行していた斥候役が戻ってきて、小声で、しかししっかりとした口調で報告した。

「……本当に、オークが3頭単位で行動していますのね……」

2度続いたため、マルセラもようやく『オークは巣の近くでなくとも3頭で行動する』という話を信じたようである。

「じゃあ、打ち合わせ通り、『女神の勇者』は『ワンダースリー』の護衛と、万一に備えて攻撃魔法をホールドしておいてくれ。単体攻撃魔法で、味方撃ちには気を付けてくれよ!」

「新米のFランクじゃあるまいし、そんなヘマするもんですか!

……攻撃魔法を撃った後に、アンタがノコノコと射線上に移動さえしなきゃね!」

ただ単に手順の念押しというルーティンをこなしただけであろうに、職業上の矜持を傷付けられたと思ったらしい『女神の勇者』の女性魔術師に噛み付かれた『冬の城』のリーダーを、少し気の毒に思う『ワンダースリー』の3人であった。

「……よし、行くぞ!」

別に気があるわけではないであろうが、女性に噛み付かれて少しヘコんだらしいリーダーが、気を取り直してそう指示を出した。

いくら勝算の高い戦いであっても、油断すれば死ぬ。

命懸けの戦いの前には、肉体だけでなく、精神状態も最高のコンディションを保つ必要があった。

なので、いくらヘコもうが、戦いの時には完全に頭を切り替える。

……彼らは、プロなのであるから……。

* *

「どうなっておりますの……」

驚きに、愕然として呟くマルセラ。

モニカとオリアーナも、固まっている。

戦いは、危なげなく『冬の城』の無傷での勝利となった。

しかし……。

「どうして、オークが連携行動をしますの!」

そう。普通であればそれぞれバラバラに戦うはずのオークが、互いの背を護り、連携しあって戦っていたのである。

人数が5人と、パーティとしてはやや多めであること。そしてCランクパーティの中でも上位のベテランであることから、危なげない勝利となった『冬の城』であるが、もしこれが3〜4人の人数が少な目のパーティであったなら。そしてCランク下位のパーティであったなら……。

戦いとしては勝利し、オーク達を全滅させたとしても、自分達のうちひとりでも怪我人が出れば大赤字である。そして怪我人はハンター引退、パーティは解散、とか……。

そんな依頼を、僅かな報酬で日常的に受けられるわけがない。

オークが3頭いる、というのと、 3頭一組(スリーオークセル) は、違う。全然違う。

ただ3頭が一緒にいるだけであれば、それは1頭のオークの戦力の3倍である。

しかし、その3頭が連携し、互いに死角をカバーし合い、協力して戦うのであれば、その脅威度は何倍にも跳ね上がる。

「数頭ずつ固まって行動し、バラバラに戦うのではなく連携して戦う……。

決してあの最終決戦で戦った敵、新種のような肉体的に優れた個体能力ではありませんけど、戦う相手としては、私達人間側の圧倒的優位であった部分をひっくり返されて、元々の肉体的な能力差での勝負となりますと……」

「クソやべえですわ!!」

オリアーナの言葉に、思わずハンター達が使う下品な悪態を口にしてしまったマルセラ。

貴族令嬢としてははしたないが、それだけ動揺してしまったのであろう。

「……でも、肉体的な攻撃力と防御力は、普通のオークと変わりませんよ。

ですから、遠距離からの魔法による先制攻撃と、それに続く一方的な魔法のつるべ撃ちが基本スタイルの私達には、大して影響ないのでは?」

「……そ、それもそうですわね……。一戦目も、『女神の勇者』の魔術師のおふたりの攻撃が普通に効いておりましたわね。おひとりは攻撃魔法が専門の方ではありませんのに……。

ということは……」

「「「問題、ないない!」」」