軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

585 その頃…… 2

「え、えええ、ええとですね……、それは、当ギルドの所掌外のこととなります。

それは、警備隊の管轄ですので……」

確かに、ハンターギルドは司法機関でも何でもない。

自らが施行する事項に関してはペナルティを科すことができるが、犯罪行為に関しては、指名手配犯の捕縛や討伐、現行犯逮捕くらいしかできず、有罪か無罪かの決定権などない。

「ただ、言葉による侮辱行為のみであるか、暴力を伴ったものであるか等、状況によりまして、色々あるかと……。

なお、一般論としましては、女性の身体に触れる、武器の柄に手を掛ける、魔法の詠唱を始める等の行為がありました場合は、既に自分から先に攻撃を開始していた場合を除きまして、ほぼ正当防衛が認められると思われます。

……ただ、無礼討ち、と申しますのは……」

そこで、口籠もる受付嬢。

平民には、『討たれる側』として以外では縁のない概念である。

そして、そんなことを聞いてくるということは……。

「分かりましたわ。そなたに感謝を!」

そして、一歩下がって、カーテシー。

殊更に『高貴なお方オーラ』を放出して、羽虫が寄って来ないようにしたマルセラ。

その目論見通りに、職員もハンター達も、ドン引きであった。

本来は、カーテシーは目上の者に対する礼であるが、まぁ、新人ハンターよりギルド職員の方が目上、と言えなくはないので、問題はない。

……そもそも、そういうレベルの話ではないが。

ギルド職員やハンター達を軽くあしらい、荒くれ共がいる場を自在にコントロールする胆力。

あの死線を潜り抜けた戦いで、『ワンダースリー』の3人にもかなりの度胸がついたようである。

これで、マルセラは確実に貴族の娘であると思われたであろう。

……事実、その通りなのであるが……。

そして他のふたりも、マルセラより爵位が低い貴族の娘か、もしくはお付きの侍女か、護衛メイドあたりかと……。

勿論、他にも隠れ護衛が付いているはずであり、ギルド職員や仲間のハンター達の中にも、雇われて護衛や情報提供を担当している者がいてもおかしくはない。

いや、そもそも、ギルドマスター自身に話が通されているという可能性も……。

これで、余計なちょっかいを出そうとする者がいるはずがなかった。

明日の朝、 川面(かわも) に浮かんでいたり、なぜか急にハンターギルドを除名になったりしたくなければ……。

そして、情報ボードに軽く目を通した後、依頼ボードをじっくりと眺める少女達。

「素材採取と、Cランク以下の魔物の討伐。代わり映えのしない依頼ばかりですわね……」

「王都が近いですからね。ランクの高い依頼や特殊なものは、王都へ回るのだと思います。

その方が、受け手の数や得意な分野がある者達の人数が多いですからね」

「なる程……」

オリアーナが言う通り、依頼内容とハンターには、相性というものがある。

それは、学生時代に特殊な依頼のみを受けて功績ポイントを荒稼ぎしていた『ワンダースリー』の3人には、よく分かることであった。

そういうわけで、変わった依頼を出すのであれば、この町のギルド支部ではなく、比較的近くにあり多くのハンターが所属している王都のギルド支部にすべきであるということは、このあたりでの常識であった。

そのため、王都近郊のこの街の依頼は、王都どころか王都から遥か遠くの街よりも『面白そうな依頼』が少ないのであった。

「まぁ、今日はこの街に着いたばかりですし、とりあえず宿を決めて、ゆっくり休みましょうか」

「「はい」」

そして、出来上がったチェーン付きのハンター登録証を受け取ると、ギルドから出て行く3人。

登録ランクは、勿論新人であるので、Fランクである。

「「「「「「…………」」」」」」

是非、自分達のパーティに欲しい。

しかし、下手をすると身の破滅になりそうな、ヤバい物件。

触るな危険(アンタッチャブル) 。

古竜のお宝を狙う(馬鹿で無謀な行為) 。

「「「「「「………………」」」」」」

そしてギルド職員もハンター達も、誰ひとりとして、声も出さなければ、身動きもしなかった。

マルセラ達の『虫除け』という思惑は完全にその目的を達していたが、これでは、他の面で色々と大変そうであった……。

* *

「どうやら、魔法の威力、精度、速度共に、違いはなさそうですわね……」

「はい。この大陸の魔法の精霊様は、私達の大陸を担当されております精霊様と魔法に関するパラメーターを統一されているのか、もしくは各地の精霊様達を束ねる上位精霊様がおられて、そのあたりを纏めておられるのか……」

「どちらにしても、今までと変わりなく使えるようで、よかったですね」

マルセラの言葉にそう答える、オリアーナとモニカ。

翌日は、ギルドに顔を出すことなく、近くの森で魔法の検証作業を行っていた『ワンダースリー』。

そして検証の結果、魔法の行使については旧大陸の時と変わりないようであった。

元々、旧大陸においても魔法は『その時に周りにいたナノマシン』によって発動するのである。

ナノマシンの個体差によってその都度魔法の発動に癖があっては問題であるため、個性には多様性が与えられているものの、魔法発動については、当然ながら均一化されている。(但し、思念波に反応して魔法の発動に参加するかどうかの、『感度』については、多様性が持たされている。そうでないと、魔術師の出力的な優劣というものがはっきりしない。)

「でも、そもそも、アデルさんが精霊様にお願いしてくださって、私達に専属の精霊様が付いてくださいました時と、魔術師としてのレベルを上げてくださいました時。その2回は、魔法の威力や精度、反応速度等が大幅に上がりましたからね。今更多少の変化があったところで、驚きませんわよ」

「「ですよね〜!」」

* *

「……あの、ちょっとよろしいかしら?」

「は、ははは、はいっ!」

依頼ボードの前で、自分達より少し年上である、10歳くらいからハンターをやっている、いわゆる『叩き上げ』らしき4人パーティに声を掛けた、マルセラ。

男3人、女性ひとりのパーティであり、これで問題なくやっているということは、同じ村出身の幼馴染みパーティなのであろうか……。

元々の仲良しグループでなければ、男3人に女性ひとりのパーティ、しかも女性がそこそこ可愛いとなれば、ほぼ確実に揉め事が起きる。

……いや、幼馴染みであれば揉め事が起きないというわけではないが、その確率が少し低くなるらしいのである。

以前、先輩の女性ハンターにそう教えられた、『ワンダースリー』の面々であった。

「な、何かな?」

(……?)

先程から少し観察していたので、リーダーらしいと思われる少年に声を掛けたマルセラであるが、そのあまりのビビりように、少し首を 傾(かし) げていた。

このパーティは、2日前に『ワンダースリー』がギルドに顔を出したときにはいなかったため、羽虫避けのためにマルセラが意図的に交わした受付嬢との会話は聞いていないはずである。

そう考えたマルセラであるが、勿論、一昨日と昨日の間に、所属ハンター達には『不幸な出来事を防ぐための、ギルドからのお知らせ』が通達してあったのである。

ギルドも、所属ハンターが無駄に死ぬのを看過するつもりはなかった。

なのでそのハンター達も『ワンダースリー』のこと……誇張されすぎた、ほぼデマの域……を知っていた。そのため、先程からマルセラ達の死線……、いや、視線が自分達に注がれていることを薄々感じてはいたが、そんなはずはない、と自分に言い聞かせて、決してマルセラ達と目が合わないようにしていたのである。

(なのに、なぜ……)

そう思いながらも、どこにいるか分からない隠れ護衛や実家からのお目付役の者達の御不興を買わないようにと、暑くもないのに汗をだらだらと流している、リーダーの少年。

そして、少年にマルセラが用件を告げた。

「私達と合同で、オークとオーガ狩りをしていただけないかしら?」

年上の者達に対して、いささか上から目線の言葉遣いであるが、これも羽虫避けのための演技だと割り切っているだけであり、内心では恥ずかしくてぷるぷるしているのである。

……しかし、それをおくびにも出さず、泰然とした態度を崩さないマルセラ。

『討伐』ではなく『狩り』と言っているのは、餌場として人里近くに住み着いたとか、増えすぎたため間引きが必要になった場合等を除いて、わざわざ報酬金を払ってオークやオーガの討伐を依頼するようなことはあまりないからである。

……それに、もしたまたまそういう依頼があったとしても、ハンター登録して数日のFランク、しかも未成年の小娘3人のパーティなど、たとえCランクの先輩ハンターと合同であろうが、受注できるわけがなかった。依頼内容に『Cランク以上』と書かれているであろうし、もし書かれていなかったとしても、受付嬢が絶対に排除するであろうから……。

たとえ文句を付けてゴネようが、その時にはギルドマスターが出てきて、ギルマス権限で却下される。

なので、通常依頼としての討伐任務は絶対に受けられない。

……しかし、牙や皮、肉、そして精力剤の材料となる睾丸等の素材納入であれば、問題ない。

たまたま出会い、襲われて返り討ちにした、とかいう場合もあるので、そういうのはOKなのである。

睾丸の納入だけに、たまたま……。

マルセラ達は、あくまでも超安全策のつもりで、道案内代わりにと地元ハンターの同行を求めただけであった。

あの地獄の最終決戦を生き延びた『ワンダースリー』である。今更、オークやオーガに後れを取るとは思っていなかった。

しかし……。

ガタ!

ガタガタガタガタガタッ!!

「「「「「「やめろおおおォ〜〜!!」」」」」」

ギルド中が、絶叫に包まれた。

受付カウンターのこちら側も、向こう側も……。

そして、自分達だけであればともかく、地元のハンターも一緒なのに、予想外に大きな反応に驚くマルセラ達。

……彼女達は、まだ知らなかった。

この大陸の魔物達が、旧大陸の魔物よりずっと頭が良く、手強い相手だということを……。