軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

582 約 定 5

結局、襲ってきた連中はマイルが似顔絵を描き、無作為に選んだ村人達数人に小声でその者達の名前を喋らせた。

『嘘の名前を言えば、他の者が言った名前と違うから、すぐに分かる。その場合、嘘を吐いた者も共犯者として同じ罰を受けることになる』と説明してやると、全員の証言が一致した。嘘吐きはひとりもいなかったようである。

やはり、村のために勇気を出して実力行使に出た仲間達よりも、自分の身が可愛いようであった。

おそらく村人達は、逃げることはないであろう。

土地を捨てて逃げた農民の末路など、知れている。

そして村人達は、甘く考えているであろう。

自分達を捕らえても、誰も得をする者はいない、と。

領主様は領民が減って、農作物の収穫量、つまり税収が落ちるだけ。

ハンターギルドは、依頼を出す者が減るだけ。

この新米ハンターの小娘達は、村をひとつ潰した疫病神という悪評が付きまとうこととなる。

自分達は、ずっと真面目に働いてきた。

領民である村人達全員の証言が一致したなら、新米ハンター数人の証言など、どうとでもなる。

この場さえ 凌(しの) げれば。

街の警吏が介入し、この連中が言い掛かりをつけてきて、依頼を果たさずに村を脅して金品を要求したことにすれば。

そのような、甘いことを考えていた。

所詮は、自分達に都合良く考える、村の常識しか知らない世間知らずの集団であった……。

そしてマイル達は、村長一味や他の村人達をそのまま放置して、海辺の街へと帰還した。

ここから村長一味を連れて街まで移動するのは面倒だし、村人が土地を捨てて逃亡しても、まともに生きて行く 術(すべ) はない。

なので、自分達を捕らえることもなく立ち去った新米の小娘ハンター達はやはり甘ちゃんだったと侮り、あの言葉はただの脅しだったとでも考えるであろうと読み、そのままにしたのである。

村人達をどうするかは、自分達が決めることではない。

それは、そうすべき者達に任せればよい、と考えて……。

* *

「ええっ! 村からの依頼が、虚偽だった?」

マイル達からの報告に、驚きの声を上げる、ハンターギルドの受付嬢。

それを聞いたギルド職員やハンター達の顔が 険(けわ) しくなった。

「はい。村を襲ったという魔物も野獣も存在しませんでした。

それらは、村長とその一派による自演。そしてハンターを騙し、古竜が仲介した約定を破り『入らずの森』の禁忌を破らせようと……。そこに古竜が現れて……」

「「「「「「……待て! 待て待て待て待て待て待て待て待て待てええぇっっ!!」」」」」」

ギルド中で、叫び声が上がった。

「ままま、待って! 待ってくださいっっ!!

ハンターギルド職員権限により、ここでそれ以上喋ることを禁止しますっ!

に、二階へ! 二階の会議室へ来てくださいっ!

幹部は、会議室に緊急集合! 誰か、商業ギルドへ走って、来月の商隊護衛計画の調整に行っているギルマスを連れ帰って! 最優先事項ですっっ!!

ここにいる全職員とハンター達には、今の話の口外禁止!

情報が解禁される前に漏らした者は、職員は懲戒解雇、ハンターはハンター資格の永久剥奪ですっっ!!」

広がる静寂。

蒼褪める、職員とハンター達。

もし情報を漏らして国中を大混乱に陥れた場合、ハンターギルドとしての処罰はそれで済むかもしれないが、領主からの処罰、……そして国からの処罰となると、斬首刑か絞首刑でもおかしくはないであろう。

そしておそらく、自分だけではなく、自分がその話をして拡散の引き金となった身近な人々や、家族、親類縁者等も巻き込んで……。

「何してるの! さっさとギルマスを呼びに行きなさいっ!!」

そして、はっとした顔の若手職員が、慌ててドアから飛び出していった。

* *

「「「「「「…………」」」」」」

会議室に広がる、静寂。

マイル達は、起きたことを全て、正確に伝えた。

これは、温情だとか村人を庇うだとかいう問題ではない。

ハンターとして、受けた依頼の遂行結果や、ギルドに 仇為(あだな) す者達の存在を通報するのは、絶対の義務である。安っぽい同情心如きで破っても良いような規則ではなかった。

もし後で隠蔽が露見すれば、自分達が処罰される。それも、かなり厳しい処罰が……。

しかし、さすがにマイル達も、村人達全員を処罰させて、村を崩壊させようなどとは考えていなかった。

村には、反対派の人達もいたのである。

あれは、村長一派とその賛成者、つまり一部の者達の暴走であったのだろう。

なので、首謀者達に責を負わせれば、こうなった以上は再び同じようなことを企む者が現れるとは考えづらい。

……少なくとも、今回のことが伝承に付け加えられれば、今後数百年くらいは……。

なので、村人の大半は事件には無関係、というか、村長一派には反対していたと、少し過大に伝えていた。

本当は、村長一派が幅を利かせていたということ自体が、消極的ながらも、あの村の過半数がそれに賛同、もしくは黙認していたということなのであろうが……。

一応、自白させたことを書面にして、村長にサインさせている。

村長達は、こんなものは『脅されて、無理矢理書かされた』と言えば済む、と安易に考えて、あまり抵抗することなく書いたのであるが、勿論、これがあるとないとでは大違いである。

「そういうわけで、一応、一件落着で、古竜との話も付いています。

あ、もし今後この件で古竜と何かあった場合には、ザルムって人……古竜を呼んでもらって、私の名を出してもらえば、何とかなると思いますので……」

ぶふぉ!

ギルドマスターが、動揺を抑えようとして飲みかけていたお茶を、盛大に吹いた。

……まともに、レーナの上半身に向けて……。

わなわなと震えるレーナであるが、ギルドマスターには責はない。

それが分かっているため、ただ震えるのみで、必死に自制しているレーナ。

そして、いくら不可抗力とは言え、すぐにレーナに謝罪すべきであったが、ギルドマスターはそれどころではなかった。

「な、名乗ったのか!」

「あ、はい。初対面の人……古竜には、名乗るのが礼儀かと思いまして……」

「お前と違うわっ! こ、古竜だ、古竜様が名乗ったのか!」

「は、はい……」

ギルドマスターが驚くのも、無理はない。

普通、小枝でアリンコを 突(つつ) いて遊ぶ人間は、アリンコに対して名乗ったりはしない。

そしてそれと同じように、古竜が人間如きに名乗るようなことはない。

「「「「「「…………」」」」」」

会議室は、静寂が広がったままである。

マイルとギルドマスター以外の者は、呼吸音以外は何も発していない。

「……で、古竜様がお前の名前を覚えていると?」

「はい、ほぼ確実に……」

「「「「「「………………」」」」」」

ない。

そんなことは、あり得ない。

もし、あるとすれば……。

「あ!」

ギルドマスターは、つい最近他国の船乗りから聞いた噂話のことを思い出した。

その内容はあまりにも馬鹿げていたため、鼻で笑って、そのまま忘れていたのであるが……。

「ひい、ふう、みい、よぉ、……4人いるな……」

そして、船乗りから聞いた、噂話。

ギルドマスターは、その話のタイトルを、無意識のうちに呟いていた。

「……竜巫女、四姉妹……」