軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

581 約 定 4

「お、お 願(ねげ) ぇでごぜえますだ!!」

村長が、そう言って土下座をしてくるが……。

「さすがに、知らなかったことにはできませんよねぇ……。

古竜が絡むこんな重大事件を揉み消して、もし後で露見すれば打ち首モノですし、こんなことをしでかしておきながらお咎めなしとかにすると、このあたりの村々に『どんな悪事を働いても、土下座すればチャラになる』とか、『ハンターギルドを騙しても、謝ればお咎めなしになる』とかいう話が広まって、とんでもないことになりますからねぇ……。

秘密は絶対に漏れますし、子供達は村の武勇伝みたいにあちこちで自慢話をして回りますし、そもそも、子供達が将来同じことを繰り返しますからね、ここで甘い顔を見せると……。

それに、約定のことと古竜のことは、報告して街の記録に残しておかなきゃ駄目ですし、私達には今回の依頼に関する 顛末(てんまつ) をギルドに正確に報告する義務があります。これはハンターとしての、絶対に守らなきゃならない義務なんですよ。

ですから、ギルドにはきちんと本当のことを報告しなきゃいけませんので……」

そして、マイルに続いて、ポーリンが追加説明を行った。

「これが『森の魔物を退治してくれ』という依頼であれば問題なかったのですが、居もしない『村の家畜を襲うものの討伐』という依頼となると、存在しないものを餌にして虚偽の依頼でハンターギルドを騙し、所属ハンターを想定外の魔物と戦わせるという危険に晒したということですから……」

ポーリンの言葉に、ごくりと生唾を呑む村人達。

「それって、どういうことになるのかな?」

メーヴィスの問いに、にやりと不気味な嗤いを浮かべて答えるポーリン。

勿論、この大陸に来てハンター登録した時にそのあたりは説明されているので、メーヴィスもそれくらいのことは知っている。

これはただ、村人達に聞かせるための手続き的なものである。

「虚偽の依頼により、故意にハンターの命を危険に晒した場合。……第一級ハンターギルド敵対行為と認定されて、大陸中の全ギルド……ハンターギルドだけでなく、傭兵ギルド、商業ギルド、職人ギルド、海運ギルド、医療ギルド、その他あらゆるギルドが犯人達と敵対関係となります。

普段はいがみ合っているギルド同士であっても、『ギルド』という組織、制度そのものに喧嘩を売る者が現れた場合、それは『全てのギルドの敵』として扱われるのです。ギルドというものの権威を守り、真似をする馬鹿が現れないように……。

もしこの村が『ギルド』という組織、仕組み、体制に対する敵対者だと認定されれば、もうこの村にはハンターも、行商人も、巡回の医師や薬師も、薬草売りも、流しの刃物研ぎ、 鋳掛(いか) け屋、その他諸々が来ることは二度とありません。

港町に農作物や狩った魔物の肉とかを運んでも、ギルド関係者は誰も買わないし、宿屋も泊めてくれないでしょうね。

……ギルドを敵に回すということは、そういうことなのですよ……」

「「「「「「…………」」」」」」

蒼白の、村人達。

「……儂らは、依頼主じゃぞ! お前達は儂らに雇われている立場じゃ! なので、儂らの指示通りに動くべきじゃろう!

狼を退治しなかったということは、契約違反じゃ! このことをギルドに訴え出て、古竜が出たとかいう荒唐無稽な言い訳をして村を脅し大金をせびろうとして、儂らがそれを断ったら、わけの分からないことを言い出した、と申告するぞ!

新米ハンター4人と、村長以下、村人全員の証言。果たして、ギルドがどちらを信用するかな?

素直にこのまま引き下がるなら、依頼完了報告書にサインしてやろう。

依頼達成ということで、何もせずに当初の予定通りの報酬が貰え、依頼完遂の実績となるのであるから、悪い話ではなかろう!」

「あ〜、まだそんなことを言うんだ……」

「往生際が悪いわね……」

村長の悪あがきに、呆れた様子のメーヴィスとレーナ。

そして……。

「はい、私達は依頼を受けたハンターですから、勿論、依頼書の通りの仕事をしますよ。当然のことです!」

そう言って、にっこりと微笑むマイルと、それを聞いて、同じく微笑むレーナ達。

「そして依頼内容は『家畜を襲うものの討伐』ですから、家畜を傷付け、殺していた者、つまり村長さん一味の討伐、ってことですよね?」

「……え? えええ?」

「「「「えええええええええ~~っっ!!」」」」

マイルの、あまりにもあんまりな解釈に、呆然とする村人達。

そして……。

ざっ……。

魔物の 暴走(スタンピード) だと思って、広場に集まっていた男達の多くは武器となる鍬や鎌を手にしていた。

その男達が、その武器代わりの農具を握り締めたまま、怖い顔をしてマイル達を取り囲んだ。

そして……。

「仕方ない。では、ここで死んでもらうしかないのぅ。

若い女ばかりの実力不足のハンターが、身の程を弁えぬ難度の依頼を受けて失敗し、森から戻ってこなかった。ただ、それだけのことじゃ……。

さすがに、古竜様の御機嫌を損なうわけにはいかぬから、森への手出しはできぬが、お前達がいなくなっても古竜様にはそのことは分からぬし、人間のことなどそう気にされることもないじゃろう。どこかで仕事に失敗して死んだ、ということで済むじゃろうて……」

((((あ〜〜……))))

今回、村人達は『赤き誓い』の戦いを見ていない。

ただ森へ行き、狼達と一緒に戻ってきただけである。

……つまり、狼達と、たまたま森の者達の様子を見にきていた古竜達と出会い、話をして、一緒に戻ってきただけ。

そこに戦闘はなかったし、『赤き誓い』の実力を示すエピソードもない。

ただ、運が良かった小娘達が、温厚で話が分かる古竜に出会って、トントン拍子に話が進んだだけ。

……ならば、これだけの人数差であれば。

しかも、日々の農作業や木々の伐採、水汲み、狩猟等で筋骨逞しい村人達であれば、碌に筋肉も付いていない小娘ハンターなど、一捻り。

そう考えるのも、仕方ないと言えば、仕方なかった。

「……殺さないように。怪我は良し!」

マイルとポーリンがいれば、骨折や、内臓が少々イってしまっても、問題ない。

自分達を殺そうとした相手など、多少痛い目に遭わせてやっても問題ない。殺さないだけで、充分感謝してもらいたいものである。……怪我も、後で治癒魔法で治してやるのだから。

「「「了解!」」」

そして、レーナの指示に、元気に答える3人。

「…… 殺(や) れ!」

そして、村長の命令で、村人達が襲い掛かった。

* *

「まぁ、当然、こうなるんですけどね……」

そう呟くマイルの前に広がる、地獄絵図。

骨折やら打撲やらで、広場に転がる村の大人達。

勿論、全員ではなく、『赤き誓い』に襲い掛かってきた十数人だけである。

「コイツらは、町に連れて帰る? 全員の顔なんて覚えきれないから、このまま放置して街に戻ったら、村人の間に交じっちゃって、後で私達を自分の手で殺そうとした者が誰だったか分からなくなっちゃうわよね。

そうなったら、村の者全員が『殺人未遂犯の一味』として裁かれることになっちゃうから、この襲撃に関わらなかった人達が気の毒かなぁ、という気がしないでもないし……」

レーナの言葉に、慌ててこくこくと頷く、他の村人達。

……どうやら、実力行使に出た仲間達より、自分の身の方が大事なようである。

農民というものは、 小狡(こずる) く立ち回り、他者を利用してしぶとく生き延びるものである。

そう、雑草のように……。