軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

571 塩漬けの依頼 4

いつまでも考えていても、仕方ない。

マイル達は、研究者ではなく、ハンターなのである。

依頼を受け、それを遂行する。

それが、犯罪行為やハンターギルドの規約に違反することではなく、自分達や依頼者、その他のヒト種や知的生物に被害が及ばず、そして依頼者が嘘を吐いたりハンターに悪意を抱いていたり、重要な事項を隠していたり、その他の『互いの信頼関係を 損(そこ) なうような行為』をしていない限り。

そして……。

「狼系のが出ないわよ!」

そう、今回は素材目当ての常時依頼ではない。

確かに魔物ではない動物系の獲物が狩れるのは美味しいが、依頼対象である狼系のを討伐しない限り依頼は未達成、……つまり『依頼失敗』である。

「マイル、やりなさい!」

遂に、レーナから禁断の指示が下った。

……そう、マイルによる探索魔法の使用命令である。

これは、『赤き誓い』がマイルの能力におんぶに抱っこ、というわけではない。

今回は、マイルの能力に頼らなければ依頼任務失敗、と判断しただけである。

もしマイルがいなければ。

もしマイルが普通のハンターであれば。

……この依頼は、無理ゲー。

つまり、『マイルの能力なしではクリア不能』と、降参したわけである。

レーナにとっては敗北宣言に等しく、悔しくないわけではないが、自分の意地や矜持よりもパーティとしての任務完遂を優先した。……それと、困っている村人を助けることを。

昔の、ソロで活動していた頃のレーナであれば、決してしない選択であった。

いや、ソロならば、そもそもこのような無理筋の依頼を受けることなどあり得ないが……。

なのでこれから先は、『ひとりのハンターとして。そしてひとりのパーティメンバーとして、己の本分を尽くす』のではなく、『御使い様と愉快な仲間達』としての活動である。

……非常に不本意ながら……。

「ハイハイサー!」

そして、探索魔法を発振させるマイル。

あの、光の棒が360度くるくると回る、レーダー画面みたいなやつ(PPIスコープ方式)ではなく、マイルを中心としてぽわわ~んと円が広がっていく、ソーナーみたいな感じのやつである。

……実際には、音ではなくナノマシンが全周に飛んで行き、情報を持ち帰ってマイルの視覚神経に直接映像信号を流すことにより情報を伝えるのであるが……。

この点においては、マイルの探索魔法を見て独自の探索魔法を編み出した『ワンダースリー』と、独自の至近距離全周空間情報把握魔法『メーヴィス・ 円環結界(リング) 』を考案したメーヴィスの方が、魔法センスというか新規魔法の考案・開発能力というか、そういう面での才能が遥かに優れていた。

……現代地球の知識により圧倒的に有利であるはずのマイル、面目丸潰れである。

まぁ、とにかくそういうわけで、探知波……大量のナノマシン……を全周に、発振というか放射というか、とにかくバラ撒いたマイル。

今までに狼系は動物種も魔物も色々と狩っているため、識別は可能である。

さすがに野犬とかとの判別は難しいが、狐や狸、コボルト等と間違えるようなことはない。

そして……。

「狼系1頭、急速接近中……。 反射波(エコー) の大きさから判断して、成獣!」

「迎撃用意! 余裕があれば平打ち、ホット、拘束!」

「「「了解!」」」

マイルの報告に、レーナからの指示が飛ぶ。そしてそれに応える3人。

今更、誰への指示かを示さねばならないような仲ではない。

平打ちは、剣の腹の部分で殴ることである。骨折くらいはするかもしれないが、一応、生け捕りを目的とした攻撃方法であった。

ホットは、言わずと知れた、ホット魔法。拘束は、そのまま、バインド系の魔法である。

……考えてみると、レーナは生け捕りに適した攻撃方法を持っていない。炎系もアイス系も、相手を燃やしたり貫いたりするやつばかりである。

人間相手であれば、死なせないように怪我をさせることもそう難しくはないが、野生動物や魔物相手には、加減が難しい。下手に手加減すると、 怯(ひる) むことなくそのまま飛び掛かられて首筋に、とか、普通にある。

……まぁ、レーナがそんな 下手(ヘタ) を打つとは思えないが……。

* *

瞬殺であった。(殺していない。)

無駄に痛い目に遭わせるのは可哀想だと思ったのか、物理的な骨折粉砕系のメーヴィスと、鼻の利く狼系のものにはかなりキツいであろうホット魔法は自粛して、マイルの 拘束(バインド) 系魔法に任せた、メーヴィスとポーリン。

そして地面に転がる、1頭の狼。

うるさく吠えるものだから、口も拘束して吠えられないようにしてある。

「……で、生け捕りにして、どうするのですか?」

「…………」

ポーリンの問いに、黙り込むレーナ。

「レーナ、まさか、何も考えずに……」

「う、うるさいわね! 村長達の話がどうも胡散臭いから、安易に連中を信じて討伐するのはどうかと思ったのよ!」

メーヴィスにそう答えるレーナ。

他の魔物や動物は平気で狩ったのに、なぜこの狼だけそんなに特別扱いなのか……。

「……まぁ、1頭だけでしたからこっちには余裕がありましたし、何だか私達を襲おうとしていたようには見えなかったですからね、殺気とかが感じられませんでしたから……。

それに、いくら私達が全員女性で、しかもその内の半数からは鉄の臭いがしないとはいえ、たった1頭で4人の人間に真正面から襲い掛かるとは思えません。

そもそも、狼系は群れで狩りをしますから、獲物を見つけたら群れに知らせてみんなで、というのが普通でしょう? 1頭だけで襲うなんて、不自然ですよ」

「う~ん、確かに……」

「それで、殺さずに捕獲したわけですね。さすが、レーナです!」

「そういうことよ!」

マイルの 説明(フォロー) に納得したらしいメーヴィスとポーリンに、鼻をぴくぴくさせて自慢そうな顔のレーナ。

そして……。

「……で、生け捕りにして、どうするのですか?」

「…………」

再びポーリンの質問が繰り返され、黙り込むレーナ。

捕らえてはみたものの、尋問できるわけでなし……。

拘束魔法(バインド) で縛られて地面に転がっているものの、どうやら殺される様子はないようだと思ったのか、暴れることなく、きゅ~ん、というようなつぶらな瞳で見詰めてくる狼。

……どうやら、コイツは魔物ではなく、普通の動物種の狼らしい。

狼系には、魔物……大昔に異世界からやって来た、家畜や人間も襲う獰猛なヤツ……と、元々この世界にいた『動物』に分類されるやつ……家畜や人間も襲う獰猛なヤツ……がいるが、どっちも、大して変わらない。

一応、 暗黒狼(ダークウルフ) は魔物、 草原狼(ステッペンウルフ) は動物だと言われているが、 森林狼(フォレストウルフ) はどちらになるのか、学者の意見も統一されていないらしいし、それらの混血による中間種が群れとして固定してしまい、もうワケが分からなくなっているのであった。