軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

564 収納魔法

「うぬぬぬぬ……」

「ぐぬぬぬぬ……」

翌日、港町の近くにある初心者ハンター御用達の森の中で、かなり苦戦している様子のレーナとポーリン。

以前マイルが収納魔法を教えた時には、ポーリンが一応亜空間を形成することには成功したものの、その容量は僅かであり、そしてごく短時間しか保持できなかった。

レーナに至っては、亜空間を形成することすらできなかったのである。

なので、レーナはまず亜空間の形成を。そしてポーリンは形成した亜空間に小石を入れて、もっと長時間に亘り安定して保持できるよう、マイルがポーリンの気を散らせるべく話し掛けたり、難しい問題を解かせたり、くすぐったりしている。

……だが、なかなか成果は上がっていなかった。

しかし、収納魔法の有無は、ハンターとしての活動には 途轍(とてつ) もないメリットがある。

そして勿論、商人にとっても……。

なので、少々のことで諦められるようなものではない。レーナとポーリンが、顔を真っ赤にして 唸(うな) り続けるのも無理はないだろう。

おそらく、収納魔法が使えるようになるまで、何日でも続けるつもりに違いない……。

「大変そうだけど、ふたりとも、頑張れ!」

そして、ひとり部外者のような顔をしている、メーヴィス。

メーヴィスは魔法が使えないということになっているため、収納魔法の訓練には参加していない。

魔法の天才であるレーナと、収納魔法を身に付けられるなら悪魔に魂を売っても構わないと、鬼気迫る表情でそう断言したポーリンでさえ、あれだけ苦戦しているのである。魔法を使えないメーヴィスが、自分の出番ではない、と考えるのも当然であった。

「収納魔法か……。あると便利だよねぇ……。

私達剣士は、魔術師と違って武器や防具が重くて嵩張るし、荷物になるからねぇ……。

飲み水の消費量も多いし、そこに更に他の装備品や獲物を担ぐとなると、大変なんだよねぇ……。

みんなと一緒の時には水の心配はないけれど、万一の場合に『水は持っていません』ってわけには行かないし……。

魔術師より多少体力があっても、そんなの 相殺(そうさい) されて、更にマイナスだよ……」

魔術師組に対して、マイルの指導による恩恵が少ないメーヴィス、少しやさぐれ気味である。

「せめて、予備の剣とかが収納できればなぁ。マイルのフカシ話に出てくるやつみたいに……。

こう、…… 左腕(からだ) は 機械(てつ) でできている……」

そして、何気なく腰に佩いた剣を抜き、すっと虚空に突き出すメーヴィス。

するん……

剣が消えた。虚空に、吸い込まれるように……。

「……え?」

大切な愛剣が、消えた……。

大事(おおごと) である。

「あわわわわ! 剣! 剣、戻ってきてええぇ~~!!」

しゅるん

……戻ってきた。

「…………」

再び姿を現した愛剣を握り、呆然とするメーヴィス。

そして……。

「「「……」」」

「「「…………」」」

「「「………………」」」

「「「何じゃ、そりゃあああああ~~!!」」」

レーナ、ポーリン、マイル、絶叫。

まさかの、メーヴィス、収納魔法の 会得(えとく) であった……。

* *

その後の検証作業により、メーヴィスが完全に収納魔法を会得しており、全く意識していなくても亜空間が保持されることが確認された。

……そう、別のことを考えていようが、眠ろうが、収納魔法が維持され続けたのである。

容量も、かなり多い。

(……確かに、メーヴィスさんには魔法の才能がありました。

オースティン一族の遺伝特性として、体外に魔法を放出することはできませんでしたけど、身体強化魔法や、剣を補助具にすることによるウィンド・エッジの会得。そして自分で考え出した、他者に対する口移し治癒、 余(ヨ) が 炎の化身である(ファイヤー) 、メーヴィス 円環結界(リング) 等、柔軟な思考力、強い信念と精神力を示していました。

それに、私が話した日本フカシ話から、名剣、神剣等に対する憧れと想像力により アレ(・・) の存在を強くイメージし、そしてそれが『ある』と信じ込んだ……。

……そう、『 固有結界(無限の剣製) 』の存在を……。

メーヴィスさんは、特殊な処置をした 媒体(愛剣) がないと体外に魔法を放出……ナノマシンに指示するための精神波を発振……することができないけれど、亜空間を開くのは、別に周囲にいるたくさんのナノマシンによる大威力の魔法行使が必要だというわけじゃない。体内にある僅かなナノマシンだけでも充分可能なんだ……。

攻撃魔法とは違い、収納魔法は威力ではなく、イメージと『信じる心』が重要だったのか……。

あ、それに、今のメーヴィスさんには剣2本の整備担当ナノマシンさんと、左腕担当のナノマシンさんがいる。専属ナノマシンさんなら、メーヴィスさんの思念をより正確に、より長時間に亘って反映させられるのかも……)

マイルが考え込んでいる隣では、レーナとポーリンが、真っ白に燃え尽きていた……。

それも無理はないであろう。

実力に自信がある自分達になかなか会得できない収納魔法を、剣士であり、しかも魔法が使えないはずのメーヴィスが、何の努力もなく、あっさりと会得した。

……それは、信じられない、いや、信じたくない悪夢であろう……。

「レーナさん? ポーリンさん?

……駄目です、ただの 屍(しかばね) のようだ……」

「……あの、その、……何か、ごめん……」

* *

さすがに、マイルのような なんちゃって収納魔法(アイテムボックス) ではないため、容量無限とか、内部の時間停止機能とかはない。ただの、普通の収納魔法である。

容量は、おそらく6畳間程度であろう……。

「充分よっ!」

「ふざけんなっ!!」

ようやく再起動したレーナとポーリンが、それを聞いて、半泣きで怒鳴りつけた。

「……いや、ごめん。本っっっ当に、ごめん!」

「謝るなッ! 私達が余計 惨(みじ) めになるでしょうがっっ!」

確かに、その通りであろう。

困ったような顔で、マイルに助けを求めるメーヴィス。

……しかし、表情は困り顔であるが、その眼は、喜びに輝いていた。

これで、水や食料、野営道具、予備の武器防具、そして狩った獲物を大量に運べる。

将来、『赤き誓い』が解散した後も、領主としての仕事の合間にソロで、そして時たまどこかのパーティに臨時加入させてもらって、寝具や料理道具や食材等をたくさん持ち運べる『楽ちんハンター』として活動できる。

また、領主としても、災害発生時とかには馬車が通れないところにも大量の支援物資を運ぶことができ、多くの人々の役に立てる。

「くふ。くふふふふ……」

思わず喜びの声が漏れるのも、仕方あるまい。

……仕方ないのであるが……。

「「………………」」

レーナとポーリンが、その背後で、悪鬼のような形相でメーヴィスを睨み付けているのであった……。