軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

554 港 町 5

「じゃ、次は魔物の方ね」

「ああ。常時依頼を受けて、角ウサギからオーク、オーガあたりまで、一通り狩ろうか」

「そうですね。確認作業ですから、今回はノルマに縛られない常時依頼で行きましょう」

「賛成です!」

レーナとメーヴィスの提案に賛成する、ポーリンとマイル。

下手に通常依頼……依頼票による、個人的な依頼……を受けると、行動が制約される。依頼失敗にならないように、その獲物を探さなくてはならないので……。

それに対して、定番の薬草や食肉とかの、いつでもギルドに定価で買い取ってもらえる常時依頼だと、ノルマとかは関係ないため、行動が縛られることがない。依頼失敗による違約金の発生とかもないので、安心である。

ギルドマスターも、先程の模擬戦で『赤き誓い』がCランク上位相当の実力であることを確認しているため、はぐれオーガ程度に不覚を取るような連中ではあるまいと考え、特に口を挟むようなこともなかった。

「じゃあ、今日はこれで帰るわよ。もう、用事はないわよね?」

「あ、ああ……。そろそろギルド証も出来ているだろう。

その『魔物の強さの確認』を終えないと、お前達のこれからの方針も立てられないだろうから、とりあえずは好きにやってくれ。

……但し、無理はするなよ! お前達が考えているよりも、このあたりの魔物は強いかもしれんのだ。確認を終えて、このあたりの魔物との戦いに慣れるまでは、安全策で行け。絶対に無理はするな、魔物を舐めてかかるな、いいな!」

しつこく念押しされたが、それはギルドマスターが『赤き誓い』、新人ハンターを心配してのことであり、別に不愉快に思うようなことではない。逆に、 口煩(くちうるさ) い老害だと煙たがられることを承知でそう忠告してくれるということは、ありがたいことである。

そのあたりをちゃんと理解している『赤き誓い』は、感謝の言葉を返し、ぺこりと頭を下げた。

この連中は、気が強くて目上の者にもずけずけとものを言う、あまり礼儀のなっていない若者達。

そう思っていたギルドマスターは、少し驚いたようであった。

そして、『赤き誓い』が退出した後、受付嬢にそう言ったところ……。

「何言ってるんですか、ギルマス……。あの子達4人共、かなりの礼儀作法を身に着けていますよ。

姿勢、動作、物腰、受け答えの時の頭の回転の速さ、知識と教養……。ギルマスに対する態度が少しキツかったのは、ギルマスの最初のしでかしのせいと、今まで外見と年齢のせいで舐められることが多かったために強い態度でハッタリを利かせる必要があったからでしょう。

基本的に、礼儀やマナー、会話術とかはかなりしっかりと身に着けておられますよ、皆さん……。

体幹もしっかりしていましたし、貴族のお屋敷に招かれてもあまり恥を掻くことがないくらいの所作はできるんじゃないかと思いますよ……」

「えええええ!」

ギルドマスターが驚きの声をあげたが、別に不思議なことではなかった。

貴族の娘であるメーヴィスとマイルは勿論であるが、ポーリンも商会主の娘としてそれなりの教育や躾は受けていたし、そもそも4人共、半年間を女伯爵として過ごしているのである。

そこには、当然のことながら、『貴族として恥ずかしくない教養と作法を身に着けるように』と王宮から派遣されてきた 家庭教師(ガヴァネス) やら特別講師やらにみっちりと 扱(しご) かれるという、地獄の時間が含まれていた。……かなりの時間に亘って……。

元々そういう教育を受けていたメーヴィスと、8歳までしか受けていないものの体力とバランス感覚が優れている上に理解力と記憶力も良いマイルは、それ程の苦労はしなかった。

しかし、独学で雑多な知識はあるものの、まともな教育は受けていないレーナと、体力がなく運動神経が千切れているポーリンは、かなり苦労したようである。淑女としての所作とか、ダンスの特訓とかで……。

そう、彼女達をパーティーに呼ぼうとする者が多く、そしてダンスに誘おうとする者も多いことは明白であったし、そもそも国王が王宮でのパーティーに呼び王子や上級貴族の息子と、と考えている以上、とにかく4人をダンスが踊れるようにすることが急務だったからである。

……とにかく、そういうわけで、今の4人はそこそこの礼儀作法はこなせるのであった。

しかし、それを見切るとは、なかなか優秀な受付嬢であった。

* *

「ほほぅ、これがハンター証……」

窓口で受け取ったハンター証を、光にかざしたり裏返したりして、じっくりと眺めているマイル。

初めてハンター証を受け取った新人は、だいたい同じようなことをするため、他のハンター達はそれを微笑ましく眺めていた。

それも、おかしなことではない。

いくら先程その強さを見せつけられたとはいえ、あくまでもマイルは未成年の子供であり、可愛い後輩、新人ハンターなのだから……。

ハンター証は、旧大陸と同じく、チェーンで首に掛けるようになっていた。

こういうところも、長年に亘り皆の要望を取り入れて改良していった結果、似たようなものになったのであろう。

……但し、旧大陸とは違い、その形状は丸く、円盤状というか、コイン状というか、薄いメダルのようなものであった。

四角いよりはこの方が、角の部分が身体に当たって痛いということがないので、論理的であった。

そして、後はオークの代金の受け取りであるが……。

「ほいよ、査定額はこんだけだ。

鮮度が落ちていないこと、綺麗に一撃で首を落としてあるからぐちゃぐちゃになって使えない部分がないことはプラス評価、血抜きや解体がこっちの仕事になることはマイナス、それに登録後の初換金ということで、御祝儀として少しイロを付けてやった。不服はあるか?」

「「「「ありません!」」」」

金額としては、まだここの相場や貨幣価値がよく分からないため、判断のしようがない。

しかし、今の説明から、おかしな真似をされているという可能性はないと判断した、『赤き誓い』。

そもそも、この買い取り担当のおじさんも先程の模擬戦を見ていたし、ギルドマスターが特別扱いしているパーティに、そんなことをするはずがなかった。

いや、それ以前の問題として、超特大容量の収納持ちを怒らせるような真似をする馬鹿に、買い取り担当が務まるはずがなかった。

ハンターギルドの買い取り担当者は、豊富な知識、素材の目利き、あらゆる買い取り品の現在の相場価格把握、買い取り価格に文句を付けるハンターを納得させられるだけの説明能力、そして買い取り価格をもっと上げるようにとの脅しを物ともしない胆力、その他諸々の能力を要求される、専門職である。

だいたい、怪我か何かで早期引退したBランクハンターとかが10年くらい解体場で働いてから就くような配置であり、解体場長やギルドマスターですら一目置くような者が多いのである。

そして受け取った硬貨を収納に入れたマイルは、そのまま引き上げることなく買い取り担当のおじさんに質問を返した。

「……あのぉ、あのオーク、何かおかしなところはなかったですか?」

「え? いや、まだ解体はやっていないだろうが、解体場の奴らも、首の切断部分や大きさ、肉付きとかを確認した時点では、何も言っていなかったが? 俺が付けた査定額にも、そんなもんだな、って同意してくれていたが……」

つまりそれは、このあたりのオークと変わらない、ということであった。

「「「「…………」」」」

マイル達は、あの異世界から来たヤツのように、ここのオークが強いならば旧大陸のものとは少し違うのではないかと考えていたのである。

なので、解体場の者達、その道のプロが見たならば、『なんだ、この筋肉も腱も発達していない、脂肪でブヨブヨのオークは……』、『突然変異の、ひ弱な個体なんじゃねーか? こりゃ、普通のオークの半分も値が付かねぇよ……』とか言われることを、期待というか、予想していたのである。

……しかし、外見だけとはいえ、解体のプロが大きな差異を認めなかったとなると……。

「謎が謎を呼ぶね……」

メーヴィスが、『にほんフカシ話』でマイルがよく使う言い回しで率直な感想を述べた。

そう、魔物には旧大陸のものと肉体的な差異がないのに。そしてハンターの強さもさほど変わらないのに。

……どうして旧大陸に較べてハンターの被害が大きい?

武器の強度や性能も大して変わらないことは、既に他のハンター達の武器を見せてもらって確認済みである。

「とにかく、当座の資金は確保できたから、今日は宿でゆっくり休むわよ。そして、明日、じっくりと確かめさせてもらいましょ!」

「「「おおっ!」」」

そして、翌日はギルドに顔を出さず直接狩りに行くべく、常時依頼の買い取り価格リストに目を通したり、このあたりの地図や魔物の分布表とかを書き写したり、そして先輩ハンターに一杯奢って話を聞いたりと、万全の準備を進める『赤き誓い』。

いくら強さには 些(いささ) か自信があるとはいえ、この地においては新参者であり、地域特性も何も把握していない。それらをカバーするには、情報収集と事前準備が 大事(だいじ) である。

強さに驕らぬその慎重さは、他のハンター達に好感を抱かせるのに充分であった……。