軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

551 港 町 2

「すまん、本っ当に、すまんかった!」

何とか階段を降りる途中の『赤き誓い』に追い 縋(すが) り、頭を下げて部屋へ戻ってくれるよう懇願した、ギルドマスター。

そして、職員を呼び付けて、最上級の茶葉を使った紅茶と、茶菓子を用意するように指示。

併せて、4人のギルド証を最優先で用意するよう命じていた。

おそらく、少女達の気が変わる前に急いで登録を、とでも考えたのであろう。

まあ、いくら登録を急いだところで、少女達がハンターギルドを脱退するのはいつでも可能である。たとえ『もう登録してしまった』、『登録してすぐに取り消しすることはできない』等と言われたところで、依頼を受注せずに放置しておけば数カ月で登録が失効、自動的に除名処分になるであろうし、ハンター資格維持のための最低限の仕事のみ、つまり数カ月に一度、角ウサギを数匹納入するだけ、とかいう『形だけの所属』にされても、文句は言えないのであるが……。

ギルドとしては、魔物の 暴走(スタンピード) とかの緊急事態において強制的に徴集することができるCランク以上になってもらわないと困るのである。

馬車が行けない現場への補給物資や医薬品の大量輸送能力は、文字通り、多くのハンター達の、いや、町の人々の生死をも左右する。

……なのにギルドマスターがあのようなことをしでかしたのは、受付嬢からの報告を信じていなかったのか、少女達がどこかから送り込まれてきた者達であろうと警戒したか、それともただ単に、最初に威圧して力関係を思い知らせ、自分の指示に忠実に従うようにさせようとでも考えたのか……。

受付嬢の報告通りの能力を持っているなら、売り手市場であり、いつでもどこへでも転職できる。

だからこそ、自分達の価値を知り調子に乗る前に上下関係を刷り込み、そして時々優しくしてやって、依存させる。

受付嬢の報告によると、少しおかしな喋り方や発音から、どこかのど田舎から出てきたばかりのお上りさんであることは、ほぼ確実らしい。ならば、世間知らずの小娘など、赤子の手を捻るより簡単に扱える。百戦錬磨の自分であれば……。

そう考えたのかもしれないが、明らかに相手が悪かった。

相手は、自分達の能力とその価値を充分に理解しており、その上で、 この町に住んでやろう(・・・・・・・・・・) と思ってくれていただけなのである。

そして、もし町が、ギルドが調子に乗って自分達を利用しようとしたならば、この町は捨てて、次の町へ行く。

自分達の能力を理解しているならば、ごく当たり前の判断であった……。

「……まぁ、自分の非を認めて素直に謝るなら、話は聞いてあげるわよ」

「そ、そうか、ありがたい!

いやな、最近はハンターになろうとする者が少なくなってな。そして、引退する者や負傷者、死亡者等も増えて、ジリ貧なんだよ。それで、有望な者が来たら、絶対に逃がしたくなくてな……。

それと、本当に有望な者なのかどうか、確かめたいという気もあった。

考えてもみろ、大容量収納魔法の遣い手を含む、魔物との戦闘経験があるらしき美少女4人パーティだぞ? そんなのが新人として自分のところで登録してくれるなんざ、にわかに信じられるか?」

「「「「…………」」」」

自分の必死の訴えを聞いて黙り込んだ『赤き誓い』に、ギルドマスターは彼女達がその説明に納得してくれたものと思っていたが、実は、いつもキワモノ扱いであり正面からの賛辞にはあまり慣れていない面々が、『美少女』と言われ、少し照れているだけであった。

……しかし、これによりみんなからのギルドマスターに対する心証はかなり良くなったため、意識せずに『美少女』という言葉を口にしたギルドマスターは、非常に幸運であった。

また、見え見えのお世辞ではなく、『意識せずに言った』ということがレーナ達に分かったということが非常に高得点であったということも、幸運を更に後押ししていた。

「……そ、そういうことなら、ま、情状酌量の余地はあるわね……」

レーナ、チョロかった……。

「ええ、このことは『貸しひとつ』として、胸に納めてあげてもいいですよね」

忘れてあげても、とか、水に流しても、とは決して言わないところが、ポーリンらしかった。

「……いや、その説明は一応理解できますが、それと、初対面の者にわざわざ喧嘩を売るような真似をして、初印象を最悪のものにして関係の悪化や決裂を招くような真似をされたこととの繋がりがよく分からないのですが……」

一応、相手をちゃんとギルドマスターとして扱うことにしたため、タメ口で話しているレーナやポーリンとは違って、丁寧な喋り方をしているメーヴィス。

さすが、リーダーだけのことはある。

……いや、貴族の娘としての教育の賜物か、それとも単に性格によるものなのかもしれないが。

「うっ……」

思わず口籠もるギルドマスターであったが、ここに受付嬢からの援護が入った。

「それは、ギルマスが脳筋で、馬鹿だからです!」

「「「「ああ!!」」」」

……みんな、概ね理解した。

そして、受付嬢の説明によると……。

ギルドマスターは、馬鹿には務まらない。

なので、事務方上がりの者が就任するところが多いらしいのであるが、ここでは事務方に適任者がおらず、上位ランクハンターとして皆からの信望が厚く慕われていた、現場叩き上げのこの男が担ぎ上げられたとか……。

頭は良くないが、後輩への面倒見が良く、実力も充分であったため、『頭』の部分は周りの者がカバーするからということで、本人が嫌がるのに無理矢理押し付けられたらしい。

そのため、自分の失敗に関して部下が辛辣なことを言っても怒らず素直に従うので、ミスを指摘する時は、部下達もかなりぞんざいな口を利くようである。

それに、今回は部外者に対する謝罪であるため、いくら上司であっても、身内側を下げた言い方をするのは間違ってはいない。

* *

「……そういうわけで、ハンターの人数が徐々に減少しているのだ……」

あの後、一応和解して、このあたりでのハンターの立場や状況を聞いた『赤き誓い』に対して、色々なことを教えてくれた、ギルドマスター。

お酒を奢って、自分を良く見せようとして適当な話をするであろうハンター達から話を聞くよりは、ギルドマスターに聞いた方が正確で信憑性のある話が聞けるに違いない。

そう考えたレーナ達は、普通であればギルドマスターをそんな用件で利用することなど出来ないにも拘わらず、今回の弱みに付け込み、いいように利用することにしたのであった。

そしてギルドマスターから聞いた話によると、レーナ達の常識に較べ、明らかに魔物との戦いにおけるハンターの被害が大き過ぎた。

護衛依頼による盗賊相手とかの対人戦においては、まあ、大差はない。同じ人間同士の戦いであるので、それは各人の個人的な能力差によるものであり、誤差の範疇である。

……しかし、魔物との戦いにおいては、護衛、討伐、素材採取、その他様々な依頼において、明らかに被害が大きい。これでは、ハンター稼業で生計を立てるどころか、パーティの存続そのものが危うくなるレベルであろう。

武器や防具の損耗、高価な薬品の大量使用、……そして怪我や死亡によるメンバーの欠員。

ハンターにも、必要経費とかリスク管理とかが必要なのである。

そしてそれは、稼ぎが悪い弱い者達、底辺層に、より大きくのし掛かってくる。

強い者は、稼ぎが多く、武器防具の損耗が少なく、薬品の使用量も少なく、そして怪我も少ない。

しかし、弱い者は……。

弱者がすぐに脱落しては、人材が育たない。

経験を積み、だんだん強くなってベテランに育つはずの者達が、初心者のうちに死んだり、廃業したりする。

これでは、ハンターギルドの未来は先細りである。

そしてそれは、魔物の間引きをしてくれる者達がいなくなるということであり、増えすぎたため餌が不足するようになれば、魔物達の 暴走(スタンピード) が起きる。

……由々しき問題であった。

「それって、ハンターが弱いの? それとも、魔物が強いの?」

そして、レーナが根本的な質問をしたが、旧大陸に較べて、という言葉が入っていないため、ギルドマスターには意味がよく分からなかった。

たとえ分かったとしても、旧大陸のことやそこでのハンターと魔物の強さを知らないのでは、答えようがなかったであろうが……。

なので返事ができないギルドマスターを、今度はマイルがフォローした。

「レーナさん、相対的なことは、基準がないと答えようがありませんよ。

勝敗が決した時、勝った方が強かったのか、負けた方が弱かったのか、それは標準的なものが分かっていてこそ言えるものでしょう?」

「……なる程、それもそうね……」

レーナは、ちゃんと納得できる説明をされれば、素直に引き下がる。

そして……

「では、とりあえず……」

「 一当(ひとあ) てしますか!」

一当てとは、『一度相手に仕掛けてみること』、『勝負を 挑(いど) んでみること』である。

相手が強いか弱いかは、戦ってみれば分かる。

「……で、どっちと戦う? 魔物? それとも人間?」

レーナの言葉に、ぎょっとした顔の、ギルドマスターであった……。