軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

550 港 町 1

「「「「「「何じゃ、そりゃあああああ~~!!」」」」」」

この場に居合わせた者達のうち、半数近くの者はその見た目と年齢、そして新規登録ということから『赤き誓い』を全くの新人、ずぶの素人だと思っていた。彼女達の武器や防具の傷やくたびれ具合、それらの装着者への馴染み具合、……そして本人達の身のこなしや周囲への視線等に気付いていなかった、 平均以下(・・・・) の者達は。

……そして、ハンターのうち半数は、平均以下の能力しか持っていないのであった。

(……知ってた……)

負け惜しみで、そんなことを考えている受付嬢であるが、確かに彼女は自分が受け付けた4人の少女パーティが素人ではないことには気付いていた。

いくらハンター登録が初めてではあっても、それはその者が戦いにおいて全くの素人であるということを意味するわけではない。元傭兵、元兵士、元剣術道場の門下生、没落した貴族や騎士爵家の者。……そして、魔物が 跋扈(ばっこ) し、毎日が命懸けである最悪の田舎領に住む開拓民達……。

なので、多くのハンターや職員が気付いていなくとも、言葉を交わし、至近距離で観察し、そして登録申請書を確認した彼女は、この連中が全くの素人ではなく、それなりの経験を積んだ者達だということには気付いていた。新規登録なのは、今までハンターギルド支部などないところで活動していたか、この辺りのハンターギルドとは関係のない、遥か遠くの国からやってきたか、それともハンター以外の職……傭兵や、商家の専属護衛とか……に就いていたか。

しかし、いくら魔物との戦いの経験者だろうとは思っても、まさかの収納魔法持ち、それも数百キロのオークを丸ごと収納できるような馬鹿容量だなどとは、想像の 埒外(らちがい) であった。

いったい、何人にひとりが収納魔法を使えると思っているのか。

そしてその中で、百キロ以上の大容量の者など、何パーセントいると思っているのか。

更に、そんな超稀少能力を持った、若くて見目の良い少女が、どうしてハンターなどになろうとしているのか。

……大店に、高給で。

いや、貴族家の養女に。

いやいやいやいや、王宮から好待遇で。

もしかすると、男爵位の叙爵すら……。

それは、決して大袈裟なことではない。

馬車1台分の荷が、騎馬1頭で超高速輸送。

抜け荷、し放題。

税の抜き打ち査察があっても、証拠の品や裏帳簿を一瞬のうちに隠匿可能。

そして、軍事的にも利用価値は非常に高い。

……少なくとも、そのような能力を持ちながら新人ハンターなどになろうとするのは、正気の沙汰ではなかった。

しかし、人にはそれぞれ事情というものがあり、そしてここ、ハンターギルドにおいては、それを詮索することは 御法度(ごはっと) 中の御法度である。

なので受付嬢は何も言うつもりはなかったが、ただ、ひとつだけ心配なことがあった。

(……まさか、特に事情があるというわけではなく、この子が ただ自分の価値を(・・・・・・・・) 知らないだけ(・・・・・・) ってことは、ないわよねえ……)

……さすがに、それはない。

そう考える受付嬢の耳に、少女の嬉しそうな声が聞こえてきた。

「よし、これで、どこにでもいる、ごく普通の新人ハンターとしての生活、スタートです!」

(ああ! あああああああああっっ!!)

心の中で絶叫を上げて、思わず立ち上がってしまった受付嬢。

まだ、ハンター証が出来るまでには時間がある。

金属のプレートにたくさんの文字を刻印するのだから、ほんの数分で出来上がるものではないし、4人分なのだから、それなりの時間がかかる。

「ちょっと、ここお願い!」

そして、後ろの方で事務仕事をしていた同僚に窓口業務を頼み、ダッシュで駆け去る受付嬢。

急ぎの突発的な仕事が入った時とか、お手洗いの時とかにはよくあることなので、頼まれた同僚は不思議にも思わず頷き、いつものように席が空いた受付席に座り込んだ。

……ただ、いつもと違っていたのは、駆け去った受付嬢の行き先が、お手洗いではなくギルドマスターのところであったということだけであった……。

* *

「……で、どうしてここへ?」

ギルドマスターの執務室へ通されただけで、まだ席に着くことも促されていない状態で、メーヴィスが疑問を口にした。

無理もない。

新人がハンター登録しようとしたら、いきなりギルドマスターの執務室に連れて行かれた。

そんなもの、新入生が登校初日に学校長に呼び出されたのと同じである。

気の弱い新人であれば、ビクビクと怯えて当然であろう……。

……勿論、『赤き誓い』には、そんな者はいないが。

それに、似たようなことは、既に何度も経験済みであった。

「…………」

ギルドマスターは、メーヴィスの問いを無視して、じろりと『赤き誓い』を 睨(ね) めつけた。

迎えの言葉どころか、着席も促さず、ただ無言で……。

「「「「…………」」」」

ギルドマスターの無礼な態度に、メーヴィス達も、ただ無言で相手を見詰めるのみ。

別に、自分達から何かを言う必要はない。

用があって呼び付けたのは向こう側なのであるから、何かを言うのは向こう側の役目である。

しかも、こちらからは無言のギルドマスターに対して、メーヴィスがわざわざ話し掛けている。

勿論、少しぞんざいな言葉遣いではあるが、それは向こう側の態度に合わせただけである。

いくら相手がギルドマスターであっても、 謂(い) われのない無礼な態度を取られて、素直に頭を下げるような『赤き誓い』ではない。

それに、まだオークの査定が終わっておらず、ハンター証も受け取っていない。

なので正確には、現時点では『赤き誓い』はハンターではない。

つまり、まだギルドマスターの隷下ではなく、ただの一般市民である。

もし難癖を付けられたり無理難題を押し付けられたりすれば、それを理由にして、このままハンター証を受け取らずに ギルド支部(ここ) を出て、他の町へ行って登録すればいい。

登録処理が終わる前にギルド支部の方から難癖を付けられたのであれば、登録はキャンセル、無効にしても問題ないであろう。

そして、他の町での登録の際に『あの町で登録しようとしたら、おかしなことをされた』とでも言えば、少女4人のパーティであることから、何となく察してもらえるであろう。

ここのギルドマスターには都合が悪く、そして『赤き誓い』には都合の良いように解釈されて。

……まだ何も喋らないギルドマスター。

そして……。

「帰るわよ。ここは威圧や試し行為で新人を 玩具(オモチャ) にするようなギルドマスターが仕切っているところみたいだから、私達が所属するには値しない町よ。

宿の予約はキャンセルして、このまま次の町へ移動、そこで登録しましょ」

「「「おお!」」」

そして、ぞろぞろと部屋から出ていく『赤き誓い』一同。

その後ろ姿を、ぽかんとして見送るギルドマスターと受付嬢。

「……ま、待て! 待ってくれ!!」

はっと正気に戻り、慌てて引き留めの声を掛けるギルドマスター。

当たり前である。

新規登録に来た、新人の若い少女達を自室に呼び付けての威圧行為。

他の町の支部でおかしな説明をされれば、誤解を生みかねない。

それに、それ以前の問題として……。

(大容量収納魔法の遣い手を、馬鹿な試し行為をやって 逃(のが) したなどということが知れ渡れば、近隣の支部から笑い物だ! いや、それだけならまだしも、この町に利益をもたらしたはずの逸材をわざわざ追い払うような真似をしたということで、領主様からのお怒りが……。

それに、この件でハンターという職に見切りを付けて他の職に就かれたりすれば、ギルドでの私の立場が……)

「待って! 悪かった! お願いだから、待ってくれええぇ~~!!」

大慌てで『赤き誓い』の後を追いかける、ギルドマスターであった……。