軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

545 大脱走……新たなる旅立ち

「……こっちよ!」

「あ、レーナさん! メーヴィスさんと、ポーリンさんも! お久し振りです!!」

ここは、ティルス王国の王都の近くにある、森の中である。あの、獣人の村がある……。

さすがに、あれだけ大画面で大陸中に顔を映されては、王都内で落ち合うことは不可能である。

いや、マイルだけであれば光学迷彩や 顔の偽装(フェイスチェンジ) でどうにでもなるが、他の3人にはそれは不可能であるし、変装したマイルを他の3人が見つけることもできない。

なので、森の中で落ち合うことにしたのである。

それに、その後の行動計画からも、その方が都合が良かった。まだ、マイルしか知らない計画であるが……。

「おそらく検閲されているであろう手紙じゃ、そのものズバリを書くことはできなかったけど、……みんな、考えは同じよね?」

レーナのいきなりの本題に、こくりと頷く3人。

「貴族の生活は、退屈だったよ……」

「御使い様の仕事は、もっと退屈ですよ……」

「自分の力とは関係なく、配慮されての儲けなんて、イライラが 募(つの) るだけで、楽しくも何ともないですよっ!」

「「「「だよね~!」」」」

「というわけで、手紙に仕込んだ暗号に気付いて、それに飛び付いて 抜け(にげ) だしてきたみんなには、今更聞くまでもないんだけど……」

そして、にやりと笑って 八重歯(キバ) を剥き、言葉を続けるレーナ。

「領地は代官に任せて、もうしばらくハンター生活を続けてみない?」

「「「おおっ!!」」」

……と、息の揃った『赤き誓い』の4人であるが……。

「でも、ハンターを続けると言っても、私達の顔は大陸中に知れ渡っていますよね?

変装しても、若い女性の4人組で活躍すれば、いくら偽名でハンター登録をやり直したところで、すぐにバレちゃいますよね? 4人揃って逃げ出して、行方不明なんですから……」

「ああ。それに、そもそもFランクハンターとして新規登録してパーティを組んだ時点で、バレそうな気がするよね。ギルドの受付嬢も、馬鹿じゃないんだから……」

「問題は、それなのよねぇ……。今更、Fランクで登録して薬草採取、でもないしねぇ……。

スキップ登録なんかすれば、一発でバレるしねぇ……」

ポーリン、メーヴィス、レーナの3人が、そう言ってため息を吐くが……。

「あ、私はバレていませんよ、抜け出したこと……」

「「「えええええっ?」」」

「身代わりを置いてきましたから。魔法で造った、私そっくりの代役、『マイル001』を!」

「「「…………」」」

何のことだか分からないが、『まぁ、マイルだから……』ということで、突っ込みも、考えることも放棄した、レーナ達。

レーナ達3人は、置き手紙によって、領地経営はそれぞれ代官や父、兄達に全てを委任すること、そして自分が死んだ場合には、ポーリンの場合は弟に、メーヴィスの場合は次兄に爵位を継がせることを明記しておいただけである。

レーナは天涯孤独であるため、その場合、爵位は返上すると書いていた。

「そして、顔バレの心配はありません。

私達の顔がバレているのは、 この大陸だけですから(・・・・・・・・・・) ……」

「「「……え?」」」

「いえ、ですから、私達の警告放送も、あの戦いの実況中継も、放映されたのはこの大陸においてのみです。他の大陸ならば、私達は完全に無名の一般人、モブですよ!」

「「「えええええええっ!」」」

「よく考えてみると、人間達は『世界中の~』とか言ってましたけど、ナノちゃん達は常に『この大陸中の~』って言ってたんですよね。

それで、後でよく聞いてみると、あの映像とか音声とかを流したのはこの大陸だけだったらしいんですよ。

確かに、私達のことを知っている人もおらず、今回の件に関係のない他の大陸にあの映像を流したところで、何のことやら全然分からないでしょうし、何の役にも立ちませんからね。

……つまり、他の大陸では、私達は誰にも知られていない無名の新人、というわけですよ!」

「……新人って言ったって、何の新人よ。こことは違う大陸にはハンターギルドなんかないでしょ。

そもそも、言葉も通じないんじゃないの?」

レーナがそう言って突っ込むが、マイルはそれを軽くいなした。

「ちっちっち! この世界は、昔はひとつの文明圏だったのですよ。それが、前回の異次元世界からの侵攻でボロボロになって、その後次第に文明が後退して大陸間の交流もできなくなったんです。

だから、言葉は同じですし、大陸間の連絡や行き来ができなくなるまでに作られた組織は、向こうの大陸にも似たようなものが存在していてもおかしくはありませんよ!」

マイルが自信たっぷりにそう断言するのは、勿論、ナノマシンに聞いて他の大陸の状況を確認済みだからである。

元の言葉が同じであるため、発音が少し変わっていたり、 一旦(いったん) 失われて再発見されたものの名前が変わっていたりはするが、それも『羅針盤』が『方位磁針』、『示北盤』とかに変わる程度であるらしい。

つまり、同じ言語を使う者が同じような発想で名付けるため、長い年月に亘り隔離されていたにも拘らず大した差異が生じておらず、方言程度の感覚で会話が可能なのである。

そして他の大陸にも魔物がおり、ハンターギルドがあるということも確認している。

今回の魔物の侵攻はこの大陸だけであったが、魔物は元々他の大陸にもいるのである。

今回は緒戦で次元の裂け目を叩き潰したが、あのまま放置していた場合、世界中に次元の裂け目が開かれたのか。

それとも、前回はこの大陸中に広がった魔物が海を渡って他の大陸にも広がったのか。

当時はまだ運行していたであろう船舶や輸送機に紛れたり、あの機械知性体が何らかの方法で運んだりして……。

とにかく、そういうわけで、他の大陸もここと似たような社会形態らしいのである。

「……移動は、どうするのよ。そんな、誰も行ったことのない遠くの大陸まで、どうやって……」

「ケラゴンさんに運んでもらいます!」

権限レベルが戦時叙任を含めた処置により7となり、戦後もそのまま事後承認で7のままとなったマイルには、ナノマシンによって遠方に音声や映像を送るという方法が使える。

つまりマイルは、古竜のケラゴンを呼ぶ方法を手に入れたわけである。

『水平方向に落ちる』という移動方法は、さすがにあまりにも常軌を逸しているため、自分ひとりだけの時以外は自粛したようである。

「「「…………」」」

他の大陸。

未だ見ぬ、新たな冒険の世界。

皆、身体と心がうずうずするのを感じていた。

その様子を見て、マイルは思った。

(よし、みんな乗り気だ!)

そして、レーナが口を開いた。

「そういえばマイル、あんたエクランド学園の生徒指導室に行かなきゃならないんでしょ?」

「誰が行くかああっ!

……反省文の提出で許してもらいましたよっ!」

急に、機嫌を損ねたマイル。

「……では、合意とみてよろしいですね?」

「「「おおっ!!」」」

そして、気持ちを切り替えたマイルの言葉に、右腕を天に突き上げて、声を揃えるみんな。

「では、ケラゴンさんを呼びます!」

「展開、早過ぎない? 準備とかは……」

あまりの急展開に、少し戸惑うメーヴィスであるが……。

「食料も必要な装備も、全部私の 収納(アイテムボックス) の中ですから、問題ありません。

お金も、みんなで分けたうちの私の取り分は全部そのまま残っていますし、狩った獲物や採取物の一部も残っていますから、向こうに着いてすぐに換金すれば初期資金は大丈夫ですよ」

レーナ達は、金貨やオリハルコン貨を持てるだけ持ってきているが、分けた資金の大半は領地の邸に残してきている。

全部持ち出すのは心苦しかったし、そもそも、全て持つことは物理的に不可能だったからである。収納魔法もアイテムボックスもないレーナ達には……。

「……ごめん、私は一部しか持ってきてないわ……」

「私もです……」

「私も……」

「まあ、私みたいに収納魔法が使えるわけじゃないですから、仕方ないですよ。

それに、他の大陸だと通貨としては使えないでしょうから、ただの金の地金としての価値しかありませんしね。それも、どれくらいの価値かも分かりませんし……。だからお金はこっちに置いておくのが得策ですよ。別に二度と戻って来ないというわけじゃないんですから。

それに、向こうでは無一文として最初から始めた方が楽しそうじゃないですか……、あ!」

レーナ達が、全財産……領の予算ではなく、ハンターとして貯めた個人資産……を一部しか持ってきていないのは当然のことであると言い、更にフォローしようとした言葉を途切らせたマイル。

「……どうしたのよ?」

レーナの質問に、少し自信なさそうな顔で答えるマイル。

「……あの、皆さん、あの戦いの前にナノちゃんと契約してレベルアップしましたよね?

それなら、今は収納魔法が使える可能性が……」

「「「えええええええっ!!」」」

そう。そうである。

以前、レーナとポーリンがマイルに教わって収納魔法に挑戦した時には、ふたりとも失敗に終わった。

……しかし、権限レベルが2となった、今なら?

権限レベル2ではナノマシンと直接会話することはできず、マイルのように異次元空間をアイテムボックスとして使用することはできない。マルセラ達のように、マイルがナノマシンに特別な指示を出さない限り。

……しかし、普通の収納魔法であれば……。

ぎぎ。

ぎぎぎぎぎ……。

レーナとポーリンの首が、 軋(きし) みを立てるような動きでマイルの方に向けられた。

「マ、マイル……」

「マイルちゃん……」

「こ、怖い! 怖いですよ、レーナさん、ポーリンさん!!」

* *

逸(はや) るふたりを何とか説得し、収納魔法については色々と確認する必要があるから後日ゆっくりと、ということにしたマイルは、早速、ケラゴンを呼ぶことにした。

方法は簡単、権限レベル7によってナノマシンネットワークを利用し、遠隔地に映像と音声を送るだけである。

具体的に言うと、ケラゴンの顔の前に小さなスクリーンを形成して映像を映し、お話しするだけ。

あの、大陸全土に放送した時とは違い、今回は双方向通信である。

……そして、連絡してしばらくすると、ケラゴンがやってきた。

『世界の守護者、マイル様! お呼びいただき、光栄の至り!!』

益々腰が低くなっている、ケラゴン。

それも当然であろう。

何せ、以前はケラゴンが個人的に感謝していただけであったが、今はマイルは世界を救った御使い様であり、古竜にとっては造物主から与えられた命令、自分達の存在意義に関わる使命を果たすための力添えをしてくれた、恩人である。

『あ、これ、うちの氏族の名誉評議委員の 証(あかし) である、宝玉です。以後、名誉古竜を名乗っていただいて結構です』

そう言って、何やら 竜の宝玉(ドラゴンボール) を差し出してきた、ケラゴン。

あの、族長達の爪や角に彫り込みを入れてやった時に貰ったものとは全然違う、綺麗なやつである。

「「「「何じゃ、そりゃあああ!!」」」」

そして、思わず叫ぶ、『赤き誓い』一同。

……遂に、名誉古竜になってしまったらしい、マイル。

まあ、仕方ないであろう。古竜としても、御使い様とは懇意にしている、ということにしておきたいであろうことは、理解できる。

「じゃあ、伝えた通り、他の大陸まで私達を運んでもらえる?」

『はっ! 昔、他の大陸に行ったことがある年寄り達に話を聞いておきました。飛行には問題ないかと……。

方角は、どちらの大陸に参りましょうか?』

それは、既に考えてある。

北は寒いし、南は暑い。ならば、行き先は……。

「西! 西方の大陸へ!!」

* *

魔族の居住地へ行った時よりも高い高度を飛ぶ、ケラゴン。

その方が空気抵抗が小さいから速度が出るし、見晴らしもいい。

寒さと空気の薄さは、ケラゴンとマイルが二重に張っている障壁魔法と、マイルの温風魔法、空気圧縮魔法によりカバーされているため、問題ない。

レーナの『雷の鳥事件』による高所に対する恐怖心も、前回の魔族居住区行きの時に克服済みである。それに、中途半端な高度よりも、ずっと高い方が却って恐怖心は少ないものである。

そして視界内は何もない海面だけとなり、マイルは退屈凌ぎに色々なことを考えていた。

(スカベンジャーとゴーレムが味方だということが知れ渡ったから、あちこちにある遺跡に悪い人達が手出ししないか、心配だなぁ。忍び込んでも殺されることはないだろう、とか甘く考えて……。

金目のものとか、稀少金属とかを盗もうとしたり……、って、鉄でさえ、スカベンジャー達が造るものは人間やドワーフが造るものとは桁違いの純度だから、遺跡狙いの盗掘者、トレジャーハンターは、確実に現れるよねぇ……。

何か、遺跡を護る組織を立ち上げた方がいいかなぁ。

組織の名前は、ええと……、『アスカム財団』!!)

マイルは、この名前が閃いたことに狂喜した。

……そう、あの『とある魔法の 超火焔砲(レーナガン) 』を思い付いて以来の喜びようであった。

(実働部隊の通称、『スプレイガン』にしたろ……)

* *

かなりの時間飛行して、皆が完全に退屈していた頃……。

「あれ? マイル、あれは何だと思う?」

いつも真っ先に獲物を発見するメーヴィスが、前方の海面を指差しながら、そんなことを言ってきた。

視力的にはマイルの方が上であるはずなのに、なぜかメーヴィスは獲物を発見するのがマイルより早いのである。……勿論、マイルが探索魔法を使っている場合は除くが……。

「……ん? ええと、あれは……、ケラゴンさん、方位をやや左に変更! 高度を下げながら全速力! 船が襲われています!!」

『了解!』

「皆さん、 空挺降下(エアボーン) 用意!」

「「「おおっ!!」」」

接近すると、詳細が見えてきた。

20トンそこそこの、沿岸航路用の小型船のようである。

……いや、マイルにとっては小型船でも、この世界においては大型船なのかもしれないが……。

襲っているのは、数匹のシーサーペント。

シーサーペントというのは、『海棲の、細長く巨大な体を持つ 未確認生物(U M A) 』の総称なので、別に特定の魔物を指す名称ではない。

それが、船を襲っている。

「メーヴィスさん、 抜剣(ばっけん) ! レーナさん、ポーリンさん、攻撃魔法、詠唱開始!

以前説明しました通り、私の重力魔法と風魔法で、降下速度は完全に制御します。

なので、心配することなく飛び降りてください!

間もなく、オントップ! 降下よ~い、……3、2、1、 吶喊(とっかん) !」

「「「「うおおおおおぉ~~!!」」」」

かなり高度を下げ、海面まで50メートルくらいになったケラゴンの背から、躊躇うことなく飛び降りた、『赤き誓い』の4人。

勿論、マイルとケラゴンが張っていたシールドは解除済みである。

あのレーナでさえ、平気な顔で飛び降りた。それは、マイルのことを無条件に信じているが 故(ゆえ) であろう。

……それに、マイルには対ロブレス戦において落下する身体を魔法で支えた実績もある。

シーサーペントと戦うのに必死であった船の乗員達は、無音で降下してきたケラゴンには全く気付いていなかった。

そして、 裂帛(れっぱく) の気合と共に降下してきた4人の少女達に気付き、空を見上げ、……その視界に映った古竜の巨体に凍り付いた。

その隙を 衝(つ) いて乗員達に襲い掛かる、シーサーペント。

しかし……。

「斬竜剣!」

「竜滅剣!」

「アイス・カッター!」

「ウォーター・カッター!」

空から 降(ふ) ってきたのは、心優しい平和主義者の天使達ではなかった……。