軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

544 そして半年後……

「では、皆さんに良い風が吹きますように……」

わああああああ~~っ!!

湧き上がる眼下の群衆に向かって手を振り、仮設の建物のベランダから奥へと下がる、銀髪の少女。

「あ~、退屈……」

【我慢してくださいよ、マイル様……】

……そう、あれから半年。

マイルは、ティルス王国、ブランデル王国、アルバーン帝国の3国が接する場所に建立されつつある神殿の隣に大急ぎで建設された、本殿が完成するまでの 間(ま) に 合(あ) わせの御使い様の居住場所である、仮設神殿に住んで……、いや、 住まわされて(・・・・・・) いた。

全ては多くの死者と土地の荒廃をもたらした戦いで荒れた人心を癒やすため、と押し切られ、こうして毎日、『御使い様としてのお勤め』に従事させられているわけである。

勿論、ブランデル王国にあるアスカム領や、ティルス王国で新たに与えられた『アスカム伯爵領』の領地経営などできようはずもなく、それらは全て、それぞれの国王が派遣してくれた代官に任せっきりである。

ちなみに、マイルの呼び方は、ブランデル王国においては『アデル・フォン・アスカム女侯爵』であり、その他の国では、『マイル・フォン・アスカム女伯爵』、もしくは『マイル・フォン・アスカム女侯爵』である。

あくまでもマイル……アデルは自国の貴族であるとの主張を貫くブランデル王国と、それを無視するその他の国々の姿勢が、よく表れている。

そして……。

「退屈だよぅ……」

これである。

そもそも、マイルに神殿での生活など、無理である。

どこからか湧いて出た『神官』、『巫女』、その他諸々に色々と指図され、作法やら神事やらを教え込まれ、どこかの王族やら大貴族やら教皇やら大商人やらと会わされ、つまらない話やお誘いを聞かされる。

そこにもふもふはないし、幼女はいない。

……そこにもふもふはないし、幼女はいないのである!!

* *

「退屈だわよ……」

既に『伝記・「赤き稲妻」と私~赤のレーナの半生~』を書き上げ、マイルの紹介によりオルフィス出版から刊行した、レーナ・フォン・レッドライトニング女伯爵。

……勿論、大ヒットである。

あの『世界を救った大英雄』のひとりが書いた自伝であるから、当たり前である。

重版に次ぐ重版。

大陸中で売れまくり、この本を置いていない図書館などない。

……そう、レーナは既に、人生の目的を果たし終えてしまったのである。

『見果てぬ夢』が、果ててしまった……。

「領地経営なんて何も分からないから、王様が派遣してくれた人に丸投げだし……。

退屈だぁ……」

* *

「退屈だなぁ……。

私は、何というか、こう、血湧き肉 躍(おど) る大活躍をして、人々に喜ばれ、みんなと和気あいあいの生活がしたかったのであって、別に領地経営で忙しい、デスクワークの日々を求めていたわけじゃないよ……。おまけに……」

「メーヴィス、そろそろ食事の時間だよ。今日はカリオス侯爵家の方々が来られているから、失礼のないようにね」

……上兄様に何かあった場合に備えて、領主教育を受けている中兄様が、領地経営や貴族としての付き合いのコーチとして派遣されてきているのである。

そして、その貴族としての付き合いというのが、モロに、メーヴィスを狙った嫁取り合戦なのである。

「あああ! 助けて、マイルうぅ……」

メーヴィス・フォン・マイレーリン女伯爵。

新たな貴族家の創設において、その家名に友たちの名を戴いた、メーヴィスであった……。

* *

「つまらないです……」

領地邸の自室で、執務席に座りそう溢す、ポーリン・フォン・ベケット女伯爵。

領地の運営の大部分は、国王が派遣してくれた代官に任せ、自分は領地運営の勉強をしつつ、領都に自分の店、『聖女屋』をオープン。

領地の運営費と自分の個人資産で開いたため、領主とポーリンの共同出資の店である。

……同一人物なので、事実上、自分の思い通りになる店であるが。

なので、利益は出資比率に応じて、領の運営費に入る分と、ポーリンの個人資産になる分とに分かれる。そのあたりは公明正大、正直に計算するポーリンである。

領主が、そして世界を救った大英雄にして御使い様の仲間のひとりが経営する店にちょっかいを出したり騙したりする者がいるわけもなく、商売は順調に利益を出し続けていた。

……が。

「面白くないです! こんなの、スリルも商売の楽しさも全くありませんよっ!!」

……そう、商人として、全然楽しくもなければ、嬉しくもない。

そして、退屈を持て余すようになっていた……。

* *

「マイル様、お手紙が届いています」

巫女のひとりが、銀のトレイに載せた手紙を 恭(うやうや) しく捧げ持って、自室でくつろいでいたマイルに差し出してきた。

……勿論、差出人は身元の確かな者である。

何とかマイルとお近づきになりたいと考える商人や貴族、その他諸々からの手紙が殺到しているが、それらは全てマイルの手に届くことなく、神官達の手により処分されている。

もしかすると、学生時代の友人やハンターの知り合い、仲の良かった街の人達やレニーちゃんからの手紙とかも、届くことなく処分されている可能性もある。それらはちゃんと届けるように、と指示してはあるのだが……。

それらもまた、マイルがここでの暮らしが嫌な理由のひとつであった。

しかし、今届いた手紙は、決して途中で処分されることのない差出人からのものであった。

……至高の4英雄。

そう、『赤き誓い』の仲間からの手紙であった。

「あ、レーナさんからだ! 何々……」

巫女から手紙を受け取ったマイルは、大喜びで封を切ると、中の手紙を握り締めてベッドに飛び込んだ。

最近元気のないマイルが、『赤き誓い』の仲間達からの手紙が届いた時には元気になるので、手紙を届けた巫女は少し微笑んで、静かに退室した。

「え~と、前回の手紙では、確かいつものように『退屈だわよ!』で始まり、『退屈だわよ!』で終わってましたよね……。まあ、メーヴィスさんやポーリンさんからの手紙も、同じような感じですけど……」

自分がみんなに出す手紙も似たようなものなのに、そんなことを呟くマイル。

そして、ベッドに寝転んだまま、手紙を読み続けると……。

「ふむふむ、なる程……。

まぁ、そうだよねぇ。そして、……おお!

あは。あはははは!」

(ナノちゃん!)

【はい!】

(アレ、すぐに使える状態かな?)

【アレ、と申しますと……?】

(以前造ってもらって、一度だけ使って、お蔵入りしたやつ。……確か、生体ロボット『マイル001』って言ってたやつよ、『序盤に』さんがひと晩で造ってくれたやつ! あれの出番ですよっ!)

【……おお! おおおおおおおっっ!!】

ナノマシン、歓喜!

遂に、アレの再登場。活躍の場が与えられる!!